(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月2日01時00分
北海道奥尻海峡
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船二十八宗丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
23.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
534キロワット |
3 事実の経過
二十八宗丸(以下「宗丸」という。)は、平成元年3月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央部船尾寄りに機関室を配置し、同室前部に主機駆動の、B社が製造したTEW33D-4G型と称する電圧220ボルト容量250キロボルトアンペアの三相交流発電機を備えていた。
機関室の給気ダクトは、同室前部の両舷側に各1個が設けられ、いずれも上甲板上の空気取入れダクトと機関室内の空気吹出しダクトからなり、空気取入れダクトが、ブルワークの本体、上縁板、縦補強材及び内張り板と張出し甲板とで構成され、横幅約20センチメートル(以下「センチ」という。)高さ95センチ長さ約1メートルあり、その内部が高さ約60センチの仕切り板で前室と後室に仕切られ、前室最下部の内張り板に高さ約10センチ長さ約50センチの空気取入れ口が開口していた。そして、空気は、空気取入れ口から前室に流入し、仕切り板を越えて後室に入り、後室底部の開口部から外板沿いに設けられた空気吹出しダクトに導かれ、機関室床面付近まで下降して同室内に吹き出すようになっていた。また、前室底部には、径約3センチの水切り穴3個が設けられ、同室に滞留した海水が張出し外板の内部に落下し、更に同外板下部に開口している放水口から船外に排出されるようになっていた。
ところで、宗丸は、荒天航行時、放水口が水面下に没することがあり、海水が前示空気取入れダクトの前室底部の水切り穴から逆流し、空気とともに機関室内に浸入して、これが集魚灯用発電機に吸い込まれ、同発電機の固定子巻線の絶縁が低下する状況となっていた。
A受審人(昭和61年4月一級小型船舶操縦士免許取得)は、平成13年7月に中古の宗丸を購入した当初から集魚灯用発電機右舷付近の鋼製敷板に塩が付着し、腐食が進行していることに気付き、機関室の右舷給気ダクトから海水が浸入しているのを認めていたが、大事に至ることはないと思い、給気ダクトからの海水浸入防止の措置をとることなく、操業を続けていた。
こうして、宗丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同15年10月1日13時40分北海道久遠漁港を発し、奥尻島南方沖合の漁場で昼いか漁に従事したのち、21時30分同漁港西方約4.5海里の漁場で集魚灯を点灯して操業を続けていたところ、絶縁が低下していた集魚灯用発電機の固定子巻線が短絡して焼損し、翌2日01時00分久遠港外南防波堤灯台から真方位241度3.8海里の地点において、集魚灯が消灯した。
当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、海上には白波が立っていた。
操舵室で操業の様子を見守っていたA受審人は、機関室に入ったところ、集魚灯用発電機が発熱して煙と焦げた臭いを発しているのを認め、操業を打ち切り、のち宗丸は、函館港に回航されて同発電機が新替えされ、空気取入れダクトの前室底部の水切り穴が塞がれた。
(原因)
本件機関損傷は、機関室給気ダクトからの海水浸入防止の措置が不十分で、海水が集魚灯用発電機に吸い込まれ、同発電機の固定子巻線の絶縁が低下したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関室給気ダクトから海水が浸入しているのを認めた場合、同ダクト付近に集魚灯用発電機が設置されていたから、同発電機に海水が吸い込まれることのないよう、同ダクトからの海水浸入防止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、大事に至ることはないと思い、給気ダクトからの海水浸入防止の措置をとらなかった職務上の過失により、同発電機の絶縁低下を招き、同発電機を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。