(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月16日15時30分
広島県宮島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートシーアール−28エフビー |
全長 |
9.22メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
シーアール−28エフビー(以下「シ号」という。)は、船内外機を装備したFRP製プレジャーモーターボートで、A受審人(平成12年3月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、知人3人を同乗させ、周遊の目的で、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、平成15年8月16日15時00分山口県岩国港のマリーナを発し、広島県宮島沖合に向かった。
ところで、宮島北東部の包ヶ浦海岸沖合には、安芸絵ノ島灯台(以下「絵ノ島灯台」という。)から295度(真方位、以下同じ。)1,500メートルの地点、そこから051.5度670メートルの地点、そこから322度450メートルの地点、及びそこから230度680メートルの地点を順に結んだ区域内に、かき養殖いかだ(以下「養殖いかだ」という。)が設置され、各地点には、同区域を示す灯浮標が設備されており、北側の同種区域との間は、幅員100メートルの航路と呼ばれる、船舶が安全に通航できる水路となっていた。
養殖いかだは、長さ約22メートル幅約9メートルの大きさで、長さ170メートルのワイヤロープに4台が連結されて1連となり、その両端が長さ120メートルの固定用ワイヤを介して海底の沈錘に係止されるようになっており、前示区域内には、100メートル間隔となった2ないし3本の連なりが、北東方向に100メートル隔てて4列設置され、水面下に固定用ワイヤが存在しており、同ワイヤを視認できないことから、同区域内を通航することは困難であった。
A受審人は、操縦免許を取得したのち、他のプレジャーボートを購入し、平成13年にシ号に乗り換えたもので、宮島を周回したことが10回ばかりあったほか、同島付近を航行した経験が豊富にあったので、養殖いかだの構造や構成のほか、その係止方法などについて承知していたものの、固定用ワイヤの状態を知らなかった。
A受審人は、フライングブリッジの操縦席に腰掛けて操舵と見張りにあたり、機関を約24ノットの全速力前進にかけて宮島西岸を北上し、同島北端をつけ回したのち、北東岸沖合を南下していたとき、包ケ浦海岸付近に数隻の水上オートバイを認めたことから、15時28分絵ノ島灯台から297度1.1海里の地点で、いったん停船してこれらの様子を伺った。
A受審人は、陸岸と養殖いかだ設置区域との間を南下する予定で航行を再開したところ、水上オートバイの動作に危険を感じ、接近を避けるため、養殖いかだ沖合に向かうこととしたが、養殖いかだの間を航行できるものと思い、停船地点に戻って航路を航行するなど、適切な針路を選定することなく、15時29分少し過ぎ絵ノ島灯台から293度1.1海里の地点において、針路を養殖いかだの間に向く068度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ15.0ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
A受審人は、左舷方の養殖いかだの列に100メートルの空所を認め、その中央部を航過するよう左転し、15時30分絵ノ島灯台から301度1,700メートルの地点において、シ号は、000度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、そのアウトドライブが水面下の固定用ワイヤに接触した。
当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
その結果、アウトドライブが脱落して船内に浸水し、包ヶ浦海岸に任意座礁したが、機関と電装品に濡れ損を生じた。
(原因)
本件遭難は、広島県宮島北東方沖合において、針路の選定が不適切で、同沖合に設置された養殖いかだの水面下にある固定用ワイヤに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島県宮島北東方沖合において、陸岸と養殖いかだ設置区域との間を南下中、前路に認めた水上オートバイへの接近を避けるため、養殖いかだ沖合に向かう場合、養殖いかだの水面下にある固定用ワイヤの状態を知らなかったから、同ワイヤに接触しないよう、停船地点に戻ってから航路を航行するなど、適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、養殖いかだの間を航行できるものと思い、適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、養殖いかだの間に入り、固定用ワイヤに自船のアウトドライブが接触する事態を招き、アウトドライブが脱落して船内に浸水し、任意座礁したものの、機関と電装品に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。