(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月20日03時30分
北海道花咲港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十八花咲丸 |
総トン数 |
168トン |
全長 |
38.80メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
回転数 |
毎分1,000 |
3 事実の経過
第六十八花咲丸(以下「花咲丸」という。)は、昭和59年6月に進水した、さけ・ます流し網漁業及びさんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、B社が製造した6PA5L型と称する清水冷却方式のディーゼル機関を備え、クラッチ付き減速機を介してプロペラ軸と連結し、主機の各シリンダには船尾側を1番とする順番号が付されていた。
主機のシリンダライナ(以下「ライナ」という。)は、全長555ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径255ミリで、外径が、フランジ部313ミリ、上部嵌合部302ミリ、ジャッケット部298ミリ及び下部嵌合部290ミリとなっており、フランジの厚さが27.5ミリあって、フランジ上面にシリンダヘッドとの当たり面となる段付き突起部を設けていた。また、ライナは、架構一体型の鋳造製シリンダブロックに装着され、シリンダヘッドに押えられて固定されており、同ヘッドの締め付けを油圧ジャッキで行い、フランジ上方のガスシールを金属製パッキンで、フランジ下面の水密を液体パッキンで、下部嵌合部の水密を3本のOリングでそれぞれ確保する構造となっていた。
花咲丸は、周年5月下旬から7月末までをカムチャツカ半島の東海域でさけ・ます流し網漁業に、8月下旬から11月末までを択捉島沖合から千葉県沖合にかけての海域でさんま棒受け網漁業にそれぞれ従事し、12月から休漁期に入り地元の北海道花咲港で上架されて、翌年1月から3月にかけて船体と機関の整備が行われ、主機を年間4,500時間ばかり運転していた。
ところで、主機は、漁場往復時の高負荷運転や操業中の急激な負荷変動が繰り返されているうち、シリンダブロックに熱応力が作用して経年による変形をもたらし、ライナのフランジを支えるライナ着座面の平行度や上部嵌合部及び下部嵌合部の同芯度に不整合を生じ始め、ライナが微細に振動するようになって、フランジ付根に繰り返し曲げ応力が作用するとともに、ジャケット側の表面にキャビテーションによる腐食が進行する状況となった。
A受審人は、平成7年5月に機関長として乗り組み、機関部員3人を指揮して機関の保守運転管理に当たり、翌8年の機関整備の際、ライナ全数のジャケット側表面にキャビテーションによる腐食が進行していることを認めたことから、その後も毎年ライナの抜き出し点検を続けることとし、腐食の甚だしいライナに対しその都度肉盛り補修を行っていた。
平成11年3月の機関整備の際、A受審人は、3個のライナがフランジ付根にわずかの亀裂を生じているのを初めて認め、これらを新替えしたものの、翌12年1月の機関整備においても1、3及び4番の各ライナに同様の亀裂が発生しているのを認め、ライナの亀裂が頻発している状況であったが、機関メーカーの技術員が修理に立ち会っており、同人から特に助言を受けていなかったことから、ライナを新替えしておけば大丈夫と思い、同人に強く申し入れるなどして、亀裂の発生原因調査を十分に行うことなく、その後も運転を続けているうち、シリンダブロックの変形が進行する状況となった。
そして、A受審人は、平成14年8月花咲港を基地としてさんま棒受け網漁に従事中、翌9月1日主機ライナに生じていた亀裂が燃焼室側に達して冷却水圧力計の指針が脈動し、これに気付いて主機を停止し、エアランニングを行ってシリンダからの噴水を認め、開放調査の結果、3及び5番ライナに亀裂を生じていることが判明し、ライナを新替えして操業を続けていたところ、同月13日にも3及び4番ライナに亀裂を生じていることを認めたが、盛漁期でもあり、なおも亀裂の発生原因調査を行わずにライナを新替えして操業を続けていた。
こうして、花咲丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.6メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、同月19日13時30分花咲港を発し、16時30分同港南方沖合約40海里の漁場に至って操業を始め、主機回転数を毎分890として魚群探索中、翌20日03時30分厚岸灯台から真方位137度30.0海里の地点において、主機の冷却水圧力計の指針が脈動した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
折から機関室当直中のA受審人は、これに気付いて操業を中止し、回転数毎分560の低速力で発航地に戻った。
帰着後、花咲丸は、機関メーカーの技術員が立ち会って主機の開放調査が行われた結果、1、2、3、5及び6番ライナにそれぞれ外周350ないし600ミリにわたる亀裂を生じていることが判明し、いずれも中古ライナと取替えられるとともに、シリンダブロックのライナ着座面の摺り合わせが行われ、のち新品ライナと交換されて操業を続け、休漁期に入って同ブロックが新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、主機シリンダライナの亀裂が頻発した際、亀裂の発生原因調査が不十分で、シリンダブロックに経年による変形を生じたまま運転が続けられ、同ライナのフランジ部に曲げ応力が作用したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が主機シリンダライナの亀裂が頻発した際、亀裂の発生原因調査を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となるが、機関メーカーの技術員が修理に立ち会っており、同人から特に助言を受けていなかった点に微し、懲戒するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。