(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月25日18時47分
新潟県粟島漁港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第七くしろ丸 |
総トン数 |
4トン |
全長 |
12.05メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
200キロワット |
3 事実の経過
第七くしろ丸(以下「くしろ丸」という。)は、FRP製遊漁船で、昭和54年6月に取得した一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、釣り客5人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成15年9月25日16時40分新潟県新潟港東区の係留地を発し、同県粟島北方沖合の釣り場に向かった。
ところで、粟島漁港の北東方沖合には、定置漁業区域が設定されていて、同区域内に定置網が設置され、その周囲に定置網の存在を示す小型の灯浮標が設置されていたが、同年春、定置漁業区域に変更はなかったものの、同区域内の定置網が、以前より240メートルほど沖合に移設されていた。
A受審人は、年に3回ほど粟島北方沖合の釣り場に行くために同島の東側を航行していたことから、定置漁業区域の正確な位置は知らなかったものの、粟島漁港の北東方沖合に定置網があること、及びその周囲には定置網の存在を示す灯浮標が設置されていることを知っており、途中にある魚礁の上を通る針路で航行すれば灯浮標の右側を航過できていたこともあって、GPSプロッターにその魚礁の位置を入力し、粟島北方沖合の釣り場に行くときにはいつもその魚礁の上を通る針路で航行していた。そのため、同人は、昨年以来行っていない同釣り場への発航に当たっても、いつもの針路で航行すれば大丈夫だろうと思い、漁業協同組合に定置網の設置状況を確認するなどの水路調査を行わなかったので、同年春に定置網が以前より少し沖合に移設されたことを知らなかった。
発航後、A受審人は、17時06分新潟港東区西防波堤灯台から112度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に達したとき、針路をいつものとおりGPSプロッターに入力している途中の魚礁上を通過する004度に定め、機関を回転数毎分2,400の全速力前進にかけて16.5ノットの対地速力としたのち、同時16分ごろ自動操舵として進行した。
その後、A受審人は、GPSプロッター上の魚礁を目印として同一針路及び速力で続航し、18時44分粟島港東防波堤灯台から102度1.5キロメートルの地点に達したとき、前方1.3キロメートルばかりのところに定置網の存在を示す灯浮標を認め得る状況となったが、見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、定置網を避けずに進行した。
こうして、くしろ丸は、定置網に向首したまま続航中、18時47分粟島港東防波堤灯台から052度1.08海里の地点で、定置網に乗り入れた。
当時、天候は雨で風力3の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、日没時刻は17時38分で、視程は約1海里であった。
A受審人は、衝撃を感じたので、何かに衝突したのではないかと判断して機関を中立にし、集魚灯を点灯して調べたところ、定置網のワイヤロープが自船の推進器翼に絡んでいるのを発見した。
この結果、定置網のワイヤロープが損傷したほか、くしろ丸の推進器翼が曲損するとともに推進機軸にも損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件定置網損傷は、新潟県粟島北方沖合の釣り場に向かうに当たり、水路調査が不十分で、同島沖合に設置された定置網に向首して進行したばかりか、見張り不十分で、同網を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、定置網が設置されている粟島沖合を通って同島北方沖合の釣り場に向かう場合、漁業協同組合に定置網の設置状況を確認するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、いつもの針路で航行すれば大丈夫だろうと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、定置網が少し沖合に移設されていることに気付かず、定置網に向首進行して同網に乗り入れる事態を招き、定置網のワイヤロープを損傷させたほか、くしろ丸の推進器翼及び推進機軸にも損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。