(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月12日10時30分
北海道苫小牧港
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートコムカラ |
登録長 |
4.43メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
44キロワット |
3 事実の経過
コムカラは、船体前部に風防ガラス付き操舵スタンドを、その後方に船尾甲板をそれぞれ有し、トランサムに船外機を取り付けたFRP製モーターボートで、A受審人(平成13年7月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成15年11月12日09時00分苫小牧港第4区の東港地区内防波堤(A)と中央ふ頭とに囲まれた船だまり内奥の砂浜を発し、その2.5海里ばかり南西方となる東港区中防波堤沖合の釣り場に向かった。
ところで、船外機用のバッテリーは、船尾甲板の後端に横幅一杯に備え付けられた、高さ、奥行きとも30センチメートルの長いす下部右舷側に置かれ、ベルトや金具等で固定されないまま電線で船外機に接続されていた。また、長いす下部には覆いがなく、船首側が開放されていたことから、バッテリーは波しぶきや雨水などに晒されており、電線接続部がビニールテープで何重にも巻かれていたものの、いつしかバッテリー負側に接続された電線の圧着端子と、絶縁皮膜で覆われた部分との間が腐食し始め、電線が同箇所で折れ曲がったりすると、断線に至る状況となっていた。
A受審人は、平成13年7月、友人2人と共同でコムカラを購入して以来、自宅で同船を保管し、釣りを行うときは同船をキャリアに積み、苫小牧港まで搬送して使用しており、船体の水洗い、機関の塩抜き、オイル交換等の整備はときおり行っていたが、バッテリーの電線接続部については、その部分がビニールテープにより何重にも巻かれていたことから、内部まで海水等が浸入して腐食、接触不良を起こすことはあるまいと思い、コムカラ購入以来一度もビニールテープを開放するなどして同部の点検をしたことはなく、当日もそのまま同船に乗り込んで発航したことから、前示状況に気付いていなかった。
09時15分A受審人は、東港区中防波堤西端の南方800メートルの地点に至って漂泊し、釣りを始めたが、釣果が得られず、同時55分船外機を始動して東港地区東防波堤南方の、苫小牧港東港地区東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から091度(真方位、以下同じ。)1,400メートルのところに移動し、船外機を停止して漂泊するとともに再び釣りを開始した。
これより先、A受審人は、最初の釣り場において長いす下部左舷側に置いた燃料タンクを足で動かそうとしたところ、その右舷側に置かれたバッテリーが倒れたが、これを認めなかったため、そのまま2回目の釣り場へ移動していた。
A受審人は、釣りを再開してまもなくバッテリーが倒れているのを認めて元の位置に引き起こしたところ、電線がバッテリー接続部分で折れ曲がることとなり、負側電線は、同部付近において完全に断線した状態となったが、ビニールテープに覆われた箇所であったため、これに気付かないまま釣りを続けた。
10時30分A受審人は、以前から釣りの約束をしていたコムカラの共同購入者である友人2人を発航地点まで迎えに行くこととし、船外機のスターターを回したが、始動せず、コムカラは東防波堤灯台から091度1,400メートル地点において運航が阻害された。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
この結果、コムカラは、徐々に南東方に圧流され始め、A受審人は、予備のバッテリーと交換するなどしたが、バッテリーの電線接続部分の断線に思い及ばなかったことから、不具合箇所を発見することができず、10時50分携帯電話で発航地点で待機中の友人に状況を伝え、別のボートを手配して救助に来るよう要請したものの、同ボートではコムカラを探しきれず、14時00分友人が苫小牧海上保安署に救助を依頼し、同時25分コムカラは、東防波堤灯台から132度2.5海里の地点において航空機に発見され、巡視艇等により発航地点に引きつけられた。
(原因)
本件運航阻害は、北海道苫小牧港において、発航する際、船外機用バッテリーの電線接続部の点検が不十分で、同港内の漂泊地点において船外機を始動できなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道苫小牧港において、魚釣りのため発航する場合、船外機用バッテリーの電線接続部の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同部にビニールテープが何重にも巻いてあるから、その内部が腐食して接触不良になることはあるまいと思い、同部の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、バッテリー接続端子付近の電線の腐食進行に気付かずに同港内で魚釣り中、腐食部分が断線し、船外機を始動できずに運航阻害を招き、数時間にわたって漂流したのち海上保安部の航空機に発見され、来援した巡視艇等により発航地点に引きつけられるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。