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平成16年広審第46号
件名

旅客船まつかぜ機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年8月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進、道前洋志、佐野映一)

理事官
平井 透

指定海難関係人
A社B事業所 業種名:機関修理業
C社 業種名:海運業

損害
主機左舷機の、6番シリンダの排気弁が折損、ピストン及びシリンダヘッドが割れ、連接棒が曲損、過給機ノズルが曲損

原因
機関修理業者の、主機の排気弁と弁案内との隙間の計測管理不十分

主文

 本件機関損傷は、機関修理業者が、主機の排気弁と弁案内との隙間の計測管理が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月23日11時05分
 山口県屋代島北東沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船まつかぜ
総トン数 47トン
全長 21.90メートル
機関の種類 過給機付2サイクル12シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,213キロワット
回転数 毎分2,170

3 事実の経過
 まつかぜは、平成4年8月に進水した、軽合金製旅客船で、主機としてD社が製造した、GM12V-92TA型と呼称するディーゼル機関を2機2軸配置で装備していた。
 主機は、シリンダ配置がV型で、シリンダブロック及びシリンダヘッドが清水冷却され、同ブロックにシリンダライナが挿入され、シリンダヘッドには4個の排気弁が取り付けられており、左バンクの船首側から1ないし6番の、右バンクの船首側から7ないし12番のシリンダ番号が付されていた。また、ユニフロー掃気方式をとり、排気ガスタービン過給機で圧縮された給気が、クランク軸駆動のルーツブロワで再圧縮され、両バンクのシリンダブロックに挟まれる掃気溜まりを経て、シリンダライナ中間部の掃気ポートからシリンダ内に吸気されるようになっていた。
 排気弁は、弁棒部外径が8ミリメートル(以下「ミリ」という。)で、シリンダヘッドに上面から圧入された弁案内に燃焼室側から挿入され、オイルシールを装着のうえ弁ばねとコッタ及びばね抑えで組み立てられており、船首側及び船尾側の各2本ずつが1組としてT字形のバルブブリッジを介して開閉駆動され、弁棒と弁案内が摺動(しゅうどう)する部分の潤滑は、周囲からの潤滑油降りかけによるものであった。
 主機は、少なくとも6,000時間毎にピストン抜きによる開放整備が計画され、その際に排気弁については、弁傘部の強度を確保するため、同部の厚さが規定値を下回れば新替えすることが求められ、また、排気弁案内については、その内径と排気弁棒の外径との差で摩耗状況が確認される必要があり、取扱説明書では、内径をインサイドマイクロメータで計測したうえ、検査と掃除が済んだ排気弁棒の外径をマイクロメータで計測して、それらの差を計算して得られる隙間が、100分の13ミリを超えるときには弁案内を取り替えるよう記述されていたほか、その管理を確かなものにするため、弁座との当たり面を研削して再使用するときは元の組合せに戻すよう注意が促されていた。
 まつかぜは、平成11年6月指定海難関係人C社(以下Cという。)が購入し、同社の3つの航路で定期運航されていた各船の予備船として運航に従事し、平成12年7月に第一種中間検査を受けるため入渠することになった。
 Cは、同型式の機関を主機とする旅客船を4隻保有し、同時にそれらの予備機関を2基保有していたので、定期整備に際して、工期を短縮するため予め予備機関を開放整備しておき、入渠したところで搭載されていた主機と入れ換えることとして、A社に整備を委託する契約を結んだ。
 A社は、D社製の総代理店として機関の販売と修理を行い、4つの支店や事業所において整備を行っており、指定海難関係人A社B事業所(以下「AB」という。)が近畿及び中国・四国地区の舶用及び陸用機関の整備を担当し、昭和49年以来Cの旅客船の主機についても委託を受けて整備を行ってきており、まつかぜの入渠に備えてCの委託を受けて平成12年6月それまで保管していた2基の予備機関を開放し、整備に取りかかった。
 ところで、ABは、長年の整備経験から、排気弁と弁案内との隙間については、排気弁側が定期的な整備において弁座との当たり部を機械で研削し、2ないし3回の整備毎に新替えすることから、弁棒の外径については摩耗限度に達することがないと考え、また、研削した排気弁と弁案内の組合せを元に戻すようにしていなかった。一方、排気弁案内については、内径の摩耗限度が簡便に確認できるよう、NO/GO棒と称する判定器具を作成していたが、排気弁を組み付けた際に隙間の感触によっておおまかな判定ができるとして、同器具による内径の計測を行うかどうかを現場の判断に任せていた。
 ABは、自社工場で予備機関2基を開放し、主要部毎に整備を行ううち、排気弁を抜き出す際に印を付さないまま、96本の排気弁をシリンダヘッドから取り外し、付着物の掃除と当たり面の機械研削をしたのち傘部の厚さ不足で24本の排気弁を新替えすることとし、再び組み付けることになったが、再使用される排気弁棒の外径を計測し、弁案内の内径を確認するなど排気弁と弁案内との隙間の計測管理を十分に行うことなく、また、排気弁を任意の箇所に組み付けたので、弁案内との組合せが入れ替わり、摺動部に隙間の大きいものが生じたことに気付かなかった。
 Cは、予備機関2基の整備が開始され、組立てに当たり、工務担当者が立ち会い、ABから排気弁傘部の厚さによる取替判定の説明を受け、それら取替部品の内容等を確認した。
 まつかぜは、予備検査を経て陸上運転で性能を確認された2基の機関が、入渠地で右舷機及び左舷機として搭載され、出渠して再び定期航路の予備船及びチャーター船として運航された。
 主機は、左舷機の6番シリンダ排気弁の1本が、排気弁棒と弁案内との隙間が100分の13ミリを超えた状態で運転され、弁案内に装着されたオイルシールが新替えされていたので潤滑油の付着も少なめの状態で運転されることとなった。その後、平成13年及び14年の検査時期には運転時間が少なかったので、開放整備が行われず、潤滑油及び同こし器の取替えなどが運転時間によって実施され、運転が3週間空いたときには、バッテリーの充電と保守運転のために約1時間運転され、その間、出渠後の運転時間は約2,500時間となっていた。
 まつかぜは、同15年3月1日からE社に貸し渡され、山口県岩国市と同県東和町及び愛媛県松山市との間を結ぶ定期旅客輸送に従事するところとなり、1日4便の往復運航を開始し、片道1時間25分の航海を往復しながら、月平均340時間の運転を行っていたところ、左舷機の6番シリンダ排気弁棒の1本が弁案内との摺動部で摩耗が進行した。
 こうして、まつかぜは、船長及び機関長が乗り組み、旅客5人を乗せて、船首0.8メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成15年6月23日10時57分山口県屋代島伊保田港を発し、両舷機を回転数毎分1,950にかけて愛媛県松山港に向かっていたところ、左舷機6番シリンダの船首外側の排気弁が弁案内と金属接触して動きが悪くなり、閉鎖が遅れたところ、11時05分情島灯台から真方位263度0.5海里の地点において、ピストンに叩かれた同排気弁が弁傘と弁棒との間で折損し、左舷機の回転数が低下した。
 当時、天候は雨で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 まつかぜは、機関長が左舷機の排気に水蒸気が混入しているのを認め、機関室に入って左舷機の掃気室点検孔から冷却水が出ているのに気付いて左舷機の運転継続が困難と判断し、その旨を船長に報告したので、右舷機のみで航行を続け、松山港に入港した。
 まつかぜは定期運航を取りやめ、造船所に回航されて左舷機が精査された結果、6番シリンダの排気弁が折損し、ピストン及びシリンダヘッドが割れ、連接棒が曲がっていたほか、隣接した排気弁の傘部が欠けて排気集合管に飛び込み、過給機ノズルも曲損していることが分かり、のち、損傷部品が取り替えられた。
 ABは、弁案内の内径計測器具を具体的に検討したうえで、排気弁の整備において弁棒と弁案内の計測を確実に行うよう改め、隙間を適正に管理することとした。 

(原因)
 本件機関損傷は、機関修理業者が、主機の開放整備を行った際、排気弁と弁案内との隙間の計測管理が不十分で、基準を超えた隙間のまま組み付けられ、運転中、排気弁棒と弁案内の摩耗が進行して金属接触し、同弁の閉鎖が遅れて同弁傘がピストンに叩かれたことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 ABが、主機の開放整備を行った際、次の定期整備実施までの運転で、排気弁と弁案内との隙間が過大となって同弁の動きが悪くなることがないよう、整備基準に従って、弁棒外径の計測と弁案内の内径を確認するなど、同隙間の計測管理を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 ABに対しては、本件後、開放整備に際して、排気弁棒の外径計測と弁案内の内径計測を行うよう改め、隙間の計測管理を徹底していることに徴し、勧告しない。
 Cの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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