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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成16年横審第17号
件名

起重機船第十三青雲丸ケーソン作業員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年8月31日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二、岩渕三穂、小寺俊秋)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:第十三青雲丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)  
指定海難関係人
B 職名:D社工事局所長
C 職名:D社工事局作業長

損害
臨時作業員が溺死、第十三青雲丸は左右の船首係留索が切断、左舷船尾外板に凹損などの損傷及び係船突堤の一部が破損

原因
ケーソン据付作業中の安全確認不十分、工事局所長のケーソンの転倒防止についての安全指導不十分及び工事局作業長の甲板上の作業に係る船長に対する指示不適切

主文

 本件ケーソン作業員死亡は、ケーソン据付作業中、安全確認が不十分で、浮上したケーソンが転倒してケーソン上の作業員が海中に転落したことによって発生したものである。
 工事局所長が、浮上したケーソンの転倒防止についての安全指導を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 工事局作業長が、ケーソンの余裕水深が十分に確保されるまで係留索を伸縮しないよう船長に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月17日13時52分
 静岡県網代港
 
2 船舶の要目
船種船名 起重機船第十三青雲丸
総トン数 199.86トン
全長 29.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 147キロワット

3 事実の経過
 第十三青雲丸(以下「青雲丸」という。)は、船首部に制限荷重60トン制限半径7.5メートルの旋回式クレーンを装備した自航式起重機船で、A受審人ほか3人が乗り組み、C指定海難関係人を含む作業員5人を乗せ、ケーソン据付作業に従事する目的で、船首1.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年3月17日10時00分静岡県熱海港を発し、同県網代港に向かい、同時50分同港の宮町防波堤築造工事現場に至り、伊豆網代港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から191度(真方位、以下同じ。)160メートルの地点で、ケーソン仮置き場(以下「仮置き場」という。)に置かれた縦15.0メートル横8.4メートル高さ16.0メートルの防波堤築造用ケーソン(以下「ケーソン」という。)の長辺側に船首部を着け、ほぼ194度に向首した状態で係留した。
 青雲丸の係留状況は、右舷後部ウインチのドラムに巻いた直径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)の係留索を右舷船首甲板上の鋼製滑車及びフェアリーダーを経て右舷船首約20度150メートル沖合の係船ブイに、左舷後部ウインチのドラムからは同径係留索を左舷船首甲板上の鋼製滑車及びフェアリーダーを経て左舷船首約70度30メートルの既設防波堤上係留リングにそれぞれ取るとともに、右舷船尾からほぼ正船尾約20メートルの係船突堤にも係留索を取り、船尾左右から投錨して直径26ミリのワイヤ製錨索をいずれも右舷船尾約80度及び同50度の方向に100ないし130メートル伸出し、これら係留索3本と錨索2本とをほぼ均等に張った状態であった。
 当時、網代港では、D社が静岡県熱海工事土木事務所から受注した宮町防波堤築造工事が行われており、陸上で高さ11.0メートルまで製作されたケーソンが同15年2月中旬に仮置き場に運ばれ、そこで上部5.0メートルの部分を継ぎ足して製作されたあと、同年3月17日青雲丸によって、約40メートル西方の所定の位置に移動し据え付けられることとなった。
 B指定海難関係人は、昭和53年1月D社に入社し、平成3年4月同社工事局所長に就いてから受注工事の作業計画を立案し、工事責任者として発注者の承認を得て工事の実施・監督にあたっていたところ、同15年秋から前示防波堤築造工事に着手し、同16年2月中旬同社工務管理部がケーソン浮上時の安定性について検討した資料を見て、ケーソン浮上時のGMが24センチメートル(以下「センチ」という。)で、港湾施設の技術基準で望ましいとされる喫水の5パーセントより約20センチ少ないことを知ったものの、青雲丸のクレーンで吊り上げて固定するので安定性に問題がないと判断し、据付作業計画を立て、自ら作業内容や安全対策を記載した作業指示書を作成したが、ケーソン内の海水排水作業や係留索を伸縮して所定の位置に移動させるなどの細かい作業については、現場で作業にあたるC指定海難関係人及びA受審人に任せていた。
 ところで、ケーソンは、総重量1,109トンのコンクリート製で、隔壁により縦2列横3列の合計6区画に仕切られ、各区画は内法(うちのり)が縦4.6メートル横3.7メートルで、仕切隔壁には内底から1.1メートルの高さに直径15センチの通水孔が設けられており、据付作業開始前のケーソンには各区画とも内底から7.25メートルの深さまで、合計約759トンの海水が入っていた。
 また、仮置き場は、水深8.0メートルで、周囲の海底より高く盛り上がったマウンド状となっており、表面に大小の基礎石が敷きつめられてほぼ水平に均されて(ならされて)いたものの、ケーソンを置く場所とその周囲約1メートルの範囲でプラスマイナス10センチ、その他のところではプラスマイナス30センチ程度の凹凸が存在する状態であった。
 B指定海難関係人は、仮置き場のケーソンを浮上させて水深14.0メートルの所定の位置に移動させる際、ケーソンが仮置き場のマウンドに接触して転倒しないよう、ケーソン下端とマウンド表面との間隔(以下「余裕水深」という。)を50センチ以上確保するつもりでケーソン内海水の排水計画を立てた。同人は、残水量を20トンとして算出したケーソン喫水が8.7メートルで、作業当日の高潮時にあたる16時の潮高を1.45メートルと予測し、余裕水深が0.75メートルとなることから、据付完了までの作業時間を勘案して高潮時の約2時間前に浮上させることとし、6区画のうちの2区画に電動式水中ポンプを設置して11時からケーソン内海水を排出し、14時ごろに海水約80トンを残して喫水約9.2メートルでケーソンが浮上すると予測した。そして、浮上したケーソンを40トンの吊上荷重をかけてクレーンで吊り上げれば必要な余裕水深をほぼ確保できるものと判断し、移動する前に、近くの既設防波堤に取り付けられた潮位標とケーソンの喫水標とを見て余裕水深を確かめたうえ、機関を使用しないで係留索及び錨索を伸縮して船体を約40メートル西方に移動させ、所定の位置で水中ポンプによりケーソン内に海水を注水することとした。
 B指定海難関係人は、浮上したケーソンをクレーンで吊り上げたとき、余裕水深が十分でないうちに船体が移動すれば、ケーソン下端が仮置き場のマウンドの基礎石に接触して転倒する危険があったが、作業当日の朝、D社工事事務所でC指定海難関係人及びA受審人ほか1人を集めてケーソン据付作業の打合わせを行った際、余裕水深が十分に確保されるまで船体を移動させないよう、浮上したケーソンの転倒防止についての安全指導を十分に行わなかった。また、これまで起重機船でケーソンを移動するとき、ケーソンを安定させるためケーソン上部から船首部にロープを取って船体に引き付けていたが、今回はケーソンが高いことから青雲丸甲板の位置でケーソンにロープ(以下「ケーソン引付けロープ」という。)を回して船体に引き付けるように指示し、具体的方法については、C指定海難関係人及びA受審人に任せた。
 C指定海難関係人は、20年ほど前にD社に入社し、同社工事局作業長(以下「作業長」という。)の職務を執るようになって8年になるものの、高さの半分近くが海面上に出ている背の高いケーソンの据付作業にあたるのは初めてで、浮上時に転倒する危険を感じたので、その旨をB指定海難関係人に告げたものの、同人からケーソンの安定性を検討した結果安全であるとの説明を受け、同人が作成した作業指示書にしたがって作業を進めることとした。
 C指定海難関係人は、青雲丸が仮置き場に係留されたあと、作業員の安全のためケーソン上の一部に作業用鋼製蓋と転落防止用ネットを設置して作業を始め、ケーソンの左側前部(青雲丸を基準とする。以下、ケーソンの前後左右の位置については同じ。)と右側後部の2区画に排水用水中ポンプ各1台を、左右両側の各区画にはそれぞれ1台ずつ合計4台の注水用水中ポンプを設置し、それぞれ排水用ホース、注水用鉄管などを取り付けるとともに、ケーソン上部の4箇所のリングに直径34ミリ長さ10メートルの吊り上げ用ワイヤをそれぞれ係止してクレーンのフックに掛け、水中ポンプ及びクレーンの試運転を行ったあと、11時00分排水用水中ポンプ2台によりケーソン内海水の排水を開始した。
 A受審人は、ケーソン据付作業中、C指定海難関係人の指揮の下で、クレーン操縦士を除く青雲丸乗組員及び僚船の第十一青雲丸乗組員3人に対し、係留索や錨索の伸縮などについて指示する立場にあり、係留を終えたあと、作業手順に従って直径40ミリの合成繊維製ケーソン引付けロープの一端を左舷船首のビットに係止し、もう一方はケーソン前部を回して右舷船首のビットに先端のアイを掛け、ケーソンが浮上したら同ロープの弛み(たるみ)を取るつもりで右舷船首甲板上に弛んだ状態で置いていたところ、風潮により船首方向が少し振れ、右舷船首の鋼製滑車から沖合の係船ブイに取っていた係留索がケーソン右側後端の角に強く接触するようになり、作業計画段階では想定しなかった状況が生じたので、摩擦を避けるため、同ロープ先端のアイを右舷船首のビットから外し、同係留索を鋼製滑車から同ビットを迂回させてケーソンの角に接触しないようにした。
 B指定海難関係人は、前示網代港工事事務所で作業を見守り、順調にケーソンから海水が排出されていることを確認し、作業員が昼食を済ませたのち、13時00分青雲丸に赴き、C指定海難関係人及びA受審人を含む作業員全員を集めて作業手順を確認したが、依然、余裕水深が十分に確保されるまで船体を移動させないよう、浮上したケーソンの転倒防止について安全指導を十分に行わなかった。
 C指定海難関係人は、付近に潜水作業員4人を乗せた作業船を待機させ、自ら青雲丸で作業を指揮し、ケーソン引付けロープ及び係留索の取り方などについてはA受審人に任せたが、浮上したケーソンをクレーンで吊り上げた際、同ケーソンの転倒防止のため、余裕水深が十分に確保されるまで係留索を伸縮しないよう同人に指示しなかった。
 13時30分C指定海難関係人は、梯子(はしご)を使用して青雲丸船首甲板からケーソンの作業用鋼製蓋の上に昇り、排水用水中ポンプを沈めた2区画の残水を見て排水終了が近いことを知り、排水を終えたらクレーンで20トンの吊上荷重をかけてケーソンを試し吊りし、吊り上げ状態に異常がないことを確認した後、同荷重を40トンまで上げてケーソンを十分に浮上させてから移動する作業にかかることとし、A受審人を含む作業員に所定の配置に就くよう指示した。そして、同時40分安全帽と救命胴衣を着用した臨時作業員Eがケーソン上に昇って来たので、同作業員に右側後部区画の残水を監視させ、自身は左側前部区画を監視した。
 E臨時作業員は、C指定海難関係人の父で、長年、D社に勤務し、起重機船の船長及び作業長としてケーソン据付作業を幾度も行った経験があり、8年前に定年退職したのち、時々臨時作業員として同社が行う工事に従事していた。
 こうして、E臨時作業員とともにケーソン内を見ていたC指定海難関係人は、高さ94センチの排水用水中ポンプが見え始めて間もなく、ケーソンがわずかに上下に動くのを感じて予想より少し早く浮上したと思い、同臨時作業員と相談し、あらかじめ打ち合わせていたようにケーソンを試し吊りすることとし、ケーソン引付けロープがビットから外され、右舷船首係留索が鋼製滑車からビットを経て係船ブイに伸びていることに気付かないまま、13時50分クレーン操縦士に「浮いた、やるぞ」と告げて巻き上げるように指示するとともに、A受審人に対し、同ロープの弛みを取るように指示した。
 甲板上で待機していたA受審人は、ケーソン上にいて姿が見えないC指定海難関係人の声を聞いたあと、クレーンでケーソンを吊り上げ始めたのを見て、作業手順に従ってケーソンの移動準備にかかることとし、部下1人とともにケーソン引付けロープの弛みを取って右舷船首のビットに係止するため、同ビットに回していた右舷船首係留索を少し緩めることとしたが、B指定海難関係人やC指定海難関係人から何の注意も受けず、余裕水深が不十分な状態で係留索を緩めることの危険性について認識が浅いまま、ケーソンが浮上したので船体が多少動いても転倒することはないものと思い、C指定海難関係人にこのことを告げて係留索を緩めることについての安全確認を十分に行わず、右舷後部ウインチの配置についていた乗組員に係留索を巻き出すように指示し、係留索をビットから外したところ、各係留索及び錨索の張力バランスが崩れて船体が後方に移動し、ケーソン引付けロープが船首側の海面に落ちたので、船体を元の位置に戻すため右舷船首係留索を巻き込むように指示した。
 右舷後部ウインチ配置の乗組員は、A受審人の指示で、右舷船首係留索を約2メートル伸ばしたあとウインチを止め、間もなく伸ばした分を巻き込んだ。
 このとき、マウンド表面から数センチ浮上していたケーソンが、クレーンに引かれて後方に傾き、その下端が仮置き場のマウンドの基礎石に接触するとともに、船体移動に伴ってクレーンが後方に移動したことから、ケーソンが大きく傾斜し、やがてケーソン上部から海水が流入するようになり、傾斜したケーソン後部が船首部を強く船尾方向に押したため左右の船首係留索が切断し、船体がさらに後方に移動して左舷船尾が係船突堤に衝突した。
 ケーソンが傾き始めたことを知ったC指定海難関係人は、クレーン操縦士に吊り上げワイヤを緩めるように合図したものの傾斜が続くので危険を感じ、ケーソン右端に移動したあと海中に転落したが、自ら泳いで防波堤に上がった。
 そのころE臨時作業員は、傾いたケーソン上でクレーン吊上げワイヤに掴まって(つかまって)いたが、13時52分北防波堤灯台から191度170メートルの地点において、ケーソン後部から海中に転落した。
 当時、天候は雨で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、潮高は1.2メートルで、海面は穏やかであった。
 B指定海難関係人は、直ちに待機していた潜水士にE臨時作業員の救助作業にかかるよう指示するとともに、最寄りの海上保安部に連絡して同人を捜索したが、発見できなかった。
 その結果、青雲丸は左右の船首係留索が切断するとともに左舷船尾外板に凹損などを生じ、係船突堤の一部が破損した。また、E臨時作業員は、翌日朝底部を水面上に残して転倒していたケーソン内から遺体で発見され、溺死と検案された。
 B指定海難関係人は、本件後同種事故の再発防止対策を検討し、現場作業員に周知した。

(原因の考察)
 本件作業員死亡は、防波堤築造用ケーソンを所定の位置に移動するため、クレーンで吊り上げた際、ケーソンが転倒してケーソン上にいた臨時作業員が海中に落下し、ケーソン内で溺死したもので、その原因を考察する。
 死亡した臨時作業員は、ケーソン上から海中に転落し、救助作業を尽くしたにもかかわらず溺死に至ったものであり、ケーソンが転倒しなければ海中に転落して溺死に至ることはなかった。
 浮上したケーソンの安定性については、望ましいとする基準を満たしていないものの、残水量が計画より約60トン多く、その遊動水の影響やケーソン上に置いた鋼製蓋などの重量物を勘案してもGMは約0.5メートルとなり、浮上したときケーソンのGMが不十分で転倒したとは認められない。
 また、余裕水深については、技術基準によれば、ケーソンの傾き、揺れ、波浪などを考慮し、0.5メートル以上となっており、本件時B指定海難関係人も0.5メートル以上必要であったと述べている。仮置き場のマウンドの水深が8.0メートルであるから、ケーソンの喫水が計画どおりの8.7メートルであれば、少なくとも1.2メートルの潮高が必要となり、潮汐表から求めた網代港の高潮時は16時21分で潮高1.4メートルとなり、高潮時であれば0.7メートルの余裕水深が確保され、B指定海難関係人の排水計画とは多少異なるものの、作業に支障はなかった。
 ところが、本件発生時は、ケーソンの残水が計画値より多く、排水計画どおり残水80トンまで排水されたとして喫水が計算上9.17メートルとなり、しかも高潮時より2時間余り前で潮高が1.2メートルで、余裕水深が数センチしかなかった。ケーソン浮上後のポンプ排水による余裕水深の増加はわずかで、クレーンにより吊上荷重20トンで吊り上げたとしても浮上量は15センチ程度にしかならず、マウンド表面の状態から余裕水深が十分であったとは認められない。
 このような状態で、マウンド上をケーソンが移動すれば下端がマウンドの基礎石に接触する可能性が大きいことは明らかである。
 ケーソンが傾き始めたのは、わずかに浮上したケーソンをクレーンで試し吊りし、船首係留索を緩めて船体が移動した直後であり、その後船首係留索が2本とも切断し、船体が後方に大きく移動した。このとき、最初にケーソン下端が基礎石に接触し、その後基礎石との接触点が支点となり、ケーソンに傾斜モーメントが作用し転倒したもので、船首係留索を緩めて船体が移動したことが発端になったものと認められる。
 本件発生時、近くの防波堤に設置された潮位標とケーソンの喫水標を見て余裕水深を確かめることは可能であり、ケーソンが十分に浮上したことを確認してから船首係留索を緩めれば本件は発生しなかったと考えられる。
 ケーソン引付けロープは、ケーソンを仮置き場から所定の場所に移動する際に必要なもので、ケーソンが十分に浮上してからビットに係止しても差し支えなかった。そして、係留後、船首係留索をビットに回すという、作業計画段階では想定していなかった状況が生じたことから、同ロープをビットに係止するため、ケーソンの移動前に船首係留索を緩める必要があり、これは船体移動を伴うものであるから、A受審人は、その状況をC指定海難関係人に告げて係留索を緩めても安全に支障がないかどうか確認すべきであった。
 当廷において、A受審人は、「ケーソンが十分に浮上したとは思わなかったが、係留索を伸ばせば船体が少し動くもののケーソンの吊り上げには問題がなく、浮上したケーソンが倒れるとは思っていなかった。」と供述し、C指定海難関係人は、「ケーソン引付けロープの弛みを取るように指示したとき、右舷船首係留索を緩めなければならない状況であることは知らなかったし、余裕水深の確認については何も指示していない。」と供述しており、これらのことから、浮上したケーソンを吊り上げたとき、余裕水深が十分でないうちに係留索を伸縮すれば船体が移動し、ケーソン下端がマウンドの基礎石に接触して転倒の危険性があるということについて、A受審人及びC指定海難関係人の認識が浅かったと考えられ、工事責任者であるB指定海難関係人の、浮上したケーソンの転倒防止についての安全指導が十分でなかったものと認めざるを得ない。 

(原因)
 本件ケーソン作業員死亡は、静岡県網代港の宮町防波堤築造工事現場において、ケーソン据付作業中、仮置き場のケーソンを所定の位置に移動するため、浮上したケーソンをクレーンで吊り上げた際、係留索を緩めることについての安全確認が不十分で、ケーソンの余裕水深が十分に確保されないうちに係留索が緩められ、船体が移動したことから、仮置き場のマウンドの基礎石に接触したケーソンが転倒し、ケーソン上の作業員が海中に転落したことによって発生したものである。
 工事局所長が、浮上したケーソンの転倒防止についての安全指導を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 作業長が、余裕水深が十分に確保されるまで係留索を伸縮しないよう船長に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、静岡県網代港の宮町防波堤築造工事現場において、ケーソンの据付作業に従事中、浮上したケーソンをクレーンで吊り上げて間もなく、ケーソン引付けロープをビットに係止するため右舷船首係留索を緩めようとする場合、作業長にこのことを告げて係留索を緩めることについての安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、ケーソンが浮上したので船体が多少動いてもケーソンが転倒することはないと思い、係留索を緩めることについての安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、係留索を緩めて船体を後方に移動させ、仮置き場のマウンドの基礎石に接触したケーソンが転倒する事態を招き、青雲丸の左右船首係留索を切断して左舷船尾外板に凹損などを生じさせるとともに、係船突堤の一部を破損し、ケーソン上の作業員が海中に転落して溺死するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、工事責任者として、現場作業員にケーソン据付作業を行わせる際、余裕水深が十分に確保されるまで船体を移動させないよう、浮上したケーソンの転倒防止についての安全指導を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後同種事故の再発防止対策を取ったことに徴し、勧告しない。
 C指定海難関係人が、船長を含む作業員を指揮してケーソン据付作業を行う際、クレーンで吊り上げたケーソンの余裕水深が十分確保されるまで係留索を伸縮しないよう、船長に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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