(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月24日15時15分
布刈瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートビーチボーイズ |
全長 |
2.86メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
89キロワット |
3 事実の経過
ビーチボーイズ(以下「ビ号」という。)は、最大とう載人員2人のFRP製水上オートバイで、A受審人(平成7年6月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、係留地に帰る目的で、船首0.3メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成15年8月24日15時00分愛媛県豊島北方沖合を発し、布刈瀬戸を経由する予定で広島県因島北西部の重井港に向かった。
ところで、A受審人は、日曜日などの休日に水上オートバイを操縦して遊走を行い、当日も勤務先の会社の友人4人とともに同社が所有するビ号及びプレジャーモーターボート(以下「モーターボート」という。)に分乗し、重井港の係留地から因島南東方沖合4海里の豊島北方の海域に出かけて遊走や海水浴などを行ったのち帰途についたもので、水上オートバイの取扱説明書には後部座席に同乗者を乗せて航走すると単独の場合に比べてバランスがとりにくく高度な技術を要すること、波などを飛び越えると着水時に衝撃を受けて負傷するおそれがあるので飛び越えてはいけないことなどの注意が記載されていたことから、それまで単独で波を飛び越えたことがあったものの、後部座席に同乗者を乗せて波を飛び越えた経験はなかった。
A受審人は、Tシャツ、海水パンツ及び水上オートバイ用のブーツを身に付けたうえ救命胴衣を着用し、ビ号の操縦席に腰を掛け操縦ハンドルを両手で握って操船に当たり、モーターボートを追走して備後灘及び三原瀬戸を北上し、15時10分因島東端の白滝鼻を左舷に見て航過したころ、モーターボートに乗船していた友人1人がビ号に便乗することになり、停止したモーターボートにビ号を着け、Tシャツ及び海水パンツを身に付けてスリッパを履き救命胴衣を着用した同人をビ号に乗り移らせ、後部座席に座らせて操縦席に腰掛けた自らの救命胴衣をしっかり持たせたのち発進し、因島東岸に沿って北上した。
15時13分A受審人は、布刈瀬戸南部の、大浜埼灯台から134度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を318度に定め、機関を全速力前進から少し落とした27.0ノットの対地速力で、モーターボートの後方40メートルを手動操舵によって進行した。
間もなく、A受審人は、モーターボートによって生じた航走波を飛び越えるよう同乗者から頼まれ、同乗者を乗せて波を飛び越えるとバランスを崩して横転したり着水時の衝撃で負傷するなどのおそれがあったが、それまでに単独で波を飛び越えた経験があったことから、この程度の波高であれば同乗者を後部座席に乗せていてもうまく飛び越えることができるものと思い、同乗者の依頼を断ってそのまま続航するなど、安全運航に対する配慮を十分に行うことなく、15時15分少し前左転して航走波の進行方向に向首し、同波の後面から前面に向かって飛び越えた。
A受審人は、続けて航走波の前面から後面に向かって飛び越えることとし、針路を航走波を右舷船首約50度から受ける018度に転じ、15時15分わずか前航走波を飛び越えたとき、ビ号が大きく上下動しながら着水し、自らの救命胴衣を両手でつかんでいた同乗者とともにバランスを崩して左舷側に倒れ、15時15分大浜埼灯台から134度1.0海里の地点において、ビ号は、原針路原速力のまま、左舷側に横転し、同受審人及び同乗者の両人が海中に転落した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、付近に潮流はほとんどなかった。
その結果、A受審人は復元したビ号に自力で乗り込み、同乗者はモーターボートに救助されたが、同乗者がビ号に接触して前額部及び下顎部に切創を負った。
(原因)
本件同乗者負傷は、広島県因島東方沖合の布刈瀬戸において、後部座席に同乗者を乗せ係留地に向けて北上中、先航するモーターボートによって生じた航走波を飛び越えるよう同乗者から依頼された際、安全運航に対する配慮が不十分で、同波を飛び越えバランスを崩してビ号が横転したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島県因島東方沖合の布刈瀬戸において、ビ号の後部座席に同乗者を乗せ係留地に向けて北上中、先航するモーターボートによって生じた航走波を飛び越えるよう同乗者から依頼された場合、同乗者を乗せたまま波を飛び越えるとバランスを崩して横転したり着水時の衝撃で負傷するなどのおそれがあったから、同乗者の依頼を断ってそのまま続航するなど、安全運航に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、それまでに単独で波を飛び越えた経験があったことから、この程度の波高であれば同乗者を後部座席に乗せていてもうまく飛び越えることができるものと思い、安全運航に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、先航するモーターボートによって生じた航走波を飛び越えバランスを崩してビ号が横転し、自ら及び同乗者が海中転落して同乗者がビ号に接触し、同人に前額部及び下顎部に切創を負わせる事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。