(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月15日10時20分
山口県萩市大島東側沿岸部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船六幸丸 |
総トン数 |
4.64トン |
全長 |
13.58メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
183キロワット |
3 事実の経過
六幸丸は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年7月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、うにの素潜り漁を行う目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成16年1月15日07時30分山口県大島漁港を発して櫃島(ひつしま)南西沿岸の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、うにを採捕するとき、水深5メートルから10メートルのところに投錨し、船から離れて水深1.5メートルばかりのところで漁をしていた。
A受審人は、08時ごろ櫃島南西方の漁場に着き、投錨して09時45分ごろまで漁を行ったものの、漁獲が少なかったので漁場を変えることとし、10時00分同地を発し、数日前にうにが多数とれた大島東側沿岸部に向かった。
このころ、大島西岸には北西風が吹き付けていたことから、東側沿岸は島陰となっていたものの、同島北部からうねりが回り込む状況となっていた。そして、同沿岸部には、北東方から波高約2メートルのうねりが打ち寄せ、水深が急に浅くなって磯波が発生しやすい場所であったので、海岸線から約5メートルの幅で白波が立っていた。
発進後、A受審人は、強い北西風と同方向から波高約2メートルの波を船尾に受け、大島の北部沿岸を替わって同島の東側に回り込んだころ、北東方からのうねりを船尾に受け、魚群探知器で測深しながら手動操舵により、同島東側沿岸部に向かって南南西方に進行した。
A受審人は、10時14分萩大島港赤穂瀬南防波堤灯台から030度(真方位、以下同じ。)1,720メートルの地点に達したとき、北東方からのうねりが前方500メートルばかりの海岸に打ち寄せて浅海域に磯波が発生しているのを認めたが、この程度の波であれば島陰であるので大丈夫と思い、磯波が発生している沿岸部を避けて水深が10メートルを超えるところで投錨するなど、錨地の選定を適切に行うことなく、海岸線から20メートルばかり離れた水深8.5メートルのところで、船首を北に向けて行きあしを止め、10時19分萩大島港赤穂瀬南防波堤灯台から026度1,250メートルばかりの地点に錨を投入し、錨索を約13メートル延出した。
投錨後、A受審人は、思っていたより波が高いことを知り、機関を中立にして周囲の様子を見ていたところ、六幸丸は、10時20分少し前船首が北方を向いていたとき、右舷前方から高起した磯波を受け、甲板上に海水が流入して左舷側に大きく傾斜し、10時20分萩大島港赤穂瀬南防波堤灯台から026度1,250メートルの地点において、次の高起した磯波を受けて水船状態となった。
当時、天候は曇りで風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
その結果、操縦不能となり、走錨して圧流され、大島東岸の岩場に乗り揚げて波にもまれるうち、船体が分断されて全損となった。
(原因)
本件遭難は、山口県萩市大島東側沿岸部において、うにの素潜り漁を行うため投錨する際、錨地の選定が不適切で、磯波の発生する沿岸部に投錨し、高起した磯波を受けて甲板上に海水が流入し、水船状態となったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県萩市大島東側沿岸部において、うにの素潜り漁を行うため投錨する際、磯波が発生しているのを認めた場合、磯波が発生する沿岸部を避けて水深が10メートルを超えるところで投錨するなど、錨地の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の波であれば島陰であるので大丈夫と思い、錨地の選定を適切に行わなかった職務上の過失により、磯波の発生する沿岸部に投錨し、高起した磯波を受けて甲板上に海水が流入し、水船となる事態を招き、操縦不能となり、走錨して圧流され、大島東岸の岩場に乗り揚げて波にもまれるうち、船体が分断されて全損となるに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。