(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月28日17時16分
大阪湾
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第32児島丸 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
73.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第32児島丸(以下「児島丸」という。)は、液体貨物の運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか4人が乗り組み、液体化学物質ノネン1,251.875トンを積載し、船首3.70メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、平成15年11月28日16時40分神戸港を発し、名古屋港へ向かった。
A受審人は、出港操船に引き続いて船橋当直に当たり、17時00分少し前神戸沖第2号灯浮標北東方300メートル地点付近に達したとき、次直のB受審人が船首配置を終えて昇橋して来たので、同灯浮標から南西方4海里付近一帯に設置されているのり養殖施設に注意して友ケ島水道へ向かうように指示したのち、同人に当直を委ねて降橋した。
ところで、同のり養殖施設は、神戸灯台から170度(真方位、以下同じ。)9,800メートルの地点を基点として、毎年9月から翌年5月までの間、同地点から120度2,500メートル地点及び210度2,700メートル地点へ引いた両線を2辺とする四辺形によって囲われた675ヘクタールに渡る広い海域(以下「のり養殖海域」という。)に設置されているのであるが、B受審人は、内航船員としての乗船履歴が約30年間あり、大阪湾内の航路事情に精通していたことから、のり養殖海域については、これを熟知していたうえ、児島丸の船長職を執った経験もあったので、同海域に乗り入れないように注意を要することは、十分に承知していた。
B受審人は、船長であるA受審人が降橋したのち、単独で船橋当直に当たり、17時00分神戸灯台から130度4.9海里の地点で、針路を200度に定め、機関を全速力前進の回転数毎分280にかけ、12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵によって進行した。
定針後、B受審人は、周囲に取り立てて航行の支障となるような他船を見掛けなかったことから、船橋左舷後方にある海図台の前に船尾方を向いて立ち、ISMコードに定められた書類に必要事項を記入しながら、ときどき、レーダーの監視を行って船橋当直に当たっていたところ、しばらくして、3海里レンジとして使用していたレーダー画面上の右前方に、錨泊中の小型タンカー1隻とのり養殖海域内に設置された多数のブイなどが映ってきたので、双方に留意しながら続航した。
そして、17時06分少し前B受審人は、神戸灯台から142度5.4海里の地点に達したとき、同錨泊船まで数ケーブルとなり、そのまま南下すると至近に接近する状況となったことから、大きく右に転舵して同船を替わしたのち、同時11分同灯台から154度5.5海里の地点に至ったとき、針路を200度に戻したところ、自船の正船首方約1海里のところに、のり養殖海域の東角が位置することとなり、やがて、同海域に侵入してのり養殖施設に損害を与えるおそれがある状況となったが、錨泊船を替わし終えて少しばかり油断したことや、引き続き、前示書類の記入を続けることなどに気を取られ、レーダーを活用するなりして船位の確認を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、B受審人は、その後も、依然として、船位の確認を十分に行わず、自船が、のり養殖海域東角に向首していることに気付かないまま進行中、17時16分神戸灯台から161度6.4海里の地点において、児島丸は、原針路、原速力で、同海域に侵入した。
当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
児島丸は、のり養殖海域に侵入したのち、同海域内を南西方へ約1海里に渡って航走した結果、自船に損傷はなかったものの、プロペラの回転などにより、設置されていたのり養殖施設3区画分に損傷が生じた。
(原因)
本件のり養殖施設損傷は、大阪湾において、神戸港から友ケ島水道へ向けて南下する際、船位の確認が不十分で、同湾中央部付近に定められたのり養殖海域に侵入し、同海域内に設置されていたのり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は、大阪湾において、神戸港から友ケ島水道へ向けて南下する場合、同湾中央部付近には広範囲に渡ってのり養殖施設が設置された海域が存在することから、当該海域に侵入しないよう、レーダーを活用するなりして船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨泊船を替わし終えて少しばかり油断したことや、ISMコードに定められた書類に必要事項を記入することなどに気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、のり養殖海域に向首していることに気付かないまま進行して、これへの侵入を招き、南西方へ約1海里に渡って航走したところ、自船に損傷はなかったものの、プロペラの回転などにより、同海域内に設置されていたのり養殖施設3区画分に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。