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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年長審第30号
件名

モーターボート久山乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年8月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:久山船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船首部キール及びプロペラ2枚を損傷

原因
飲酒運航の防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年4月4日13時50分
 佐賀県波戸岬北西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 モーターボート久山
定係港 福岡県宗像郡津屋崎町
登録長 7.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 102キロワット

3 事実の経過
 久山は、専ら釣りに使用するためA受審人が平成13年5月に新艇の状態で購入したFRP製モーターボートで、同人が1人で乗り組み、釣りシーズンに備えて発電機等を修理させる目的で、船首0.25メートル船尾0.30メートルの喫水をもって同16年4月4日09時30分福岡県津屋崎漁港の係留地を発し、佐賀県伊万里湾内のマリーナに向かった。
 A受審人(四級小型船舶操縦士 平成7年7月免許取得)は、博多港沖合の相ノ島及び玄界島をそれぞれ右舷方に見て航過したのち、唐津湾に向けて航行中、途中の芥屋漁港(けやぎょこう)に知人がいることを思い出して立ち寄ることとし、11時50分ごろ同港に着岸し、手土産のつもりで国産ウイスキー700ミリリットル入りを1本購入したうえ、知人を訪ねたが不在だったので、帰船の途中、12時ごろ昼食をとるため通りがかりの旅館に入った。
 昼食をとるに際してA受審人は、回航の途中で飲酒すると、残りの航程が飲酒運航になるおそれがあったが、飲酒を控えることなく、食事に代えて好物の刺身と焼酎を注文し、ほぼ同量の湯を加えたお湯割焼酎180ミリリットルと刺身で腹ごしらえを終えて13時前に岸壁に戻り、出航する前に持ち帰ったウイスキーをビンから直接一口飲み、飲酒の影響で注意力や判断力がやや低下した状態となり、小型船舶操縦者の遵守事項として酒酔い等操縦の禁止があることを承知していたものの、酒は強い方なので大丈夫と思い、出航時刻を遅らせるなり出航を中止するなど、飲酒運航の防止措置をとることなく、13時00分離岸した。
 こうして、A受審人は、芥屋漁港を出たあと全速力として進行し、操船に当たりながら再度ウイスキーを飲み、姫島を右舷方に見て右転したとき、うねりと波で船体が傾き、釣りの道具箱が床に落ちて道具類が散乱したので機関を中立としてこれを片付け、その際にもウイスキー少量を飲み、出航前からこの間に合計150ミリリットルばかりのウイスキーを3回に分けて飲んだ状態で、13時20分少し前に釣り道具の片付けを終え、筑前姫島港東防波堤灯台から197度(真方位、以下同じ。)0.7海里の地点において、針路を275度に定め、機関を22.0ノットの全速力前進にかけ、操舵席のいすに腰を掛けて手動操舵で進行した。
 13時44分少し前A受審人は、肥前立石埼灯台から290度800メートルの地点において、針路を波戸岬(はどのみさき)北西端付近の水上岩に向く240度に転じ、同岩にもう少し近づいたら右転してその北側を航過する積もりで続航し、同時47分少し過ぎ波戸岬灯台から049度540メートルの地点に至ったとき、左舷船首45度100メートル付近の海面に海女数人が操業している姿を認め、他にも海女がいるかもしれないと危険を感じて減速したところ、飲酒の影響に加え、かねてからの肝臓疾患と当時の体調が影響したものか、突然意識を失って操舵席のいすに座ったまま仰向けに倒れた。
 久山は、その後、原針路のまま7.0ノットの速力で進行するうち、A受審人の腕が舵輪に当たってわずかに左舵がとられた状態となり、ゆっくり左転しながら続航中、13時50分波戸岬灯台から266度100メートルの地点に当たる波戸岬北西岸の浅所に215度に向首して乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、久山は、船首部キール及びプロペラ2枚を損傷し、異状に気付いた近くで操業中の漁船によって引き下ろされ、波戸岬南側の船溜りに曳航された。A受審人は、操舵席で仰向けになって意識のないままの状態で曳航され、船溜りの岸壁で意識を取り戻した。 

(原因)
 本件乗揚は、福岡県津屋崎漁港から佐賀県伊万里湾内のマリーナに向けて回航する際、飲酒運航の防止措置が不十分で、佐賀県波戸岬北西岸の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、福岡県津屋崎漁港から佐賀県伊万里湾内のマリーナに回航する場合、回航の途中で飲酒すると注意力や判断力が低下し、そのまま出航すると飲酒運航となるから、飲酒を控えるか、飲酒するのであれば出航を延期するなり中止するなりして、飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、酒は強い方なので大丈夫と思い、回航の途中飲酒してそのまま出航し、飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、更に航行中に飲酒して意識を失い、波戸岬北西岸の浅所に向首進行する事態を招き、同所に乗り揚げて久山の船首部キール及びプロペラを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。





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