(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月22日11時00分
和歌山県潮岬西方沖合
(北緯33度27.8分東経135度36.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船晃昇丸 |
総トン数 |
748トン |
全長 |
75.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
(2)設備及び性能等
晃昇丸は、平成9年6月3日に竣工した船尾船橋型の砂利、石材運搬船兼水中地均し船で、船首部から揚錨設備、スラスター、回転式起重機を配し、船体中央には長さ24.0メートル幅13.0メートル高さ7.1メートルの船倉1つを有し、船倉前部右舷側には船倉と隣接して仕切りのない、幅4.5メートル高さ6.0メートル長さ7.2メートルの、コンクリート用骨材や護岸工事用資材の積載に使用する、タイヤショベルを格納する空所(以下「格納室」という。)が設けられていた。
(3)その他
ア 浚渫土砂の土運船への積取り要領
C社の親会社であるD社(以下「D社」という。)は、陸上や海上の建築・土木作業に従事する会社で、浚渫土砂の品質管理及び積込みの工程管理等にあたり、和歌山県日高港の浚渫土砂は、水分を多量に含んだ泥やヘドロ分が多く、船体の動揺に伴って流動化するおそれがあるため、土運船に積取った後、1日以上静置して土質の含水比を減少させたうえ、晃昇丸に積込むようにしていた。
イ 浚渫土砂の積載要領
晃昇丸の積載は、浚渫土砂1,200立方メートル約1,920トンを、これまでの経験から、船倉前部に隣接する格納室へ土砂が流入しないよう、船倉内前部に空間を残して船倉中央部やや前方に乾いた土砂で高さ約6メートルの堰を造り、比較的水分の多い土砂を堰後方から後壁に至る間に積載していた。
ウ 気象情報の収集
晃昇丸は、日高港から和歌山県新宮港への浚渫土砂の運搬中、D社の親会社であるE社から、1日2回ファクシミリで気象情報を入手していた。
3 事実の経過
平成15年10月3日B指定海難関係人は、浚渫土砂輸送に先立って、浚渫土砂が流動化すると格納室へ流入するおそれがあり、土砂1,200立方メートル約1,920トンの、安全な閉鎖措置を船内で講じることが困難であり、適切な強度計算による造船所の沖修理によって、閉鎖工事を施工することが必要な状況下、D社から、船倉と格納室間を閉鎖するよう要請されたが、タイヤショベルを必要とする積荷の輸送が予定されていたので、兵庫県家島の造船所に閉鎖装置取付工事の手配をしたものの、C社の担当社員にA受審人と協議をさせ、10月の航海終了までは、船内に差し板や鉄板の材料があるので、A受審人に任せて船内で可能な応急措置で対応することとし、直ちに、流動化のおそれがある浚渫土砂に対する十分な閉鎖措置を講じなかった。
一方、A受審人は、前示応急措置をとることで合意したものの、適切な強度計算に基づいた造船所の沖修理によって、閉鎖措置を講じることが必要な状況であったが、直ちに、その旨をB指定海難関係人に進言しなかった。
こうして、10月15日及び16日にD社の積込み担当者は、日高港御坊地区泊地から浚渫した海底土砂を、箱形の土運船に積取って静置した後、分離した水をポンプで排出して水切り状況を確認し、10月20日08時00分晃昇丸を土運船に接舷して積込むことにした。
一方、A受審人は、タイヤショベルを陸揚げし、船倉と格納室の境に幅30センチメートル(以下「センチ」という。)の差し板2枚を組み合わせ、倉底から60センチの高さで仕切り、土運船に接舷し、自船の起重機を使って浚渫土砂の積込みを始めたところ、土砂の水分が多く、更に、荒天も予想されたので、D社の積込み担当者と相談のうえ、積載量を通常の75パーセントに減量することとし、船倉前壁から約2.5メートル後方までが空間となるよう、船倉中央部やや前方に硬めの乾いた土砂を3.7メートルの高さに山積みして堰を造り、その後方に水分の多い土砂を同じ高さに、船倉左右両壁及び後壁一杯まで積込み、12時00分荷役を終了した。
晃昇丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、浚渫土砂911立方メートルを積載し、船首3.5メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、14時00分新宮港に向けて日高港を発し、揚げ地の天候が不良のため、15時00分和歌山県由良港に錨泊して待機し、翌々22日天候が回復したことから、倉内に溜まった水を水中ポンプで排出したのち、同日07時25分由良港を抜錨した。
A受審人は、いつものように、船橋当直者が積荷の水分を監視できるようハッチカバーを開けた状態とし、起重機のブームを正規の位置に据えて出航操船後、次席一等航海士に船橋当直を任せるにあたり、積荷に変化があれば報告するよう指示して降橋した。
晃昇丸は、紀伊水道を南下し、08時00分紀伊日ノ御埼灯台から233度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点において、針路を137度に定め、機関を全速力前進に掛けて12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵により進行し、10時15分日置港灯台から222度2.3海里の地点に達したとき、針路を紀伊半島西岸に沿う113度に転じ、10時30分船橋当直を交代した一等航海士が1人で当直にあたり続航した。
A受審人は自室で休息中、船橋当直者から船倉の積荷が流動化している旨の報告を受けて昇橋したところ、11時00分潮岬灯台から282度8.0海里の地点に達したとき、積荷が前方に移動していることを認めて6.8ノットの速力とし、晃昇丸は、流動化した土砂が船倉と格納室間の仕切りを越えて同室に流れ込み、右に3.5度傾いた状態で復原せず、転覆するおそれのある危険な状態になった。
当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、波高2メートルのうねりがあった。
その結果、A受審人は、回転式起重機運転室後部のウエイトを左舷側に移し、進行する船体傾斜の抑制を試みたものの、効なく、和歌山県袋港沖合で緊急避泊することとし、11時30分潮岬灯台から276度4.8海里の地点において、針路を078度に転じ、舵及びスラスターを使い、時折機関を停止しながら6.4ノットの速力で進行し、晃昇丸は、12時20分潮岬灯台から017度1.6海里の地点に、右舷船首錨を投じて右傾斜15度で錨泊し、のち、積荷の瀬取りにより復原された。
また、B指定海難関係人は、本件発生の報を受け、事後の措置にあたり、その後、A受審人及び関係会社と協議し、格納室に土砂が流入しないよう閉鎖措置を講じるとともに、船倉の土砂を平坦に積込むなど防止策を講じた。
(本件発生に至る事由)
1 箱形の船倉に隣接した格納室の境に仕切りのないまま、流動化のおそれがある積荷を積載したこと
2 A受審人が、浚渫土砂を船倉に積む際、土砂で堰をしたのみであったこと
3 B指定海難関係人が、平成15年10月3日D社から、積荷に流動化のおそれがあるので、船倉と格納室間を閉鎖するよう要請があった際、直ちに、船倉と格納室間に閉鎖装置取付工事を施工しなかったこと
4 B指定海難関係人が、10月の輸送が終了するまでは、流動化のおそれがある浚渫土砂に対する閉鎖措置をA受審人に委ねたこと
5 A受審人が、C社担当社員と協議をした際、直ちに閉鎖措置を講じるよう進言しなかったこと
(原因の考察)
本件安全阻害は、浚渫土砂を積載して潮岬沖合を東進中、流動化した浚渫土砂が格納室に流入し、船体が傾斜したことにより発生したものである。
はじめに、箱形の船倉に隣接した格納室の境に仕切りのないまま、流動化するおそれがある積荷を積載したことについて考察する。
晃昇丸船倉区画は、積載した砂利・石材を移動するタイヤショベルを保管する格納室が配置されているため、左右非対称の区画となっており、浚渫土砂が船体動揺で格納室へ流入すれば、船体が傾斜して復原せず、その傾斜が更に傾斜を増大させるおそれがあった。
D社は、浚渫土砂の品質管理及び積込み管理をする立場で、流動化する土砂が格納室に流入すると、船倉の区画の問題から船体傾斜するおそれがあることを認め、船舶を管理するB指定海難関係人に、格納室の閉鎖を要請したものである。
したがって、B指定海難関係人が、D社から、浚渫土砂が流動化のおそれがあるので、船倉と格納室間を閉鎖するよう前示要請を受け、閉鎖措置が必要であることを認め、造船所に閉鎖工事を手配はしたが、直ちに、船倉と格納室間の十分な閉鎖措置を講じなかったことは、本件発生の原因となる。
次に、C社の担当社員とA受審人との協議の際、B指定海難関係人が船内での応急措置をA受審人に委ねた点、及び同人が閉鎖装置取付工事を施工するよう強く進言しなかった点について考察する。
まず、格納室の入口は幅4.5メートル高さ6.0メートルで、通常、船倉に、1,200立方メートルの土砂を平坦に積載すると、倉底から高さ4.1メートルの閉鎖壁が必要となり、差し板60センチでは効果がないことは明らかである。また、晃昇丸で、約1,920トンの流動化した土砂に対して、適切な強度計算が可能な、造船所の沖修理による十分な閉鎖措置が必要な状況であり、船内応急措置では、強度上から安全な閉鎖措置を講じることは困難であった。
B指定海難関係人は、この協議の前に、A受審人から浚渫土砂が流動化のおそれがある報告を受けており、土砂の品質管理をするD社から、流動化する浚渫土砂の閉鎖措置の要請を受けたのだから、直ちに十分な閉鎖措置を講ずる方策を協議すべきで、積荷が流動化のおそれがあることを承知の上、同人に応急措置を任せたことは、妥当ではなく、今後是正されるべきである。
一方、A受審人が、会社担当者と閉鎖措置について協議をした際、次航海の積荷輸送にタイヤショベルが必要であることを理由に、十分な閉鎖装置の工事を実施するようB指定海難関係人に強く進言しなかったことは、十分な閉鎖措置が実施されなかった理由のひとつとなり、今後是正されるべきである。
(海難の原因)
本件安全阻害は、浚渫土砂の品質及び積込みを管理する会社から、浚渫土砂が流動化するおそれがあるので、船倉と隣接する仕切りのない格納室との間を閉鎖するよう要請された際、浚渫土砂に対する閉鎖措置が不十分で、潮岬西方沖合を東進中、流動化した浚渫土砂が格納室に流入して船体が傾斜したことにより発生したものである。
(受審人等の所為)
B指定海難関係人が、浚渫土砂積込み会社から、浚渫土砂が水分を多量に含んで流動化のおそれがあるので、船倉と隣接する仕切りのない格納室との間を閉鎖するよう要請を受けた際、直ちに、船倉と格納室間に流動化のおそれがある浚渫土砂に対する十分な閉鎖措置を講じなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件発生の報を受け、事後の措置にあたり、その後、A受審人及び関係会社と協議し、再発防止策として、格納室に土砂が流入しないよう閉鎖措置を講じるとともに、船倉の土砂を平坦に積込むなど同種海難防止策を講じている点に徴し、勧告するまでもない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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