(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月14日10時40分
神奈川県三崎港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート丸一丸 |
総トン数 |
0.6トン |
全長 |
6.20メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
丸一丸は、船外機付きFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成15年9月14日10時26分神奈川県三崎港中浜を発し、城ヶ島南西方沖合の釣り場に向かう途中、同港内で釣り餌を購入するために城ヶ島大橋近くの餌売り場に向かった。
A受審人は、船尾右舷側のさぶたの上に座り、左手で船外機の舵柄を握り、同乗者は船首中央部分に置いた箱に腰を掛けて前方を向き、10時38分少し前三崎港東口南防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から313度(真方位、以下同じ。)230メートルの地点で、針路を城ヶ島大橋第5橋脚と同第6橋脚間の水路に向く305度に定め、機関を半速力前進にかけて5.4ノットの対地速力で進行した。
ところで、丸一丸は、船尾に座ると船首から5メートル先までが死角になって見えず、また、船首部に設置された竿立て(さおたて)にたもや釣竿を立てて収納していたことから船首方の見通しがさらに悪くなり、平素からA受審人は船首側に座った同乗者にも見張りを頼んで航行していた。
一方、A受審人は、城ヶ島大橋の城ヶ島側付け根付近は砂浜が整備され、夏季の休日などに海水浴やバーベキューをする人が多数集まり、水深が2メートル未満の同橋第6橋脚付近には潜水者や遊泳者がいることを知っていた。
A受審人は、10時39分半少し過ぎ防波堤灯台から308度550メートルの地点に達したとき、城ヶ島大橋第6橋脚の北側に向かってくる反航船を替わすために左転し、同橋脚の南側に向首する283度の針路として続航した。
10時40分少し前A受審人は、正船首方30メートルに浮遊状態となって海底の貝を探しているB指定海難関係人を認めることができる状況であったが、船首側の同乗者にも見張りを頼んでいるから障害物があれば見付けられると思い、砂浜に多数の人がいるのを見ていてこれに気を奪われ、前路の見張りを十分に行うことなく、たまたま同乗者が携帯電話をかけていたこともあり、同指定海難関係人に気付かずに進行中、10時40分防波堤灯台から305度605メートルの地点において、丸一丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が同指定海難関係人の右肘に接触した。
A受審人は、衝撃を感じて左旋回したところ、海面上に人影を認めてB指定海難関係人との接触に気付き、負傷した同人を収容して城ヶ島側の岸壁に寄せ、救急車を手配して病院に搬送するなど事後の措置に当たった。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好で、付近には微弱な西流があった。
また、B指定海難関係人は、同月14日未明に家族及び友人と4人で東京都三鷹市の自宅を自動車で出発し、同日05時30分ごろ前示砂浜に到着し、潜水遊泳を数回行って仮眠をとったのち、バーベキュー用の貝と魚を捕る目的で、再び潜水遊泳を行うこととした。
ところで、B指定海難関係人は、これまで城ヶ島大橋付近で多くの潜水遊泳経験を持ち、同橋第6橋脚と同第7橋脚間の水路を時々漁船等の小型船が航行するのを知っていたが、自己の存在を示すための標識の付いた樽や浮き輪などを準備していなかった。
10時30分B指定海難関係人は、防波堤灯台から302度550メートルに設置されているいけす近くで海に入り、両肩から脇の下にかけて白色ストライプの入った黒色の半袖半ズボン一体型ウエットスーツ、青色のフィン、水中眼鏡及び黄色のシュノーケルを着用し、スーツの浮力で身体全体が浮かないように軽めのウエイトを身体に巻き付け、先端が三つ又でやじり部分が幅40ミリメートル、長さ1.4メートルほどの鉄製ヤスを、やじり部分の下を左手に持って脇腹に密着させ、右手にたこ貝と呼ばれる貝を採取するための軍手を着用し、腹這いになって西方を向き、シュノーケル、頭部及び肩の部分が5ないし10センチメートルほど水面上に出る浮遊状態で、標識の付いた樽や浮き輪などにより自己の存在を示すことなく、遊泳禁止区域で潮の流れに任せて移動しながら貝を探し、10時39分ごろ前示接触地点に至った。
10時40分少し前B指定海難関係人は、丸一丸が、東方30メートルの地点から自身に向かって接近中、水中を伝わる機関音を聞き、同船が至近に迫っていることを知ったが、以前地元漁師からこの近辺で貝を獲ってはいけないと注意されたことから、今回も同じ注意をするために漁船が来たものと思い、海面から顔を上げ、手を挙げて合図を送るなどして自己の存在を示す措置をとることなく、引き続き浮遊状態のまま水深1.5メートルの海底の貝を探索中、前示のとおり右肘に丸一丸の左舷船首部が接触した。
B指定海難関係人は、身体を右側にひねって同船の船底を見たとき、左手に持っていたヤスの柄が海底に当たり、やじりが同人の右臀部に付き刺さった。
その結果、丸一丸に損傷はなく、B指定海難関係人は10日間の加療を要する右大腿部挫創等を負った。
(原因)
本件潜水者負傷は、神奈川県三崎港において、丸一丸が、砂浜に近い城ヶ島大橋付近を通航する際、前路の見張り不十分で、浮遊状態の潜水者を避けなかったことと、潜水者が、同橋下で海底の貝を探す際、自己の存在を示す措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、神奈川県三崎港の城ヶ島大橋付近を西航する場合、同橋の砂浜に多数の人がいることを知っていて、同橋脚付近には遊泳者や潜水者のいることが予想されたから、浮遊状態となって海底の貝を探しているB指定海難関係人を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船首側の同乗者にも見張りを頼んでいるから障害物があれば見付けられると思い、砂浜に多数の人がいるのを見ていてこれに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同指定海難関係人に気付かないまま進行して接触事故を招き、同指定海難関係人に10日間の加療を要する右大腿部挫創等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、神奈川県三崎港の城ヶ島大橋橋脚付近の遊泳禁止区域において、浮遊状態となって海底の貝を探索中、水中を伝わる機関音を聞いて丸一丸の接近を知った際、手を挙げるなどして自己の存在を示す措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。