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平成16年神審第27号
件名

押船恵山丸火災事件(簡易)

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年8月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:恵山丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
両舷主機遠隔操縦装置、舵取機及び交流・直流の各給電盤などの電線並びに延焼した操舵室内張材の一部が焼損

原因
鋼板溶断作業時の作業方法不適切

裁決主文

 本件火災は、ガス切断トーチを用いて操舵室床板底部鋼板の溶断作業を行った際、作業方法が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月13日09時10分
 大阪港大阪区第2区安治川突堤南岸壁
 
2 船舶の要目
船種船名 押船恵山丸
総トン数 19トン
全長 16.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 恵山丸は、2機2軸の推進装置を有する一層全通甲板型の鋼製押船で、平成6年11月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が甲板員1人と乗り組み、同15年11月4日から兵庫県西宮市沖合での台船の点検作業に従事したのち、翌5日夕刻船首1.4メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、大阪港大阪区第2区安治川突堤南岸壁に左舷付で係留された。
 恵山丸は、上甲板上の船体中央からやや船首寄りに4本の支柱で組み立てられた、同甲板上高さ約5.50メートルの櫓上に、長さ1.80メートル幅2.00メートル高さ2.00メートルの操舵室が設けられ、船内での簡易な溶断及び加熱などを行えるよう、櫓後部の同甲板上に長さ約20メートルのガスホースを接続した酸素及びアセチレンガスボンベ各1本を備えていた。
 操舵室床面は、同室底面の鋼板(以下「底面鋼板」という。)から約10センチメートルの間隙を設けて厚さ約5ミリメートルの合板製床板(以下「床板」という。)が張られ、床板上にはカーペットが敷き詰められていた。
 操舵室は、両舷に開き戸を設けて出入口とし、船首側の棚上に両舷主機遠隔操縦装置、舵取機、コンパス及びレーダーなどが、また、同棚下左舷寄りに交流・直流の各給電盤及び各電線の端子盤などが設置されており、前記間隙の左舷側壁に沿って船首尾方向に敷設された電線がそれらの機器に接続されていた。また、同室には、丸棒状の脚1本を有する当直者用いす1脚が備えられ、同室後壁及び舵取機近くの床面2箇所に設けられた管状の金具(以下「いす支持金具」という。)のうち、いずれかに挿入して固定することが可能なようになっていた。
 A受審人は、当直者用いすの使い勝手を改善する目的で、前記2箇所のほぼ中間位置にいす支持金具を増設することを思い立ち、固着したボルト及びナットを加熱するなど、ガスを扱った経験があったことから、切断トーチで溶断して底面鋼板に直径約15ミリの孔を開け、床板をドリルで開口して同金具を挿入したのち、孔の最下部を鉄セメントで固める作業計画を立てていた。
 平成15年11月13日09時00分A受審人は、係留を続けているうち手が空いた時間ができたので、前記作業を甲板員に補助させて実施することとし、溶断に伴って火の粉が飛散することを承知していたものの、大半の火の粉が下方に落下するものと思い、床板を取り外し、周辺の可燃物に対する防火措置を施したうえ、操舵室内から下方に向かって切断トーチを使用するなど適切な作業方法をとらず、操舵室内のカーペット及び床板を現状のままとし、ガスホースを作業足場とする操舵室下約1.5メートルの櫓上に伸ばし、その火口を上方に向けて溶断を開始した。
 こうして、恵山丸は、A受審人が甲板員を自身の側に待機させ、操舵室を無人状態として前記溶断作業を行っていたところ、飛散した火の粉が床板と底面鋼板の間隙に敷設されていた前記電線の被覆に降りかかって着火し、09時10分天保山大橋橋梁灯(C2灯)から真方位054度1.2海里の前記係留地点において、操舵室が火災となり、同受審人が、同室左舷側出入口から黒煙が出ているのを認めた。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、港内の海上は平穏であった。
 A受審人は、作業を中止して直ちに操舵室に赴き、同室などに備えてあった持ち運び式消火器を使用して消火作業を行った。
 その結果、恵山丸は、09時15分に鎮火したが、両舷主機遠隔操縦装置、舵取機及び交流・直流の各給電盤などの電線並びに延焼した操舵室内張材の一部が焼損し、のち、いずれも修理された。 

(原因)
 本件火災は、岸壁係留中、合板製操舵室床板にいす支持金具を増設する目的で、切断トーチを用いて増設位置にあたる底部鋼板の溶断作業を行った際、作業方法が不適切で、作業に伴って飛散した火の粉が、同床板と同鋼板の間隙に敷設されていた電線の被覆に降りかかって着火したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、岸壁係留中、合板製操舵室床板にいす支持金具を増設する目的で、切断トーチを用いて増設位置にあたる底部鋼板の溶断作業を行う場合、同室下方には落下する火の粉が熱を喪失するに十分な高さの空間があったのであるから、溶断箇所付近の可燃物に着火することのないよう、床板を取り外し、周辺の可燃物に対する防火措置を施したうえ、同室内から下方に向かって切断トーチを使用するなど、適切な作業方法をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、大半の火の粉が下方に落下するものと思い、適切な作業方法をとらなかった職務上の過失により、底部鋼板に対して下方から同切断トーチを使用し、多量の火の粉を上方に飛散させ、同鋼板と床板との間隙に敷設されていた電線の被覆に降りかかって着火を招き、両舷主機遠隔操縦装置、舵取機及び交流・直流の各給電盤などの電線を焼損させ、操舵室内張材の一部へ延焼させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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