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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成16年神審第16号
件名

プレジャーボートスパームくん遭難事件(簡易)

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年8月2日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:スパームくん船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
航行不能、船底外板全般に亀裂

原因
気象・海象に対する判断不適切

裁決主文

 本件遭難は、港外に出てうねりのため船体が大きく動揺するのを認めたとき、速やかに港内に引き返さないまま進行し、船外に滑り落ちたロープがプロペラに絡まったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月9日13時30分
 兵庫県東播磨港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートスパームくん
登録長 4.68メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 110キロワット

3 事実の経過
 スパームくん(以下「ス号」という。)は、船体中央右舷側に操縦席のあるFRP製プレジャーボートで、平成11年2月22日交付の四級小型船舶操縦士の免状を受有するA受審人(5トン限定二級小型船舶操縦士・特殊船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、船舶所有者と友人1人を同乗させ、兵庫県明石市江井ケ島海岸で予定していたバーベキューに参加することに併せて船舶所有者に操縦を教える目的で、後部座席付近にウエイクボード引航用ロープなどを積み、船首尾共0.3メートルの喫水をもって、平成15年8月9日13時10分同県東播磨港内の古宮地区を発し、江井ケ島海岸に向かった。
 ところで、同日の未明台風10号が近畿地方を通過し、北上したので、兵庫県播磨南東部では、08時55分まで各種警報及び注意報が、その後16時30分までは強風・波浪注意報が発表されており、周辺の海域では波浪やうねりが高い状態であった。A受審人らは、以前から予定していた午前中のバーベキューを後日に変更することは難しかったので、テレビの気象情報を見て、午後から実施することとしていたものであった。
 また、ス号は、本来湖上や静穏な海上でのバス釣りなどに使用されるモーターボートで、その乾舷が低いため、風浪やうねりの高い水域での使用には適していなかった。
 発航後、A受審人は、東播磨港内の南二見埋立地と陸岸に挟まれた水路を東行し、13時25分江井ケ島港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から313度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、台風の余波による南からのうねりのため、船体が大きく動揺するのを認めたが、なんとか予定していたバーベキューに間に合わせようと思い、速やかに港内に引き返すことなく、針路を131度に定め、スロットルレバーを全開時の4分の1ほどとして9.4ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 13時30分少し前A受審人は、次第に高まったうねりを受け、船体動揺が増して危険を感じるようになったので、ようやく港内に引き返すこととして減速しながら右舵をとって回頭しようとしたが、13時30分西防波堤灯台から318度800メートルの地点において、船首が180度に向いたとき、船体が大きく縦揺れして固定していなかったウエイクボード引航用ロープが船外に滑り落ちてプロペラに絡まり、航行不能に陥った。
 当時、天候は晴で、風力5の西南西の風が吹き、南寄りの波高2メートルのうねりがあり、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 その結果、ス号は、北東方向に圧流されて離岸堤に打ち寄せられ、船底外板全般に亀裂を生じた。 

(原因)
 本件遭難は、台風の余波のうねりが残る兵庫県東播磨港港外に出て船体が大きく動揺するのを認めた際、速やかに港内に引き返さないまま進行し、次第に高まったうねりを受けて船体が大きく縦揺れをし、固定していなかったウエイクボード引航用ロープが船外に滑り落ちてプロペラに絡まったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、台風の余波の残る兵庫県東播磨港港外に出て船体が大きく動揺するのを認めた場合、速やかに港内に引き返すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、なんとか予定していたバーベキューに間に合わせようと思い、速やかに港内に引き返さないまま進行した職務上の過失により、次第に高まったうねりを受けて船体が大きく縦揺れをし、固定していなかったウエイクボード引航用ロープが船外に滑り落ちてプロペラに絡まり、ス号を航行不能に陥らせ、離岸堤に打ち寄せられて船底外板全般に亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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