(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年12月2日19時30分
沖縄県宮古島南岸裾礁域
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船さだ丸 |
総トン数 |
0.67トン |
登録長 |
7.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
4 |
3 事実の経過
さだ丸は、サバニ型木製漁船で、昭和54年10月に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、免状更新手続きを行わなかったために同免状失効中のA受審人が1人で乗り組み、いか引き縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成15年12月2日17時00分沖縄県宮古島久松漁港を発し、同島南岸に拡延する裾礁域の漁場に向かった。
17時50分A受審人は、平安名埼灯台から259度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点に至って機関を停止し、船尾両舷から真横に長さ2.2メートルの竿を1本ずつ張り出し、その先から、先端に疑似餌をつけた長さ約20メートルの釣り糸を流して漁の準備を行い、18時00分同地点で、船尾に座ってチラーを握り、機関を始動して3.0ノットの対地速力とし、宮古島南岸の裾礁外縁に沿って、その外縁から30メートルばかり離して航行しながら、いかが釣れると機関を停止して取り込んだのち、再び航行を始める方法で漁を続けた。
ところで、宮古島南岸の裾礁域は、裾礁外縁から急激に水深が深くなっているために同外縁付近では磯波が高起しやすく、また、12月1日に宮古島東方を北東に進行した台風第21号の影響で宮古島地方には波浪注意報が発表され、付近には、東寄りで波高2メートルを超えるうねりが寄せており、日ごろ以上に磯波が高起しやすい状況となっていた。
漁を始めたときA受審人は、日没直後の薄明下、付近には沖からうねりが寄せており、磯波が高起しやすい状況となっていることを知ったが、裾礁外縁に近づいて釣果が良かったことから、漁を続けることに気を取られ、その後、月明かりで周囲の海面状況を十分に目視できる状況であったものの、磯波の発生状況の確認を十分に行わなかったので、時折高起した磯波が発生していることに気付かず、裾礁外縁沿いに30メートルばかり離れて航行しながら漁を続けた。
A受審人は、漁を続けながら3.0ノットの速力で続航中、19時30分平安名埼灯台から270度6.2海里の地点において、074度に向首していたとき、右舷船首に高起した磯波を受け、一瞬にして大きく左舷側に傾斜して転覆した。
当時、天候は晴で風力4の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には波高2メートルを超えるうねりがあり、日没は17時50分で、南南東高度60度のところに月齢(げつれい)8.5の月があった。
転覆の結果、A受審人は自力で海岸に泳ぎ着いたものの、さだ丸は陸岸に向かって流されて付近の裾礁に乗り揚げ、機関を濡れ損し、プロペラ及び船体各所に損傷を生じ、のち廃船とされた。
(原因)
本件転覆は、夜間、沖縄県宮古島南岸の裾礁域外縁近くで引き縄漁を行う際、磯波の発生状況の確認が不十分で、高起した磯波を受けて大傾斜したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、沖縄県宮古島南岸の裾礁域外縁近くにおいて引き縄漁を行う場合、磯波が高起しやすい状況となっていることを知っていたのであるから、磯波の発生状況の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、漁を続けることに気を取られ、磯波の発生状況の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、周囲で時折高起した磯波が発生していることに気付かず、裾礁外縁に著しく接近したまま漁を続け、高起した磯波を受け大傾斜して転覆を招き、機関を濡れ損し、プロペラ及び船体各所に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。