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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年那審第18号
件名

旅客船第三あんえい号乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年9月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第三あんえい号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
推進器3個と舵板2枚に損傷

原因
操船不適切(狭い水路を先航する引船列の追い越しを中止しなかったこと)、速力過大

裁決主文

 本件乗揚は、狭い水路を先航する引船列の追い越しを中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月21日09時45分
 沖縄県竹富島南西方沖
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第三あんえい号
総トン数 19トン
全長 25.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,403キロワット

3 事実の経過
(1)第三あんえい号
 第三あんえい号(以下「あんえい号」という。)は、3機3軸で2舵を装備した軽合金製旅客船で、船首端から約5メートルのところに操舵室、その後方にいす席の旅客室を配置し、全速力航行時には、船体が滑走状態となり、船首喫水ほぼ0メートル、船尾喫水は0.8メートルで、サーフェイスプロペラのほぼ3分の1が水面上に露出し、33.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)となるものであった。
 同船は、主として、沖縄県石垣港と同県西表島仲間港の間を定期運航されており、その運航に当たっては、石垣島南岸から西表島東岸にわたって拡延するさんご礁海域内において、竹富島南方沖に開発保全航路として竹富南航路の名称で設けられた水路、及び同水路から仲間港に至る全長約11海里の大原航路と称する狭い水道(以下「大原航路」という。)を経由するもので、その経路の要所には灯標及び立標が設置されているものの、多数の干出さんご礁や険礁が散在するため、船長が、目視によって海面の変色状況から険礁の所在を確認しながら安全な水域を航行するものであった。
(2)A受審人
 A受審人は、平成11年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同12年1月に甲板員としてB社に採用されて約2年間あんえい号で甲板員の職を経験し、その後同14年11月から、同社が運航する旅客船の船長が休暇をとる際の交代要員として各船で船長職をとるようになったもので、あんえい号の操縦性能及び就航海域の険礁等の状況について十分承知していた。
(3)本件発生に至る経緯
 あんえい号は、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客5人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水で、平成15年11月21日09時15分仲間港を発し、石垣港に向かった。
 発航後、A受審人は、機関を全速力前進にかけ、33.0ノットの速力として手動操舵により適宜針路を調整しながら大原航路に沿って進行し、09時41分大原航路第10号立標(以下、立標の呼称については「大原航路」を略す。)に並んだころ、左舷船首1.9海里となる第8号立標付近に引船列を初認し、同引船列が約5.0ノットの速力で大原航路内を東行中であることを知った。
 09時44分少し過ぎA受審人は、第8号立標に並航する第5号立標から225度(真方位、以下同じ。)280メートルの地点に達し、船首が045度を向いたとき、ほぼ正船首550メートルのところで、前示引船列が第5号立標北方を過ぎて第4号立標に向け進行しており、自船がそのままの速力で進行すると、第5号立標から050度360メートルの干出さんご礁上にある、現在航路標識としては使用されていない立標(以下「旧立標」という。)付近で同引船列を追い越す態勢となることを知った。
 ところで、旧立標は、第5号立標から北東方に400メートルばかり拡延した干出さんご礁の外縁から約10メートル内側にあり、大原航路を第5号立標北方から第4号立標に向かう際には、付近の険礁を回避しながら航行するための好目標となり、また、旧立標付近では、同立標のあるさんご礁とその北方となる第4号立標西側の干出さんご礁とに挟まれて狭い水路をなすものの、同立標を過ぎた水路南側には、第4号立標に至るまで広い水域が存在しており、A受審人は、このことを認識していた。
 こうして、A受審人は、旧立標付近の狭い水路で引船列を追い越す態勢となって進行を続け、同引船列が水路のほぼ中央を進行していることから、引船列と旧立標の間に十分な可航幅がないことを知ったが、引船列と旧立標からのそれぞれの距離に注意して航行すれば何とか追い越すことができるものと思い、大幅に減速して引船列の追い越しを中止することなく、同一速力のまま進行を続けた。
 09時45分少し前A受審人は、第5号立標から005度210メートルの地点に至り引船列まで170メートルとなったとき、右舵をとって同一速力のまま引船列と旧立標の間に向首したところ、引船列との航過距離が予想より近いことから、同引船列との距離を保つことに気を取られ、旧立標のある干出さんご礁に著しく接近する態勢となっていることに気付かないまま続航中、09時45分引船列に並航して針路を水路に沿った060度としたとき、原速力のまま、第5号立標から048度360メートルの地点において、浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、推進器3個と舵板2枚に損傷を生じたが、同浅礁を乗り切って自力で石垣港に達し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県竹富島南西方沖において、干出さんご礁に挟まれた狭い水路を航行中、先航する引船列を追い越す状況となった際、大幅に減速して追い越しを中止せず、同引船列と干出さんご礁の間に向首し、著しく干出さんご礁に接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県竹富島南西方沖において、干出さんご礁によって挟まれた狭い水路を航行中、先航する引船列を追い越す状況となった場合、同引船列と干出さんご礁との間に十分な可航幅がなかったから、大幅に減速して追い越しを中止すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、注意して航行すれば何とか追い越すことができるものと思い、追い越しを中止しなかった職務上の過失により、同引船列と干出さんご礁の間に向首し、干出さんご礁に著しく接近して乗揚を招き、推進器と舵板に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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