(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月13日14時10分
兵庫県姫路港広畑区
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートデイジー |
全長 |
3.09メートル |
幅 |
1.16メートル |
深さ |
0.41メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
3キロワット |
3 事実の経過
デイジー(以下「デ号」という。)は、最大搭載人員2人の船外機付き軽合金製モーターボートで、平成14年3月1日交付の五級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首尾とも0.20メートルの等喫水をもって、平成15年9月13日13時00分姫路港網干区第1区の網干マリーナの定係地を発し、東北東方2.1海里の同港広畑区第1区輸出岸壁西端付近の釣り場に向かった。
ところで、当時台風14号が、朝鮮半島東岸沖合を北東に向けて進行しており、神戸海洋気象台が、同日08時00分兵庫県南西部地域に強風波浪注意報を発令し、今後南西の風が強まり、沿岸では波が高く3メートルに達するとの気象情報を発表していた。
A受審人は、出航に先立ち、携帯電話を使用して気象情報サイトで情報を入手し、台風通過の影響による天候の悪化が予想されることを知ったが、これまでにも釣りの目的で悪天候の中を発航したことがあったので、行けるところまで行き、無理であれば直ぐに帰航すれば大丈夫と思い、発航を取り止めなかった。
こうして、A受審人は、網干浜埋立地と西浜化学岸壁との間の水路を通過し、南西方向からの風浪が高まるのを認めて不安に感じたものの、船内への打ち込みもなかったので、波乗り状態で風浪を後方から受けて東行した。
13時40分A受審人は、輸出岸壁西端北西方100メートルの釣り場に到着したものの、風浪が強く釣りをあきらめることとし、同乗者を前部座席に座らせ、自らは右舷船尾側に腰掛けて同時45分帰航の途に就いた。
14時00分A受審人は、広畑東防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から004度(真方位、以下同じ。)l,000メートルの地点で、針路を226度に定め、風浪模様に注意を払いながら、機関を極微速力とし、1.8ノットの対地速力で進行した。
その後、A受審人は、南西方からの波高2メートルの波を左舷前方から受け、船体が揉まれて海水の打ち込みが次第に激しさを増したので、同乗者とともに海水を汲み出しながら続航中、14時10分防波堤灯台から330度680メートルの地点において、デ号は、高起した波を左舷側から受けて船体が持ち上げられ、右舷側に大傾斜して転覆した。
当時、天候は晴で風力6の南西風が吹き、波高は2メートルで、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
転覆の結果、デ号は、船外機に濡れ損を生じたが、のち修理された。また、A受審人と同乗者は、救命胴衣を着用したまま海中に投げ出され、両人は、付近を通りかかった引船に救助された。
(原因)
本件転覆は、姫路港広畑区において、釣りを行うにあたり、台風通過の影響による天候の悪化が予想された状況下、発航を取り止めず、高起した波を左舷側から受けて船体が持ち上げられ、右舷側に大傾斜したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、姫路港広畑区において釣りを行う際、気象情報によって台風通過の影響による天候の悪化が予想されることを知った場合、発航を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまでにも釣りの目的で悪天候の中を発航したことがあったので、行けるところまで行き、無理であれば直ぐに帰航すれば大丈夫と思い、発航を取り止めなかった職務上の過失により、釣り場から帰航中、高起した波を左舷側から受けて船体が持ち上げられ、右舷側に大傾斜してデ号の転覆を招き、船外機に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。