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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成16年神審第35号
件名

貨物船龍栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年8月31日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤、甲斐賢一郎、橋本 學)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:龍栄丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機付排気タービン過給機排気入口囲水冷壁に破口

原因
主機付排気タービン過給機の排気入口囲水冷壁の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機付排気タービン過給機の排気入口囲を開放した際、同囲水冷壁の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月25日04時00分
 大阪港堺泉北区第6区
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船龍栄丸
総トン数 1,137トン
全長 67.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分260

3 事実の経過
 龍栄丸は、平成元年6月に進水し、推進器として可変ピッチプロペラを備え、液化石油ガスの輸送に従事する鋼製加圧式液化ガスばら積船で、A受審人ほか7人が乗り組み、液化石油ガス約600トンを積載し、船首3.1メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成15年3月23日13時20分大阪港に向け四日市港を発した。
 主機は、B社が製造した、A34型と呼称するシリンダ数6の過給機付4サイクル機関で、航海中には、回転数及び推進器翼角をそれぞれ毎分252及び14.5度の常用状態として運転され、また、荷役中にも、荷役ポンプなどに給電する定格出力500キロボルトアンペアの発電機を、船首側に備えた増速機を介して駆動するために運転され、その運転時間が月間約400時間であった。
 主機付過給機(以下「過給機」という。)は、C社が製造したVTR251-2型と呼称する排気ガスタービン式で、主機の後端部に据え付けられており、各シリンダから2本の排気集合管を経て2群となった排気が流入する排気入口囲、タービン軸を駆動したのち排気管に排出されるタービン車室及び渦巻室と称する空気側車室で構成され、高温となる排気入口囲及びタービン車室がいずれも鋳鉄製で、冷却水室を有し、主機冷却清水によって冷却されるようになっていた。
 主機冷却清水系統は、防錆剤を添加された清水が、電動冷却清水ポンプによって加圧され、冷却清水冷却器を経て主機入口主管に至り、シリンダジャケット及び過給機への経路に分岐して通水されたのち、シリンダヘッド出口に設けられた同出口主管で合流し、再び同ポンプに戻る循環経路をなしていた。また、同清水系統には、容量500リットルで、水面計、低水位警報装置及び清水補給弁を備えた冷却清水膨張タンクが、三層構造となった機関室最上段に据え付けられており、主機出口主管から分岐した枝管を経て冷却清水の一部が同タンクに流入し、その底部から同ポンプの吸入管に至る配管を経て環流するようになっていた。
 ところで、過給機メーカーは、排気入口囲及びタービン車室の保守に関し、燃料の燃焼に伴って生成される硫黄酸化物による低温腐食の抑制に留意したうえ、使用を開始して2年が経過すれば、6箇月ごとに各水冷壁の厚さを点検し、衰耗している場合には、3ミリメートル(以下「ミリ」という。)を限度値として、速やかに同囲及び車室を新替えすべき旨を記載した取扱説明書を使用者に配布していた。
 主機の燃料油は、航海中にはC重油が使用され、荷役中及び入港時に低負荷で運転する際には、前記低温腐食を抑制することなどを目的にA重油が使用されていたものの、出港当日に荷役を行う場合には、航海が短時間となる場合を除き、燃料費の節約を図るために出港前からC重油への切替操作が行われていた。
 したがって、主機は、出港時、低負荷において同油系統内が次第にC重油に置換されることとなり、燃焼が良好でなかったばかりか、排気温度が低い状態で運転されることがあったので、排気系統で燃焼残渣の堆積及び腐食が進行していた。
 過給機は、毎年実施されていた入渠工事の際に開放され、必要な保守が実施されていたところ、平成7年ごろ水冷壁の異常な衰耗状態が認められた排気入口囲及びタービン車室がそれぞれ新替えされ、次いで同12年7月同状態によりタービン車室のみが新替えされた。
 平成14年7月A受審人は、龍栄丸が定期検査のため入渠し、排気入口囲が長期間新替えされていないことを承知して、業者に過給機を開放させた際、排気入口囲水冷壁を外観目視点検し、同壁排気側の腐食が著しく進行していることを認め、同壁の厚さが衰耗していることを推認できる状況であったが、業者から肉厚測定器で計測した4箇所の厚さが8ないし10ミリである旨の報告を受け、前記限度値に対して余裕があったことから、1年後に予定している次回開放時期まで安全に継続使用できるものと思い、測定箇所以外の部位の厚さを推定する補足的手段として打検を併用するなど、同壁の点検を十分に行わなかったので、著しく衰耗した箇所があることに気付かないまま復旧した。
 こうして、龍栄丸は、過給機排気入口囲水冷壁の衰耗が更に進行する状況で運航が続けられ、平成15年3月24日10時10分大阪港に入港したのち、同時15分主機を停止して全シリンダの指圧器弁を開放した状態とし、同港堺泉北区第6区において揚荷役に備えて錨泊待機していたところ、いつしか同壁に破口が生じ、冷却清水が主機の排気集合管に漏洩したことから、翌25日04時00分泉大津沖埋立処分場防波堤灯台から真方位311度1.7海里の地点において、冷却清水膨張タンクの低水位警報装置が作動し、自室で就寝中のA受審人がこのことに気付き、急ぎ機関室に赴いたところ、排気弁が開弁時期にあたっていた6番シリンダの指圧器弁から同清水が流出しているのを認めた。
 当時、天候は雨で、風力1の北北東風が吹き、海上は平穏で、潮候は上げ潮の末期であった。
 龍栄丸は、A受審人が点検を行った結果、過給機排気入口囲水冷壁に破口が生じていることが判明したので、過給機の運転が断念され、無過給状態で主機を運転して大阪港堺泉北区第4区の揚荷場所に着岸し、のち、同囲を新替えするなどの修理が行われた。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機付排気タービン過給機の排気入口囲が開放された際、同囲水冷壁の点検が不十分で、同壁が衰耗していることに気付かれることなく復旧され、燃焼生成物などによって同壁の腐食が進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、定期的保守の目的で、主機付排気タービン過給機の排気入口囲を開放し、外観目視により同囲水冷壁の腐食を認めた場合、同時に行った肉厚測定器による計測箇所が数箇所に限定されていたのであるから、著しく衰耗した箇所の有無を判断できるよう、補足的手段として打検を併用するなど、同壁の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、計測値が使用限度とされた値に対して余裕があったので、1年後に予定している次回開放時期まで安全に継続使用できるものと思い、同壁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、燃焼生成物などによる腐食が進行し、衰耗している部位があることに気付かないまま運転を続け、同壁に破口を生じさせて、冷却清水の排気流路への漏洩を招き、過給機を運転不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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