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平成16年広審第3号
件名

プレジャーボート スリー・エス プレジャーボートゆうか同乗者死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年8月30日

審判庁区分
広島地方審判庁(佐野映一、高橋昭雄、吉川 進)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:スリー・エス船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:ゆうか船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ゆうかの同乗者が左腋下静脈切断、左肺挫滅及び左上腕部離脱を負い、死亡

原因
ゆうか・・・安全運航に対する配慮不十分(主因)
スリー・エス・・・安全運航に対する配慮不十分(一因)

主文

 本件同乗者死亡は、高速力で遊走する際、ゆうかが、安全運航に対する配慮が不十分で、後部座席に友人を同乗させてスリー・エスの前路至近で急旋回する危険な遊走を繰り返すうちに、同乗者が海中に振り落とされたことによって発生したが、スリー・エスが、安全運航に対する配慮が不十分で、自船の前路至近で急旋回するゆうかの危険な遊走を回避しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月10日14時10分
 愛媛県堀江港
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートスリー・エス
登録長 5.37メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 44キロワット
船種船名 プレジャーボートゆうか
登録長 2.70メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 62キロワット

3 事実の経過
 スリー・エスは、FRP製モーターボートで、B受審人(平成13年7月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、遊走の目的で、平成15年8月10日10時55分愛媛県松山港内のマリーナを発し、同県堀江港東防波堤の東側にある浜辺(以後「東浜」という。)に向かい、11時15分東浜に到着した。
 ゆうかは、FRP製3人乗り水上オートバイで、A受審人(平成11年10月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、友人1人を後部座席に乗せ、遊走の目的で、同日11時30分堀江港近くのマリーナを発し、東浜に向かい、同時40分同浜に到着した。
 A及びB両受審人は、互いに面識はなかったものの、共通の知人とその家族及び友人などとともにバーベキューを行い、途中、A受審人がゆうかを、B受審人がスリー・エスをそれぞれ操縦し、ゆうかがスリー・エスの前路で旋回し同船に水飛沫をかけたりして東浜沖合を遊走したのち、同浜に戻ってバーベキューを続けた。
 ところで、水上オートバイは、高速力で航行すると、ウォータージェットノズルから排出された水流が後方の海面上に水飛沫となって上がり、旋回するとその水飛沫が扇状に広がるので、旋回して水飛沫を他船にかける行為が遊びとして行われることがあった。しかし、水飛沫をかけるため、後部座席に同乗者を乗せた水上オートバイが高速力で遊走する他船の前路至近で旋回することは、同乗者が遠心力で海中に振り落とされて後続する他船と接触するおそれがある危険な遊走であった。
 そして、A受審人は、操縦免許を取得した翌年春にゆうかを購入したのち、毎年7月から8月にかけて週に2回朝から夕方まで同船を操縦し、また小型モーターボートも年に1回程度操縦した経験があり、後部座席に同乗者を乗せた水上オートバイが高速力で遊走する他船の前路至近で急旋回することが危険な遊走であることを承知していた。また、B受審人は、操縦免許を取得したのち、船舶所有者の名義人になっていないものの購入時に出資して共同所有しているスリー・エスをしばしば操縦して同船の操縦性能を十分に把握し、高速力で航行すると前路至近の障害物を避けることができないことを承知していた。
 B受審人は、それまで水上オートバイを操縦した経験がなかったところ、A受審人が操縦するゆうかが急旋回したり水飛沫を上げたりする様子を見て興味を持ち、13時50分東浜の水際に鍵を付けたまま係留されていた同船に友人のCと乗船し、操縦を交互に交替して急旋回して水飛沫を上げることを試み、両人とも急旋回中に数回後部座席から海中に振り落とされる経験をしたのち同浜に戻り、C同乗者に替わって他の友人を後部座席に乗せ、さらに少しの間東浜沖合を遊走した。
 B受審人は、遊走を終えて東浜に戻ったとき、ちょうどA受審人が操縦し友人3人を乗せたスリー・エスが発進するところで、同受審人から一緒に遊走しようと声を掛けられたので、再びC同乗者を後部座席に乗せ、14時01分同船の後を追って同浜を発進した。
 B受審人は、スリー・エスと異なる方向に高速力で遊走したが、同船に水飛沫をかけることを思い付き、同乗者が海中に振り落とされてスリー・エスと接触する危険があったにもかかわらず、水飛沫をかけることに興じ、同船の前路至近で急旋回する危険な遊走を行わないなど安全運航に対して十分に配慮することなく、スリー・エスの左舷正横10メートルのところを航過してこれを追い越し、14時03分同船の正船首22メートルのところで左に急旋回した。
 B受審人は、14時06分にもスリー・エスの前路至近で急旋回を繰り返し、同時09分37秒堀江港東防波堤灯台から021度(真方位、以下同じ。)570メートルの地点で、さらに同船に水飛沫をかけようと、針路をスリー・エスとわずかに交差する196度に定め、同船を右舷船首31度43メートルのところに見る態勢とし、毎時50キロメートル(以下「キロ」という。)の速力で進行した。
 14時09分50秒B受審人は、先程2回と同じ方法でスリー・エスの左舷正横10メートルのところを航過してこれを追い越し、同時09分58秒堀江港東防波堤灯台から028度250メートルの地点で、同船の正船首22メートルのところで左に急旋回したところ、後部座席のC同乗者が遠心力で振り落とされて落水した。
 一方、A受審人は、東浜水際に係留されていたスリー・エスに友人3人とともに乗船し、ゆうかを操縦して戻ってきたB受審人に一緒に遊走しようと声を掛けたのち、14時00分自ら操縦して発進し、同浜沖合を遊走したところ、同時03分左舷側を追い越した同船が自船の前路至近で左に急旋回して上げた水飛沫を浴び、同時06分再びゆうかが急旋回して上げた水飛沫を浴びて、思いがけなかったものの友人3人とともにそれを楽しみ、その後も遊走を続けた。
 A受審人は、東浜に戻ることとし、14時09分37秒堀江港東防波堤灯台から019度500メートルの地点で、針路を同浜水際の発進地点に向く191度に定め、毎時40キロの速力で手動操舵により進行した。
 14時09分50秒A受審人は、左舷正横10メートルのところに自船を追い越すゆうかを視認し、同船が自船の左舷側を追い越したのは先程2回水飛沫をかけたときだけであったことから、ゆうかが自船の前路至近で急旋回をさらに繰り返そうとしていることを認めたが、ゆうかの同乗者が海中に振り落とされてこれに接触する危険があったにもかかわらず、急旋回時に上がる水飛沫を浴びることに興じ、直ちに右転して同船の危険な遊走を回避するなど安全運航に対して十分に配慮することなく続航した。
 14時09分58秒A受審人は、正船首22メートルのところで、ゆうかが左に急旋回して後部座席のC同乗者が振り落とされたのを視認し、直ちに右舵40度をとったが及ばず、14時10分前示の同乗者落水地点において、スリー・エスは、ほぼ原針路、原速力のまま、C同乗者に接触した。
 当時、天候は晴で風はなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期にあたり海面は平穏であった。
 A及びB両受審人は、C同乗者が負傷したことに気付いて直ちに同人を救助し、電話で連絡した救急車に引き渡した。
 その結果、スリー・エスに損傷はなかったが、C同乗者が、プロペラ翼によって左腋下静脈切断、左肺挫滅及び左上腕部離脱を負い、搬送された病院で死亡した。 

(原因)
 本件同乗者死亡は、愛媛県堀江港港湾区域内において、両船がともに高速力で遊走する際、ゆうかが、安全運航に対する配慮が不十分で、後部座席に友人を同乗させてスリー・エスの前路至近で急旋回する危険な遊走を繰り返すうちに、同乗者が海中に振り落とされたことによって発生したが、スリー・エスが、安全運航に対する配慮が不十分で、自船の前路至近で急旋回するゆうかの危険な遊走を回避しなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、愛媛県堀江港港湾区域内において、後部座席に友人を同乗させて高速力で遊走する場合、同乗者が海中に振り落とされてスリー・エスと接触することのないよう、同船の前路至近で急旋回する危険な遊走を行わないなど安全運航に対して十分に配慮すべき注意義務があった。しかし、同人は、急旋回時に上がる水飛沫をスリー・エスにかけることに興じ、安全運航に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、同船の前路至近で急旋回して同乗者が海中に振り落とされ、スリー・エスが同乗者に接触し、同乗者がプロペラ翼によって左腋下静脈切断、左肺挫滅及び左上腕部離脱を負い、搬送された病院で死亡する事態を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、愛媛県堀江港港湾区域内において、高速力で遊走中、後部座席に友人を同乗させて自船の前路至近で急旋回を繰り返そうとするゆうかを認めた場合、同乗者が海中に振り落とされてこれに接触する危険があったから、直ちに右転して同船の危険な遊走を回避するなど安全運航に対して十分に配慮すべき注意義務があった。しかし、同人は、急旋回時に上がる水飛沫を浴びることに興じ、安全運航に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、ゆうかが自船の前路至近で急旋回して海中に振り落とされた同乗者に接触し、前示の事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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