(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月20日06時10分
沖縄県南大東島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船翔丸 |
総トン数 |
4.9トン |
全長 |
15.14メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
90 |
3 事実の経過
翔丸は、一層甲板のFRP製漁船で、平成7年10月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、そでいか旗流し漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年2月17日14時00分沖縄県那覇港を発し、同県南大東島北西方の漁場に向かった。
ところで、翔丸は、上甲板上の船首部に漁具庫と中央部に船室及び操舵室を、甲板下には、船首漁具庫の真下に浮力を保つための空気室を、前部甲板下に、3個の物入れと2個2列のいけすを、操舵室の下に機関室を配置し、その空気取入口を操舵室右舷側壁下部に設け、主機排気管を船尾に導き、後部甲板下には、2個3列計6個の区画を設け、その1個を舵機室、他を物入れとし、上甲板の周囲には、高さ約70センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークを巡らせ、その基部に、片舷8個ずつの放水口が設けられていた。
また、いけすと物入れには、上甲板上高さ8センチのコーミングを設け、その上に固縛設備のないFRP製さぶたをかぶせて閉鎖するもので、上甲板上30センチに設置された操舵室の床には、コーミングを設けた機関室出入口と物入れが配置され、上甲板上のものと同様のさぶたがかぶせられ、操舵室後部には、引き戸式の出入口が設けられていた。
A受審人は、翌18日05時ごろ漁場に到着して操業を開始し、22時ごろ漁具を取り込み終えたのち、漂泊して休息をとり、翌々19日05時に操業を再開したのち、ラジオと船舶電話の天気予報により、その後風が強まり、波高も3メートルに達する見込みであることを知ったものの、自船付近では波高が1.5メートルほどだったので、しばらくは大丈夫と思って操業を続け、18時ごろから漁具を取り込み始め、そのころ天気予報により、夜半から風速が毎秒15メートル、波高が3ないし4メートルになると予想されていることを知った。
23時00分A受審人は、北緯26度20分東経130度30分の地点において、そでいか700キログラムばかりを獲て操業を終えたとき、北西風が強まり波高も高まってきたことを知ったが、自身が荒天避難の目安としていた波高3メートルを超えることはなく、それまでの経験から、シーアンカーを使用して何とかしのぐことができるものと思い、近くの南大東島に荒天避難することなく、機関を停止して船首から直径約5メートルのシーアンカーを投入し、直径40ミリメートル長さ約40メートルのナイロン製トーイングロープと直径25ミリメートルの引揚げ用ロープを伸出させて漂泊し、船室で就寝した。
こうして、A受審人は、夜間更に強まった風によって波浪が高まり、船体動揺が激しくなってきたことに気付かないまま船室で休んでいたところ、20日06時10分北緯26度12分東経130度28分の地点において、シーアンカーの引揚げ用ロープが切断してトーイングロープに絡まったため、シーアンカーの機能が失われて船体が波浪に横倒しの態勢となり、右舷側に大きく傾斜したので目覚め、船室の窓近くにまで波浪が押し寄せて甲板上に多量の海水が打ち込み、翔丸が水船状態となって右舷側に傾いているのを認めた。
A受審人は、ただちに機関を始動して左舵一杯をとり左回頭を開始したところ、徐々に船体の傾斜は回復したものの、大傾斜時の海水の打ち込みにより甲板上のさぶたが外れ、ガンネル上端近くまで海水が滞留していることを認め、風と波浪を後方から受けながら波浪の打ち込みを避けるつもりで、06時15分船首がほぼ反転したころ、針路を160度(真針路)に定め、速力を波浪の進行速度に合わせた8.0ノットの対地速力として進行した。
定針後A受審人は、浸水が著しいことから沈没の危険を感じ、第十一管区海上保安本部に救助の要請を行い、以後適宜自船の位置を報告しながら続航中、08時30分北緯25度55分東経130度35分の地点に達したとき、機関が自停し、翔丸は船尾から水中に没し始め、間もなく同地点において船首部分のみを残して没水した。
当時、天候は晴で風力7の北西風が吹き、沖縄東方海上に海上風警報が発表され、付近には北北西から寄せる高さ4メートルの波浪があった。
遭難の結果、A受審人は、救命胴衣を着用して海面上に出た翔丸の船首部にとったロープにつかまりながら泳いでいたところ、来援した海上保安庁のヘリコプターにより救助されたものの、翔丸は行方不明となり、その後全損処理とされた。
(原因)
本件遭難は、沖縄県南大東島北西方沖合において操業中、沖縄東方海上に海上風警報が発表され、波浪が高まることが予報された状況下、自船付近で波浪が高まってきたことを知った際、荒天避難の措置をとらず、シーアンカーを使用して漂泊中、シーアンカーのロープが切断して波浪に横倒しの態勢となり、大傾斜を生じて船内に多量の海水の打ち込みを招いたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県南大東島北西方沖合において操業中、沖縄東方海上に海上風警報が発表され、自身が荒天避難の目安としている波高以上に波浪が高まることが予報された状況下、自船付近で波浪が高まってきたことを知った場合、近くの南大東島に荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、荒天避難の目安としていた波高を超えることはないものと思い、荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により、シーアンカーを使用して漂泊中、更に激しくなった船体動揺によってシーアンカーのロープが切断して波浪に横倒しの態勢となり、大傾斜を生じて船内に多量の海水の打ち込みを招き、水船状態で漂流後、全損とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。