(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月24日19時30分
京浜港東京区第3区
2 船舶の要目
船種船名 |
引船あすか丸 |
総トン数 |
170トン |
全長 |
30.80メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
2,353キロワット |
回転数 |
毎分750 |
3 事実の経過
あすか丸は、平成10年6月に進水した鋼製引船で、2機2軸を有し、主機としてC社が製造した型式名6N260-UNと呼称するディーゼル機関を機関室の左右両舷側(以下、左舷側を「左舷機」及び右舷側を「右舷機」という。)に装備し、主機の遠隔操縦装置を船橋に備えていた。
主機は、左右両舷機の架構船尾側上部に過給機が付設され、船尾側から順番号の付けられている各シリンダの排気が、1番、4番と5番シリンダ及び2番、3番と6番シリンダからなる2群の排気マニホルドを経て過給機に導かれており、また、シリンダブロックと機関台との据付面には防振措置が講じられていた。
一方、主機の過給機は、D社が製造したRH203型と呼称する排気ガスタービン過給機で、タービンケーシング内部のニッケル合金製のタービン翼と、ブロワケーシング内部のブロワ翼とを結合したロータ軸の中央部が浮動スリーブ式の平軸受で支えられており、同軸がタービン翼の外周側から半径方向に流入する排気により回転する構造になっていた。
ところで、主機の燃料噴射弁は、本体の全長73.5ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径30ミリ、各噴口の直径0.42ミリ個数9及び噴射角度135度のノズルが装着されていた。そして、ノズルを入れた包装用の紙製箱の外側には、部品番号が、及びノズルの本体上部には、識別番号がそれぞれ表示されていたものの、ノズルは、他の機関型式用を兼ねていて、同箱及び本体に前示機関型式名が表示されていないまま、部品番号と同番号記載の取扱説明書等とを照合しない限り、同箱の外見上から機関型式名を見分けることが困難なものであった。
指定海難関係人A社は、親会社であるC社製造のディーゼル機関・機関部品の販売及び機関の据付工事・保守整備等を主たる業務とし、あすか丸については主機の据付以来、保守整備用の機関部品を納入しており、同12年10月以降、B責任者がA社の同業務を統括し、機関部品を受注した際には船名、機関型式名、部品名及び部品番号等を書類に記載のうえ自社物流部門経由で親会社から受注品を納入する手順にしていたほか、急を要する受注に応じる目的で、各機関型式用の機関部品を倉庫に保管していた。
あすか丸は、京浜港東京区第2区芝浦岸壁を係留地とし、雇入れの一括公認を受けた機関長職の有資格者3人が輪番の休日を付与される形態で勤務に就き、平素、コンテナ船の出航援助作業等の業務に従事する際には主機を高出力領域の回転数にかけ、月間120時間ばかりの運転を繰り返しており、同13年10月中旬に船舶管理人であるE社が主機の中間検査受検工事用の機関部品として燃料噴射弁のノズル等をA社に発注することになった。
ところが、A社は、B責任者があすか丸の船舶管理人の電話を受け、主機の燃料噴射弁のノズル12個を受注した際、親会社から納入する手順をとらないで、倉庫に保管していた各機関型式用ノズルの中から適合するものを選ぶこととしたが、そのとき、部品番号の確認を十分に行わなかったので、本体の全長等が同一ではあるものの噴口直径だけが0.03ミリ大きく、適合しないノズル3個が混入したまま、本体を1個ずつ包装用の紙製箱に入れた状態で納入した。
あすか丸は、翌11月上旬に主機の中間検査受検工事を業者に依頼して左右両舷機の全シリンダの燃料噴射弁を整備する際、A社から納入されたノズルを間違いないものと信頼し、同ノズルに新替えしたところ、前示噴口直径の大きなものが右舷機の4番、6番、5番シリンダの順で連続して着火する同弁に装着され、その後、業務を再開して運転中、振動、排気温度及び燃焼最高圧力等が著しく変化しないまま、各シリンダ間における燃料噴射量が不均一になり、出力差が生じて排気の脈動による繰返し衝撃力が過給機のタービン翼付け根部に作用し、同部の材料の疲労が次第に進行する状況になった。
こうして、あすか丸は、機関長ほか4人が乗り組み、船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同14年7月24日19時00分係留地を発し、京浜港東京区第3区コンテナふ頭に至り、左右両舷機をそれぞれ回転数毎分750にかけ、僚船とともにコンテナ船の出航援助作業中、右舷機の過給機のタービン翼が疲労破壊して回転体に不釣合いが生じ、平軸受が異常摩耗によりロータ軸と焼き付いて同軸の軸心が偏移し、19時30分東京中央防波堤西仮設灯台から真方位311度1.6海里の地点において、ブロワ翼とブロワケーシングとが接触して損傷し、ロータ軸が折損した。
当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
あすか丸は、右舷機が操舵室から遠隔操縦装置の操作によって減速された後、甲板上にいた機関長が運転音の異状に気付いて機関室に赴き、同機の過給機のブロワケーシング付近で損傷による破口から漏れた潤滑油が高温の排気に触れて燃え上がっていることを認め、同室に備付けの消火器を使用して鎮火したが、運転継続不能と判断してその旨を船長に報告し、コンテナ船の出航援助作業を打ち切り、左舷機のみを運転して係留地に引き返し、過給機が精査された結果、前示損傷が判明し、各損傷部品が取り替えられた。
また、A社は、本件後、ノズル等の機関部品を受注した際には部品番号の確認を十分に行うことの徹底を図る改善措置をとった。
(原因)
本件機関損傷は、主機の部品販売業者が、燃料噴射弁のノズルを受注した際、部品番号の確認が不十分で、適合しない噴口直径の大きなノズルが納入されて同弁に装着後、運転中、各シリンダ間における燃料噴射量が不均一になって出力差が生じ、排気の脈動による繰返し衝撃力が過給機のタービン翼に作用して材料の疲労が進行したことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
A社が、主機の燃料噴射弁のノズルを受注した際、部品番号の確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A社に対しては、本件後、主機のノズル等の機関部品を受注した際には部品番号の確認を十分に行うことの徹底を図る改善措置をとった点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。