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平成16年仙審第10号
件名

漁船第五天榮丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年8月17日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、原 清澄、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第五天榮丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
過給機の排気入口囲水冷壁下部に破孔、主機6番シリンダのピストンピンと連接棒が曲損及びシリンダライナが異常摩耗など

原因
主機冷却水膨張タンクの冷却水量の点検不十分、主機の排気ガス白変時の措置不適切

主文

 本件機関損傷は、主機冷却水膨張タンクの冷却水量の点検が不十分で、冷却水が漏洩していることに気付かなかったばかりか、主機の排気ガスが白変した際の措置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月2日07時10分
 福島県小名浜港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五天榮丸
総トン数 38トン
全長 27.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 411キロワット(計画出力)
回転数 毎分790(計画回転数)

3 事実の経過
 第五天榮丸(以下「天榮丸」という。)は、平成4年1月に進水した沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B社製のM200-ST2型ディーゼル機関を主機として備え、主機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付され、6番シリンダの船尾側架構上にC社が製造したVTR161-2型と呼称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していたほか、主機で甲板用油圧ポンプを駆動するようになっていた。
 過給機は、排気入口囲、タービン車室、ブロワ車室及び軸流タービンと遠心式ブロワとを結合したロータ軸等で構成されており、高温の排気ガスにさらされる排気入口囲及びタービン車室が主機の冷却清水系統から分岐した清水(以下「冷却水」という。)で冷却されていた。また、排気入口囲の側面には主機の排気集合管2本が縦に並んで接続されていて、1番から3番シリンダまでの主機の排気ガス(以下「排気ガス」という。)が、上側の排気集合管から、4番から6番シリンダまでの排気ガスが、下側の排気集合管からそれぞれ同入口囲に流入し、ロータ軸を回転させて煙突から大気中に放出されるようになっていた。
 ところで、排気入口囲やタービン車室の水冷壁(以下「水冷壁」という。)は、排気ガス側からの硫酸腐食と冷却水側からの浸食及び電気腐食とによって経年的に衰耗し、定期的に点検を行っていても局部的に破孔を生じて冷却水が排気ガス側に漏洩することがあるが、そのような場合には、主機の冷却清水系統に付設された冷却水膨張タンク(以下「膨張タンク」という。)の冷却水の減少量が増加し、漏洩量が増えると煙突から出る排気ガスの色が白く変色するなどの現象が生じ、さらに、冷却水が漏洩するまま主機の運転を続けていると、漏洩した冷却水が排気集合管から主機のシリンダ内に浸入してピストンやシリンダライナ等を損傷するおそれがあった。したがって、早期に冷却水の漏洩を発見して適切な措置を取るためには、機関取扱者が日頃から膨張タンクの冷却水量や排気ガスの点検を十分に行う必要があった。
 天榮丸は、福島県小名浜港を基地として、同港を早朝出港して主に福島県沖合の漁場で操業を行ったのち翌日の夜帰港して水揚げを行うという形態で操業を繰り返し、毎年7月初めから8月末までの休漁期間中に主機及び過給機の開放整備を行っており、過給機については、就航以来排気入口囲及びタービン車室を取り替えていなかったものの、平成13年7月の第1種中間検査工事で水圧検査及び肉厚計測を行い、水冷壁に異常がないことを確認していた。
 A受審人は、就航時から天榮丸に機関長として乗り組んで各機器の運転及び保守管理に携わっており、出港後の航海中と曳網中に機関各部を計測して機関日誌に記録するとともに、操業中にはほぼ3時間ごとに甲板上で作業に従事していたことからその都度煙突から出る主機の排気ガスを点検していたが、膨張タンクについては、普段の冷却水の減少量が少なかったうえ、同タンクが機関室外に設置されていたこともあって、時々しか同タンクの冷却水量を点検していなかった。
 天榮丸は、同14年の休漁期にも例年どおり主機及び過給機の整備を行い、主機を月間400時間ほど運転しながら操業に従事しているうち、肉厚計測では発見できなかった過給機排気入口囲下部水冷壁の衰耗域中心部の局部的な腐食が進行し、翌15年5月の下旬ごろ同腐食部に破孔が生じて冷却水が排気ガス側に漏洩するようになり、膨張タンクの冷却水の減少量が増加する状況となっていたが、漏洩量が少なかったために排気ガスが白変するまでには至っていなかった。
 ところで、A受審人は、膨張タンクの冷却水量は少ししか減らないので時々点検していればよいと思い、5月の連休前以来膨張タンクの冷却水量を点検していなかったので、同タンクの冷却水の減少量が増加していることに気付かず、それ故、漏洩箇所の調査を行わなかったので、過給機の水冷壁から冷却水が漏洩していることに気付かなかった。
 こうして、天榮丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同年6月2日03時ごろ小名浜港を発し、主機の回転数を全速力前進の毎分800回転(以下、回転数は毎分のものとする。)にかけて同港東方沖合の漁場に向かい、05時30分ごろ漁場に至って第1回目の操業を開始した。
 天榮丸は、06時10分ごろから主機の回転数を約730回転として曳網を行っていたところ、同時40分ごろ、前示の破孔が拡大して冷却水の漏洩量が増加したため、煙突から出る排気ガスの色が白変した。
 操舵室で操船に当たっていた船長は、船尾方を見たときに主機の排気ガスが白変しているのを認めたので、主機の回転を最低回転数の500回転まで下げたのち、自室で休息中のA受審人にその旨を連絡した。
 連絡を受けたA受審人は、排気ガスが白変して冷却水の添加剤の臭いがするのを認めたので、過給機から冷却水が漏洩しているものと判断したが、機関室に赴いて点検したところ特に主機に異常が認められなかったことから、揚網を終えるまではそのまま主機を運転しても大丈夫だろうと思い、主機を一旦停止して過給機の冷却水を遮断するなどの適切な措置を取らなかった。
 その後、天榮丸は、主機で甲板用油圧ポンプを駆動しながら500回転の低負荷で揚網作業を行っているうち、漏洩した冷却水が下部排気集合管に滞留するとともにその一部がシリンダ内にも浸入して6番シリンダの連接棒が曲損するなどしたが、異音等の異常な現象が認められなかったことからそのまま揚網作業が終了するまで主機の運転が続けられ、07時10分番所灯台から真方位105度16.2海里の地点において、A受審人が機側で主機を停止した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 天榮丸は、来援した僚船に曳航されて小名浜港に引き返し、整備業者が主機及び過給機を調査した結果、過給機の排気入口囲水冷壁下部に破孔が生じ、主機6番シリンダのピストンピン及び連接棒が曲損するとともにシリンダライナが異常摩耗していることなどが判明したので、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。 

(原因)
 本件機関損傷は、主機及び過給機の運転管理を行う際、膨張タンクの冷却水量の点検が不十分で、冷却水が漏洩していることに気付かなかったばかりか、排気ガスが白変した際の措置が不適切で、低負荷運転中に過給機の水冷壁から漏洩した冷却水が主機のシリンダ内に浸入したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機及び過給機の運転管理を行う場合、冷却水が漏洩しても早期に発見して適切な措置が取れるよう、膨張タンクの冷却水量の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、膨張タンクの冷却水量は少ししか減らないので時々点検していればよいと思い、同タンクの冷却水量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、過給機の水冷壁から冷却水が漏洩していることに気付かなかったばかりか、排気ガスの白変後もそのまま主機の運転を続けて漏洩した冷却水が主機のシリンダ内に浸入する事態を招き、6番シリンダのピストンピン及び連接棒を曲損させるとともにシリンダライナを異常摩耗させるなどの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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