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平成16年函審第16号
件名

漁船第六十八興洋丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年9月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第六十八興洋丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
主機の2番シリンダに損傷、6番シリンダのシリンダライナに割損、連接棒に曲損及びテレスコ管に変形などの損傷

原因
主機シリンダヘッドの肉厚計測不十分及び主機の始動準備操作不適切

裁決主文

 本件機関損傷は、長期間使用されていた主機シリンダヘッドの肉厚計測が不十分であったこと及び主機の始動準備操作が不適切であったことにより、ピストンが同ヘッドから漏れた冷却水を挟撃したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月14日13時00分
 北海道襟裳岬西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八興洋丸
総トン数 138トン
全長 37.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
回転数 毎分700

3 事実の経過
 第六十八興洋丸(以下「興洋丸」という。)は、昭和50年3月に進水した、いか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、B社が製造した6DSM-22S型と称する海水冷却方式のディーゼル機関を備え、クラッチ付き減速機を介してプロペラ軸と連結し、主機の各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
 主機のシリンダヘッドは、吸気弁及び排気弁を各2個有する4弁式の鋳鉄製のもので、同ヘッドから過給機に至る排気枝管は、2番、3番及び6番シリンダを一群とするものと他シリンダを一群とするものとの2本を備えていた。
 そして、ピストンは、テレスコ管から供給される潤滑油によって冷却される方式となっていた。
 冷却海水系統は、シリンダジャケット及びシリンダヘッドに通水する系統と空気及び潤滑油の各冷却器に通水する系統の独立した2系統に分かれており、いずれの冷却海水ポンプも主機直結式であった。
 興洋丸は、周年5月から6月までを夜間操業に、7月から12月までを昼夜全日操業に従事し、通年の主機運転時間が4,000時間ばかりとなり、年明けの1月から4月までを休漁期間として船体及び機関の整備に充てていた。
 ところで、シリンダヘッドは、冷却水壁の排気側及び海水側の両側が腐食しやすく、経年とともに同壁が衰耗して破口を生じるおそれがあることから、長期間使用されているシリンダヘッドについては肉厚計測を行い、衰耗が進行しているときは同ヘッドを新替えする必要があった。また、主機を始動するときは、シリンダヘッドから漏れた冷却水がピストン頂部に滞留していることがあるので、ピストンが冷却水を挟撃することのないよう、始動準備操作として、指圧器弁を開放したうえエアランニングを行い、シリンダ内に冷却水のないことを確認するのが一般的な取扱いとされていた。
 A受審人は、平成6年6月に機関長として乗り組み、単独で機関の保守運転管理に当たり、2年ごとに主機ピストン抜き整備を行い、シリンダヘッドについては毎年開放整備を行っていたところ、同15年2月の機関整備の際、同ヘッドが自分の乗船以来長期間使用されていることを知っており、冷却水壁が衰耗しているおそれがあったが、同壁の表面が荒れていたので正確な数値が出ないものと思い、肉厚計測を行うことなく、継続使用することとして機関整備を終え、興洋丸は、例年どおり5月から操業に従事した。
 興洋丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、7月29日20時00分函館港を発し、翌30日16時ごろ北海道南西方の日本海漁場に達したのち、漁場を移動しながら連日の操業を続け、越えて8月14日03時00分主機を停め、北海道襟裳岬西方の太平洋漁場において操業中、冷却水壁が著しく衰耗していた2番シリンダヘッド排気通路に微小な破口が発生し、冷却水が排気枝管を通じて3番及び6番シリンダヘッドにも流れ込み、折から排気弁が開弁していた6番シリンダのピストン頂部に滞留し始めた。
 13時前、A受審人は、漁場移動に備えて主機の始動準備操作に取り掛かったが、エアランニングを行わなかったのでこのことに気付かなかった。
 こうして、興洋丸は、13時00分襟裳岬灯台から真方位259度18.8海里の地点において、主機が始動されたところ、6番ピストンが滞留した冷却水を挟撃して大音を発した。
 当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、海上はやや波立っていた。
 A受審人は、始動操作を中止してターニングを行ったところ、6番シリンダの指圧器弁から大量の冷却水が噴き出てくるのを認め、次いで排気枝管を取り外したところ、2番シリンダヘッドの排気通路からの漏水を認め、2番及び6番シリンダヘッドを手持ちの予備品と取り替えたうえ、6番シリンダの減筒運転措置をとり、函館港に戻った。
 入港後、興洋丸は、業者の手により主機の開放調査が行われた結果、2番シリンダの前示損傷のほか、6番シリンダのシリンダライナに割損を、連接棒に曲損を、テレスコ管に変形などをそれぞれ生じていることが判明し、いずれも新替えされた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機整備の際、長期間使用されていたシリンダヘッドの肉厚計測が不十分で、冷却水壁が著しく衰耗した状態で継続使用されたこと及び主機の始動準備操作が不適切で、ピストンが同ヘッドから漏れた冷却水を挟撃したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、長期間使用されているシリンダヘッドの整備を行う場合、経年とともに冷却水壁が衰耗しているおそれがあったから、冷却水が漏れることのないよう、同ヘッドの肉厚計測を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同壁の表面が荒れていたので正確な数値が出ないものと思い、肉厚計測を行わなかった職務上の過失により、ピストンがシリンダヘッドから漏れた冷却水を挟撃する事態を招き、同ヘッドの破口のほか、シリンダライナの割損、連接棒の曲損及びテレスコ管の変形などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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