日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年門審第50号
件名

貨物船ニッコウ乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年9月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年、寺戸和夫、上田英夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:ニッコウ船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
左舷側船底全般に凹損及び擦過傷

原因
船位確認不十分、見張り不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったばかりか、見張りが不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月6日18時20分
 別府湾口南部平瀬
 (北緯33度16.7分 東経131度54.5分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ニッコウ
総トン数 1,325トン
全長 93.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 3,900キロワット

(2)設備及び性能等
 ニッコウは、平成15年5月に竣工した限定近海区域を航行区域とする全通二層甲板中央船橋型のロールオン・ロールオフ貨物船で、C社が船員の配乗を行い、D社が定期用船して大分県佐賀関港と日立港との間を4日で1往復する貨物輸送に従事していた。
 船橋甲板にある操舵室には、同室前面中央に操舵スタンドがあり、同スタンドの右舷側に機関遠隔操縦装置などが組み込まれた制御盤が、また、左舷側にはレーダー2基及びGPS装置、更に船橋の両舷ウィングには、ジョイスティック操船装置が設備されていた。
 また、船橋前端から船首端までの距離が約30メートルで、船橋からの見通し状況は、船首方及び両舷方とも視界の妨げとなる構造物はなく良好であった。

3 事実の経過
 ニッコウは、A受審人ほか8人が乗り組み、貨物としてアノードなど2,332トンを積載し、船首5.09メートル船尾5.43メートルの喫水をもって、平成15年12月6日17時50分佐賀関港を発し、日立港に向かった。
 発航時、A受審人は、乗組員を出港部署に付け、自らは単独で船橋当直に就いて操舵操船に当たり、機関を微速前進にかけて港内を進行し、港界に至ったところで半速力前進に増速し、佐賀関北方航路灯浮標の少し右方に向く針路で北上した。
 18時05分半A受審人は、豊後平瀬灯標(以下「平瀬灯標」という。)から257度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点に達し、針路を同灯標に向く077度に定め、機関を引き続き半速力にかけ8.0ノット(対地速力、以下同じ。)の速力で自動操舵によって進行した。
 定針後、A受審人は、出港部署を解除したが、船橋当直に就く予定の一等航海士に雑用が残っていたことから、自らが引き続き操船に当たり、関埼灯台を右舷側に並航した時点で針路を関埼と平瀬との間の中央部付近に向く131度に転じる予定で続航した。
 18時13分A受審人は、平瀬灯標から257度1.2海里の地点で、機関を港内全速力の12.0ノットにかけ、その後航海全速力の15.5ノットまでに増速することとし、制御盤の主機遠隔操縦ハンドル(以下「操縦ハンドル」という。)の操作を行いながら約9.0ノットの速力から徐々に増速しながら進行した。
 まもなく、A受審人は、当直部員として昇橋した機関員Bを舵輪の後方に立たせて見張りを行わせ、関埼灯台を右舷船首65度1,200メートルばかりに見るようになったころ、主機回転計を見つめて操縦ハンドルを小刻みに上げてゆく方法をとっていたことから、同灯台の並航に関わる船位確認を失念するおそれがあったが、まもなく転針予定地点に達することを同機関員に告げただけで、同人に対して関埼灯台を右舷側真横方向に見る少し前になったら知らせるよう具体的指示を与えることなく、自らは同人の右舷側に立って機関回転数の上がり状況を確認しながら続航した。
 ところで、B機関員は、平成15年3月に海員学校を卒業後同年5月にニッコウに乗船し、航海当直部員の認定を受けていたものの、乗船経験が7箇月ばかりであり、実質的には見習い甲板員及び航海当直部員として一等航海士との相直を務めていたもので、広い海域での見張りや転舵などが任されるようになっていたが、狭い水道などに向かうときには当直責任者の操舵号令がなければ転舵などができない状況であった。
 B機関員は、見張りを任されて船首方の平瀬灯標のレーダー映像を見たり、先航船の灯火の方位変化を見たりしていたところ、18時17分半関埼灯台を右舷側に並航したが、A受審人から具体的指示を受けていなかったので、このことを同受審人に報告しないでいるうち、平瀬灯標のレーダー映像を見失い、同灯標の灯光を目視することにしたが、船首が同灯標の少し右方に向いていたことや危険であれば右横にいるA受審人が操舵号令を出すと思って見張りを続けた。
 18時17分半A受審人は、平瀬灯標から257度880メートルの地点に至り、関埼灯台を右舷側に1,000メートルばかりで並航したが、B機関員に具体的指示をしていなかったので、何らの報告も得られず、操縦ハンドルの操作に気をとられ、同灯台の並航に関わる船位の確認を十分に行わなかったので、このことに気付かず、転針を行わずに平瀬にほぼ向首する針路のまま進行した。
 18時19分わずか前A受審人は、平瀬灯標まで400メートルとなっていたが、B機関員が前方を見ているから大丈夫と思い、依然、操縦ハンドルの操作に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、右転せずに続航した。
 18時20分わずか前A受審人は、ふと顔を上げたとき、平瀬灯標を左舷方至近距離に認め、慌てて手動操舵に切り換え、右舵一杯としたが、及ばず、18時20分同灯標の南側至近において、ニッコウは、原針路のまま、12.0ノットまで増速したところで、浅礁に乗り揚げ、乗り越えた。
 当時、天候は雨で風力4の北西風が吹き、視界は良好で、潮候はほぼ高潮時に当たり、速吸瀬戸には約1.0ノットの北流があった。
 乗揚の結果、左舷側船底全般に凹損及び擦過傷を生じたが、のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、船位の確認を十分に行わず、転針予定地点で転針しなかったこと
2 A受審人が、B機関員が前方を見ているから大丈夫と思い、操縦ハンドルの操作に気をとられていたこと
3 A受審人が、見張りを十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は、夜間、佐賀関港を発し、別府湾口南部を航行中、平瀬に乗り揚げたもので、その原因について検討する。
 A受審人は、平瀬灯標を船首目標として進行中、関埼灯台の並航に関わる船位の確認を十分に行っていたならば、関埼と平瀬との間の水道を南下する針路に転ずることができ、また、前方の見張りを十分に行っていたならば、同灯標との接近状況を確認することができ、同灯標に著しく接近するようなことはなく、本件乗揚を防止することができた。
 したがって、A受審人が、船位の確認を十分に行わなかっこと、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 転針予定地点を間近に控え、B機関員が前方を見ているから大丈夫と思い、操縦ハンドルの操作に気をとられていたことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件乗揚と相当な因果関係があるとは認められない。しかし、これらは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。 

(海難の原因)
 本件乗揚は、夜間、別府湾口南部において、平瀬灯標を船首目標として東行するにあたり、船位の確認が不十分であったばかりか、前方の見張りが不十分で、予定の転針を行わず、平瀬に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、別府湾口南部において、予定の転針を間近に控えた状況のもと、平瀬灯標を船首目標として東行する場合、同灯標への接近状況が分かるよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、B機関員が前方を見ているから大丈夫と思い、操縦ハンドルの操作による機関回転数の調整に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、平瀬に著しく接近していることに気付かず進行し、同灯標南側至近に乗り揚げる事態を招き、左舷側船底外板全般に凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION