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平成16年広審第63号
件名

旅客船ニューみしま乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年9月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、吉川 進、黒田 均)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:ニューみしま船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ニューみしま甲板員 

損害
左右プロペラ翼切損及び同軸曲損など
旅客3人が右肩甲骨骨折、腰部捻挫及び右膝打撲など

原因
針路の保持不十分

主文

 本件乗揚は、針路の保持が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月12日14時00分
 瀬戸内海 三原瀬戸
 (北緯34度19.4分 東経133度07.2分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船ニューみしま
総トン数 18トン
全長 13.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット

(2)設備及び性能等
 ニューみしま(以下「みしま」という。)は、昭和60年8月に進水した平水区域を航行区域とする最大搭載人員56人の2機2軸の一層甲板型軽合金製旅客船で、船体前部に操舵室を、同室後部に客室を配置していた。
 操舵室は、中央部に正船首非常口用通路、同通路左舷側に操縦スタンド、同右舷側にレーダーが設置され、同スタンド上面には航海灯や客室灯などの表示灯及びヒューズボックスなどが収められた計器盤が設置されており、同スタンド通路側下部に同盤の裏側を点検するための点検口が設けられていた。

3 客室灯
 客室灯は、蛍光灯8個が設置され、4個ずつが1個のヒューズを通して点灯するようになっていた。また、A受審人は、4個が消灯しているときにはヒューズの溶断で、1個だけが消灯しているときには蛍光灯の不具合であるということが分かっており、操縦スタンド上面にヒューズボックスが設置され、予備のヒューズも同スタンドの引出しに収納されていることから、ヒューズ交換は短時間で行えるので、それまでにも操舵に当たりながら同交換を行ったことがあった。

4 事実の経過
 みしまは、A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み、旅客13人を乗せ、船首0.75メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成15年11月12日13時30分広島県尾道糸崎港第3区の尾道駅前桟橋を発し、同時50分同県因島重井港に到着して旅客9人を下船させたのち、同時52分同港を発進し、同県生口島瀬戸田港に向かった。
 A受審人は、B指定海難関係人を見張りにつけて自ら手動操舵に当たり、因島と同島西方沖合に南北に存在する中藻州との間を南下中に船尾側客室灯4個が消灯しているのを認めた。
 13時57分A受審人は、佐木島184メートル頂(以下「佐木島頂」という。)から071度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点で、針路を同島と上鷺島間の可航幅200メートルばかりの水路中央に向首する215度に定め、機関を全速力前進にかけて18.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したのちA受審人は、客室灯の消灯が気になり、中藻州を替わったうえ両島間に達するまでには少し時間があることから、操舵に当たりながら操縦スタンド上面に設置されている計器盤のヒューズ交換を行った。
 13時59分少し過ぎA受審人は、佐木島頂から120度900メートルの地点に達したとき、ヒューズ交換を行っても当該客室灯は点灯しなかったが、依然、客室灯の消灯が気になり、自ら操舵に専念するなどして針路の保持を十分に行うことなく、なおもヒューズ周辺の点検を続けることとし、少し佐木島の方に寄っていたので同島と上鷺島との中央に向首するよう針路を修正したのち、直進するよう指示してB指定海難関係人と操舵を交替した。
 A受審人は、体をかがめて操縦スタンド通路側下部にある点検口を開け、計器盤裏側からヒューズソケットの取付部を指で締めたところ、短絡したような音がしたので、B指定海難関係人に計器盤のヒューズが溶断していないか確認するよう要請した。
 操舵中のB指定海難関係人は、A受審人からの要請を聞いたので、ヒューズを抜き出して確認しているうちにいつしか針路が右偏し、14時00分少し前船首至近に陸岸を認め、驚いて左舵一杯としたが及ばず、14時00分佐木島頂から148度800メートルの地点において、みしまは、195度に向首したとき、原速力のまま、護岸の捨石に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、潮流はほとんどなかった。
 A受審人は、旅客を誘導して上陸させ、船体を固定するなど事後の措置に当たった。
 乗揚の結果、左右プロペラ翼切損及び同軸曲損などを生じたが、上げ潮を待って引き下ろされてのち修理され、旅客3人が、右肩甲骨骨折、腰部捻挫及び右膝打撲などを負った。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が、客室灯4個の消灯を認めて操舵に当たりながらヒューズ交換を行ったこと
2 A受審人が、消灯の原因がヒューズの溶断ではないと分かったのち、自ら操舵に専念するなどして針路の保持を十分に行うことなく、B指定海難関係人と操舵を交替してなおも ヒューズ周辺の点検を続けたこと
3 A受審人が、ヒューズ周辺の点検中に、操舵中のB指定海難関係人にヒューズ確認を要請したこと
4 操舵中のB指定海難関係人が、A受審人からの要請によってヒューズ確認を行い、針路の保持を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は、三原瀬戸において、佐木島と上鷺島との間を南下中、A受審人及びB指定海難関係人が気付かないうちにいつしか針路が右偏して佐木島南東岸に乗り揚げたものであり、針路の保持が十分に行われなかったことによるものである。
 本件発生時は昼間であり、客室灯が消灯したままの状態でも旅客の乗下船や航海に支障になることはなかったものであり、やむを得ず航海中に行う作業には当たらない。
 したがって、A受審人が消灯の原因はヒューズ溶断ではないと分かったのち、自ら操舵に専念するなどして針路の保持を十分に行うことなく、B指定海難関係人と操舵を交替してなおもヒューズ周辺の点検を続けたことは、本件発生の原因となる。
 A受審人が客室灯4個の消灯を認めて操舵に当たりながらヒューズ交換を行ったことは、操舵に専念していなかったうえB指定海難関係人と操舵を交替するきっかけを作ったことになり、海難防止の観点から厳に是正されるべき事項である。
 A受審人が操舵中のB指定海難関係人にヒューズ確認を要請したこと、及びB指定海難関係人がA受審人からの要請によってヒューズ確認を行い、針路の保持を十分に行わなかったことは、A受審人が自ら操舵に専念するなどして針路の保持を十分に行っておれば発生しなかった事由である。 

(海難の原因)
 本件乗揚は、三原瀬戸において、佐木島と上鷺島との間を南下する際、針路の保持が不十分で、針路が右偏して佐木島南東岸に向かって進行したことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、三原瀬戸において、自ら操舵に当たって佐木島と上鷺島との間に向けて南下中、客室灯4個の消灯を認めてヒューズ交換を行ったのちも客室灯が点灯しなかった場合、消灯の原因を解明するまでには時間がかかることが予測されたうえ、消灯したままでも旅客の乗下船や航海に支障になることはなく、両島間の可航幅は200メートルばかりであったから、自ら操舵に専念するなどして針路の保持を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、客室灯の消灯が気になり、甲板員と操舵を交替してヒューズ周辺の点検を行い、自ら操舵に専念するなどして針路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により、甲板員が操舵中に針路が右偏し、佐木島南東岸に向かって進行して乗揚を招き、左右プロペラ翼切損及び同軸曲損などを生じさせ、旅客3人に右肩甲骨骨折、腰部捻挫及び右膝打撲などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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