(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月22日11時23分
沖縄県竹富島西岸沖
(北緯24度18.9分 東経124度3.9分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
旅客船サザンドリーム |
総トン数 |
74トン |
全長 |
33.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,294キロワット |
(2)設備及び性能等
サザンドリームは、佐賀県伊万里市のB社で限定沿海区域を航行区域とする平甲板型軽合金製旅客船として建造され、平成9年10月に進水したのち、同13年4月に航行区域を平水区域に変更し、就航水域を船舶安全法施行規則第1条第6項第20号の水域と定めていた。
サザンドリームは、3機3軸でサーフェースプロペラを備え、上甲板上の船首部に操舵室を、船体中央部に旅客定員118人の客室とその上に同定員30人の客席を、乗下船口のあるロビーを隔てた船尾部に旅客定員32人の客室をそれぞれ設けていた。
また、操舵室内前部中央に舵輪を備え、その前面の棚上に磁気コンパスを置き、同コンパスの右舷側に左右両舷機の各スロットルレバー及びクラッチレバーを、左舷側に中央機のスロットルレバーとクラッチレバーをそれぞれ配し、磁気コンパスの船首側に主機操作パネルを置き、同パネルの右舷側にレーダーを、左舷側にGPSプロッタを配し、同コンパスの上方の天井近くに舵角指示器を備えていた。そして、舵輪の手前に背もたれ付きの操縦席を、その右舷側に補助席をそれぞれ置き、同室前面に旋回窓を有する3枚の角窓を、及び両舷の側壁にそれぞれ2枚の角窓を設けていた。
3 竹富島西岸沖
竹富島の西岸沖には、暗岩及び干出さんご礁など多数の険礁が点在しているため、航路標識として、同島西岸クントマリ埼の西方約2,100メートルのところにある干出さんご礁にクントマリ埼西方立標(以下「西方立標」という。)が、及び同島南西岸の裾礁域外縁にクントマリ埼南西方立標(以下「南西方立標」という。)がそれぞれ敷設されていた。また、両立標の中間付近にあたる、南西方立標から316.5度(真方位、以下同じ。)920メートルの地点にある暗岩には、直径約30センチメートルの橙色球状ブイに長さ約1メートルの竿を取り付け、その先端に水色のポリ容器を逆さにして掲げた私設の標識(以下「私設浮標」という。)が設置されていたものの、南西方立標から324度320メートルの地点にある暗岩(以下「南西方立標北西側暗岩」という。)及び同立標の南西方約250メートルのところに存在する干出さんご礁に標識などは設置されていなかった。
C社は、小浜島小浜港から石垣港に向かうときの基準航路線として、小浜港の東方沖から東南東進して西方立標の西南西方40メートルの通過地点(以下「西方立標通過地点」という。)に至り、同地点から私設浮標を右舷側に、南西方立標北西側暗岩を左舷側に、及び南西方立標の南西方にある干出さんご礁を右舷側にそれぞれ替わしながら南南東進し、その後大原航路第4号立標付近で大原航路に入り、同航路から竹富南航路を航行して石垣港に入航する進路を前示航路図で示すとともに、各船のGPSプロッタに基準航路線を表示させることができるようにしていた。
4 事実の経過
サザンドリームは、A受審人、機関長及び甲板員の3人が乗り組み、旅客32人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年10月22日11時10分小浜港を発し、石垣港に向かった。
ところで、A受審人は、竹富島西岸沖を南南東進するときには、西方立標通過地点で南西方立標に向かう145度の針路としたのち、転針地点の目印としていた私設浮標を右舷正横約120メートルのところに見て南西方立標の少し右側に向かう149度に転じ、その後海水の変色状況から南西方立標北西側暗岩及び同立標の南西方にある干出さんご礁などの所在を確認し、これらを替わしながら航行するようにしていた。
A受審人は、発航したのち、操縦席に座って操船にあたり、機関長を補助席に、甲板員を自らの左舷側にそれぞれ配し、西方立標通過地点に向けて航行していたとき、折からのやや強い風により海面が波立っていたため、西方立標通過地点付近から私設浮標を視認することも、海水の変色状況から暗岩などの所在を見定めることも困難な状況であることを知った。
このため、A受審人は、11時21分西方立標通過地点にあたる、南西方立標から325度1,930メートルの地点で、いつもより私設浮標から距離をとって転針するつもりで、針路を南西方立標の少し左側に向かう143度に定め、機関を全速力前進にかけて26.0ノットの対地速力で進行し、同時22分少し過ぎ南西方立標から327度900メートルの地点に達したとき、右舷正横付近をして私設浮標を認めた。
このとき、A受審人は、基準航路線の左方に約50メートル偏位していたが、私設浮標との距離を目測していつもと同じ程度に見えたことから、ほぼ転針地点に位置しているものと思い、GPSプロッタで基準航路線からの偏位を確認するなど、船位の確認を十分に行うことなく、149度に転針した。
こうして、A受審人は、基準航路線から偏位していることに気付かないまま進行し、11時23分わずか前ようやくいつもより南西方立標の近くを航過する状況となっていることに気付き、右舵をとって同立標との距離をとろうとしたものの、時既に遅く、サザンドリームは、11時23分南西方立標から324度320メートルの地点において、159度に向いたとき、原速力のまま南西方立標北西側暗岩に乗り揚げ、これを乗り切った。
当時、天候は曇で風力5の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で視界は良好であった。
A受審人は、船体に乗揚の衝撃を感じ、直ちに主機を中立回転にして損傷などを調べたところ、右舷及び中央の推進器翼に曲損を認めたため、左舷機のみを使用して石垣港に向かった。
乗揚の結果、右舷及び中央の推進器翼並びに中央の推進機軸に曲損、船尾船底外板に擦過傷を伴う凹損を生じたが、その後いずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、沖縄県竹富島西岸沖において、多数の険礁が点在する水域を基準航路線に沿って航行する際、船位の確認が不十分で、同航路線から偏位していることに気付かないまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県竹富島西岸沖において、多数の険礁が点在する水域を基準航路線に沿って航行する場合、折からのやや強い風により海面が波立ち、海水の変色状況から暗岩などの所在を見定めることが困難であったから、GPSプロッタで同航路線からの偏位を確認するなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、転針地点の目印としていた私設浮標を視認したとき、同浮標との距離を目測していつもと同じ程度に見えたことから、ほぼ転針地点に位置しているものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、基準航路線から偏位していることに気付かないまま進行して南西方立標北西側暗岩への乗揚を招き、右舷及び中央の推進器翼並びに中央の推進機軸に曲損、船尾船底外板に擦過傷を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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