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平成16年那審第17号
件名

モーターボート ティー.ダブリュー.ビー.シー運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成16年7月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉崎忠志)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:ティー.ダブリュー.ビー.シー船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:給油所店員

損害
運転不能

原因
燃料油タンク給油時における、給油所に対する油種についての指示不十分及び給油所店員の油種についての確認不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、船外機を装備したモーターボートの燃料油タンクに給油する際、給油所に対し、油種についての指示が十分でなかったことによって発生したものである。
 給油所店員が、接客時に油種についての確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月3日10時05分
 沖縄県国頭郡金武町伊芸南側海岸沖
 
2 船舶の要目
船種船名 モーターボートティー.ダブリュー.ビー.シー
全長 6.68メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 73キロワット
回転数 毎分5,500

3 事実の経過
 ティー.ダブリュー.ビー.シー(以下「ボート・ティー」という。)は、E社が製造した、艇種をAG-21-O/Bと称する幅2.30メートル、深さ1.10メートル、最大とう載人員8人のFRP製モーターボートで、甲板上には、船首方から順に船首格納庫、上方にウェイクボードゲートを取り付けたコックピット、次いで腰掛けなどを設けたオープンスペース、燃料油タンクなどを収めた船尾格納庫をそれぞれ備え、トランサム中央に船外機を装備していた。
 コックピットには、右舷側に操縦席を設け、同席の前部に舵輪、船外機の回転計、燃料油量計及び電圧計などの計器類並びに発停スイッチを組み込んだ遠隔操縦装置を備えていたほか、同席右舷側の舷側にスロットルレバーを備えていた。
 船外機は、ガソリンを燃料とする、E社が製造したF100A型と称する4サイクル4シリンダの電気点火機関で、容量120リットルの燃料油タンクから取出弁及びプライミングポンプなどを経てガソリンが供給されるようになっていた。また、同タンクの残量は、コックピットの燃料油量計で確認するようになっており、給油装置として、船尾格納庫頂面の右舷寄りに同タンクの給油口が設けられていた。
 ところで、ボート・ティーは、平成13年10月に沖縄県那覇市に住むCほか9人が主にウェイクボーディングを行う目的で共同購入し、その代表として同人名で登録され、同市真嘉比の駐車場にトレーラに乗せて保管されており、本船を使用する際には、乗り組む者が海岸までトレーラを車で牽引(けんいん)する途中、給油所に立ち寄るなどして燃料油タンクにガソリンを給油することが共同購入者間で取り決められていた。
 A受審人は、ウェイクボーディングの愛好者で、同10年10月に四級小型船舶操縦士の免許を取得しており、ボート・ティーの共同購入者の幾人かと友人関係にあったことから、同13年11月ごろから休暇を利用するなどして本船を借り受け、船長として乗り組んでいた。
 指定海難関係人Bは、同年7月からDが経営する給油所の店員としてアルバイトを始め、翌14年12月に正社員に昇格して給油業務に就いており、接客時に油種及び油量を十分に確認したうえで、注文に応じて、ガソリンが赤色及び黄色、軽油が緑色にそれぞれ塗布、色別された給油用ノズルガンを燃料油タンクの給油口に挿入することなどを上司から指導されていた。
 同15年7月3日08時00分A受審人は、ウェイクボーディングを行う目的でボート・ティーを借り受け、友人2人を同行し、本船を乗せたトレーラを車に連結して那覇市真嘉比の駐車場を発し、沖縄県国頭郡金武町伊芸南側海岸(以下「南側海岸」という。)に向かい、その途中、同県宜野湾市大山にある給油所に立ち寄って燃料油タンクに給油することとしたが、これまで給油時に油種の間違いがなかったので大丈夫と思い、接客に当たったB指定海難関係人に対し、油種についての指示を十分に行うことなく6,000円分給油することのみを伝えた。
 一方、B指定海難関係人は、軽油を給油するよう指示されたものと思い込み、接客時に油種について十分に確認しないままボート・ティーの船上にいたA受審人に緑色の給油ノズルガンを渡して給油を開始したので、残量約20リットルのガソリンが入っていた燃料油タンクに軽油73.8リットルが給油された。
 こうして、ボート・ティーは、09時30分ごろ南側海岸に着いてトレーラから海上に下ろされ、A受審人が船長として乗り組み、友人2人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、10時00分船外機を始動し、船外機の回転数を毎分約800にかけて沖に向け航行を開始したところ、燃料油管系に軽油が流入して船外機の燃焼が著しく阻害され、10時05分金武中城港金武火力発電シーバース灯から真方位291度2.4海里の地点において、船外機が自停して航行不能となった。
 当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、海上には少し白波があった。
 操縦席にいたA受審人は、船外機が自停したことから点火プラグなどを点検したが、異常個所を発見できず、燃料油タンクの給油口蓋を開放して鼻を近づけた結果、ガソリンにかえて軽油が給油されていることに気付き、運転不能と判断して海上保安庁に救助を要請した。
 ボート・ティーは、来援した巡視艇により南側海岸に引き付けられ、のち船外機、燃料油タンク及び燃料油管系などの洗浄が行われた。 

(原因)
 本件運航阻害は、船外機を装備したモーターボートをトレーラに乗せて車で牽引中、給油所に立ち寄って燃料油タンクに給油する際、油種についての指示が不十分で、ガソリンにかえて軽油が給油され、船外機の燃焼が著しく阻害されたことによって発生したものである。
 給油所店員が、船外機を装備したモーターボートの燃料油タンクに給油するに当たり、接客時に油種についての確認を十分に行わないまま、同タンクに軽油を給油したことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、モーターボートをトレーラに乗せて車で牽引中、給油所に立ち寄って燃料油タンクに給油する場合、異種の燃料油が給油されることのないよう、給油所に対し、油種についての指示を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで給油時に油種の間違いがなかったので大丈夫と思い、給油所に対し、油種についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、ガソリンにかえて軽油が給油され、船外機の著しい燃焼阻害を招き、船外機が自停して航行不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、接客時に油種についての確認を十分に行わないまま船外機を装備したモーターボートの燃料油タンクに軽油を給油したことは、本件発生の原因となる。





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