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平成16年門審第60号
件名

漁船第三勇漁丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年9月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(寺戸和夫、清重隆彦、上田英夫)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第三勇漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
蓄電池4台及び安定器12台を焼損

原因
電気設備の取扱い(蓄電池の接続配線)不適切

主文

 本件火災は、複数の蓄電池を接続配線するにあたり、同配線が不適切で、電路が短絡状態となり、電線が発熱したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月13日07時50分
 長崎県壱岐市芦辺町八幡浦漁港内
 (北緯33度47.0分 東経129度47.3分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三勇漁丸
総トン数 5.8トン
登録長 11.49メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 280キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第三勇漁丸
 第三勇漁丸(以下「勇漁丸」という。)は、平成2年7月に進水したFRP製の漁船で、平成14年8月A受審人が中古で購入したのち、GPSや無線方位測定機を取り付け、無線機の修理などを行ったのち、平成14年10月から一本釣り漁を始め、その後数回出漁したものの、ほとんど操業に従事しないまま長崎県壱岐市芦辺町の八幡浦漁港に係留されていた。
 勇漁丸は、主機として、コマツディーゼル株式会社製の6M117A-1型と称するディーゼル機関を備え、船体船首部に氷倉及び魚倉を、同中央部に操舵室を設け、操舵室の下方に機関室があり、機関室の後方に安定器室がそれぞれ配置されていた。
イ 主機
 主機は、機側の左舷後部にある始動電動機によって始動され、右舷前部に同電動機駆動蓄電池の充電用発電機が、また船首側の動力取出軸でベルト駆動される集魚灯用発電機を左舷方に、レーダー、魚群探知機、プロッター、GPS等の航海計器、無線機器及び照明など船内負荷のための蓄電池の充電用発電機が右舷方にそれぞれ設けられていた。
ウ 船内の蓄電池と安定器
 安定器室には、集魚灯用安定器が船尾側に8台及び左舷側に4台の計12台が置かれ、右舷側に蓄電池が4台設置されていた。
 蓄電池は、4台とも電圧12ボルト容量145アンペア時で、うち2台を直列に配線して主機始動電動機用電源として、他の2台を同様に直列配線として前示の船内負荷用電源として、それぞれ使用されていた。

3 事実の経過
 勇漁丸は、平成15年3月中旬、漁を終えて長崎県壱岐市芦辺町の八幡浦漁港に帰航したのち、同港防波堤内に係留し、その後3ないし4日毎に蓄電池の充電のため主機を30分間ばかり運転し、翌4月12日までそのまま係留を続けていた。
 ところでA受審人は、勇漁丸を購入したとき、蓄電池について、前船主から、5年ないし6年前に購入して取り付けたもので既に相当経年劣化している旨の引継を受け、また日頃電気関係の修理などを依頼していた業者からも、新替えした方がよいとの助言を得ていたものの、まだ使用できるだろうと考え、新替えしないまま継続使用していた。
 そしてA受審人は、係留中の定期的な主機運転時に、主機始動電動機用蓄電池(以下「始動用蓄電池」という。)の電圧計を見て、計器の指示がスケール一杯のほぼ直流25ボルト程度を示すまで運転を続け、同蓄電池及び船内負荷用蓄電池(以下「船内用蓄電池」という。)に必要な充電を行っていたものの、始動用蓄電池については、機関を停止したのち、同蓄電池の電源スイッチの場所が分からないまま同スイッチを遮断せずに離船していたので、その都度起電力を著しく低下させ、次回の主機運転で通常起電力の回復を果たす状況であった。
 平成15年4月13日07時30分A受審人は、定期的な蓄電池の充電のため主機を運転する目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水で係留している勇漁丸に赴き、07時35分主機を始動しようとしたものの、これが始動せず、始動用蓄電池が放電して電圧計がゼロ近くにまで低下していることを知った。
 A受審人は、GPSの電源を投入してみたところ、機器が正常に作動したことから、自動車の通称「バッテリ上がり」のときのように、放電していない船内用蓄電池によって主機を始動し、しばらく運転すれば始動用蓄電池を充電できると考え、船内で複数の蓄電池間を接続配線した経験もないうえ、各蓄電池の接続状況を十分に把握しておらず、誤配線するおそれがあったが、僚船では乗組員が蓄電池間の接続配線を行っていたので、自分でもできると思い、業者に依頼するなり、蓄電池間の接続配線に慣れている僚船の乗組員に指導を仰ぐなりして、適切な配線となる措置をとることなく、一旦帰宅して、長さ2メートル外径約18ミリメートルばかりで、両端に急速クリップの付いた自動車用ブースタケーブル2本を船内に持ち込み、始動用蓄電池2台のうち1台の陽極及び陰極と、船内用蓄電池2台のうち1台の陽極及びもう1台の陰極とを接続したので、始動用蓄電池の片方が短絡配線となった。
 こうしてA受審人は、短絡配線となったことに気付かないまま操舵室に赴き、主機始動の操作を行ったものの主機が始動しなかったことから不審に思い、安定器室に降りて点検したところ、始動用蓄電池の残余起電力によって短絡配線となったブースタケーブルに過電流が流れ、同ケーブルが発熱して急速クリップ付近から白煙を生じ、同クリップが触手できないほどの高温となっていることを知った。
 勇漁丸は、その直後からブースタケーブルの絶縁被膜が、異音を生じながら発煙し始め、07時50分金城岩灯台から真方位306度3,030メートルの地点に係留中、安定器室内で火災が発生した。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、操舵室に急行して同室に置いてあった持ち運び式の粉末消火器を抱え、安定器室の入口から同消火器を作動させて消火に努め、火災に気付いて駆けつけた付近の人からも助力を受け、火災発生から短時間で鎮火に成功した。
 火災の結果、勇漁丸は、蓄電池4台及び安定器12台を焼損し、のち、それらをすべて新替えした。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、始動用蓄電池の放電による主機の始動不能を認め、複数の蓄電池との間で充電のための接続配線を行うにあたり、接続すべき蓄電池及び陽極と陰極とを誤ることのないよう、業者に依頼するなり、蓄電池間の接続配線に慣れている僚船の乗組員に指導を仰ぐなどして、同配線が適切に行われるよう十分な措置をとらなかったこと
2 A受審人が、前船主及び電気関係の業者から、古くなった蓄電池の新替えを助言されたとき、今しばらくこのままでも大丈夫と考えて継続使用し、助言に従って蓄電池を新替えしていなかったこと
3 係留中、A受審人が、始動用蓄電池の電源スイッチの場所が不明のまま、同蓄電池の放電を最小限に防止するよう、同スイッチを遮断していなかったこと

(原因の考察)
 本件は、係留中、船内の始動用蓄電池が放電し、他の正常な蓄電池から主機始動電動機用の始動電力を得るため、複数の蓄電池間を接続配線するにあたり、同配線を誤って電路が短絡したことによって発生したもので、その原因を考察する。
 電路の短絡は、複数の蓄電池間の接続配線が正しく行われておれば発生せず、また同配線は、それほど難度の高い知識や技術が要求されるものでもなく、複数の蓄電池のグループ別用途及び各蓄電池の接続状況を十分に把握しておれば、誤配線となることはなかったものである。
 そして、直後に発航を控えていたわけでもなく、長期にわたる係留中の定期的な蓄電池充電作業であったのであるから、主機の始動不能という現象とはいえ、急いで充電用の接続配線をしなければならない必然性もなく、接続配線を実行する前に、自身が各蓄電池の接続状況を十分に把握していなかったのであるから、接続すべき蓄電池及び蓄電池の陽極と陰極とを誤ることのないよう、業者に依頼するなり、蓄電池間の接続配線に慣れている僚船の乗組員に指導を仰ぐなどの措置をとるのに時間的な余裕もあった。
 従って、A受審人が、複数の蓄電池間を接続配線するにあたり、同配線が短絡状態とならないよう適切な措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 蓄電池の新替えしていなかったこと及び蓄電池の電源スイッチを遮断していなかったことについては、いずれも本件火災に至る過程で関与した事実であるが、本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、これらは、海難防止の観点から積極的に措置されるべき事項である。 

(海難の原因)
 本件火災は、岸壁係留中、主機始動電動機用及び船内負荷用の両電源としてそれぞれ複数の蓄電池を配置した安定器室において、放電した主機始動電動機用蓄電池側に充電する目的で、十分な起電力を残した船内負荷用蓄電池側から自動車用ブースタケーブルを使用して接続配線する際、同配線が不適切で、電路が短絡状態となって過電流が流れ、電線が発熱したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、岸壁係留中、主機始動電動機用及び船内負荷用の両電源としてそれぞれ複数の蓄電池を配置した安定器室において、主機始動用の蓄電池側が放電して主機が始動不能となっているのを認め、十分な起電力を残した航海計器など船内負荷用蓄電池側の電源で主機を始動し、併せて主機始動用の蓄電池側を充電する目的で、自動車用のブースタケーブルを使用して両蓄電池群間を接続配線する場合、自身では各蓄電池の接続状況を十分に把握していなかったのであるから、接続すべき蓄電池及び陽極と陰極とを誤ることのないよう、業者に依頼するなり、蓄電池間の接続配線に慣れている僚船の乗組員に指導を仰ぐなどして、同配線を適切に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、僚船では乗組員が蓄電池間の接続配線を行っていたので自分でもできると思い、業者に依頼するなり、蓄電池間の接続配線に慣れている僚船の乗組員に指導を仰ぐなどして、同配線を適切に行わなかった職務上の過失により、蓄電池間の接続配線を誤って短絡配線としたことから、同ケーブルが過電流によって発熱する事態を招き、同ケーブルの絶縁被膜が燃え上がって安定器室内で火災を発生させ、蓄電池4台及び安定器12台が焼損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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