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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年那審第7号
件名

漁船徳将丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年8月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:徳将丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
シャフトブラケット、推進器軸及び推進器翼などに曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月12日17時20分
 沖縄県石垣島観音埼沖
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船徳将丸
総トン数 4.1トン
全長 11.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット

3 事実の経過
(1)徳将丸
 徳将丸は、平成8年3月に進水した一層甲板型のFRP製漁船で、船首から順に船首甲板、魚倉などを配した前部甲板、操舵室及び船尾甲板を配し、右舷船尾端付近のガンネルにラインホーラを備えていた。
 また、操舵室内前部中央部に舵輪と主機遠隔操縦装置を備え、その前面の棚上にGPSプロッタ、レーダー、魚群探知機及び磁気コンパスなどを、その上方の天井近くに無線方位測定機などを置き、遠隔操舵装置として遠隔管制器を有していた。
 徳将丸の最大速力は、機関回転数毎分1,800の約16ノットであったが、漁場の往復航時には、同回転数毎分1,500の約13ノットで運航していた。
(2)受審人A
 A受審人は、昭和42年頃から一本釣り漁業に従事する漁船に乗り組み、同49年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したのち、船主兼船長として運航に携わり、平成8年5月に新造の徳将丸を購入し、沖縄県石垣島石垣港内にある登野城漁港を基地として専らまぐろ引き縄漁を行っていた。
(3)本件発生に至る経緯
 徳将丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成15年10月12日04時00分石垣港を発し、沖縄県八重山列島鳩間島の北西方約22海里の漁場に至り、14時00分同漁場を発進して帰途に就いた。
 ところで、A受審人は、鮮魚店を経営していたため、深夜に就寝する一方、早朝に出漁して夕方に帰港する日帰り操業を数日間繰り返していたことから、疲労と睡眠不足がやや蓄積した状態で発航したものであった。
 また、石垣港の港口は、石垣島観音埼から張り出した裾礁域と竹富島御埼の沖に拡延する干出さんご礁帯とにより、可航幅が1.4海里に狭められていた。
 A受審人は、漁場を発進したのち、石垣港の港口付近に向けて自動操舵とし、周囲の見張りにあたりながら漁具の整理などを行っていたものの、一段落したことから、16時44分半琉球観音埼灯台(以下「観音埼灯台」という。)から291度(真方位、以下同じ。)7.9海里の地点で、GPSプロッタにより石垣港中央灯浮標の所在を確認し、同灯浮標と観音埼の中間付近に向けるつもりで針路を113度に定め、機関を全速力前進にかけたところ、折からの風潮流により左方に3度圧流されながら13.0ノットの対地速力で進行することとなった。
 A受審人は、その後遠隔管制器を操舵室の出入口付近に置いたまま、船尾甲板の右舷側にあるいすに腰をかけ、ラインホーラにもたれかかるようにして見張りにあたるうち、疲労と睡眠不足がやや蓄積していたうえに、周囲に接近するような他船も見当たらなかったことなどから、眠気を感じるようになったが、居眠りに陥ることはないものと思い、立ち上がって見張りをするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航した。
 こうしてA受審人は、16時57分観音埼灯台から291.5度5.2海里の地点に差し掛かったとき、おぼろげに小浜島の北東方沖を航行していることを知ったものの、依然として居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったため、いつしか居眠りに陥り、圧流されながら観音埼沖の裾礁域に向かっていることに気付かないまま進行し、徳将丸は、17時20分観音埼灯台から315度420メートルの地点において、同裾礁域の外縁部に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力2の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には北西方に流れる弱い潮があった。
 A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、直ちに機関を停止して船体の損傷状況などを調べたところ、推進器翼などに曲損を認めたことから、機関の使用を断念し、その後来援した船に依頼して沖に錨を入れ、その錨索を手繰って離礁したのち、同船に曳航されて石垣港内にある石垣漁港に入港した。
 乗揚の結果、シャフトブラケット、推進器軸及び推進器翼などに曲損を生じたが、その後いずれも修理された。

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県石垣島西岸沖において、同島観音埼から張り出した裾礁域と、竹富島御埼の沖に拡延する干出さんご礁帯とにより狭められた石垣港の港口に向けて航行中、眠気を感じた際、居眠り運航の防止措置が不十分で、居眠りに陥り、折からの風潮流により圧流され、観音埼沖の裾礁域に向けて進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県石垣島西岸沖において、石垣港の港口に向けて航行中、疲労と睡眠不足がやや蓄積していたうえに、周囲に接近するような他船も見当たらなかったことなどから、眠気を感じた場合、立ち上がって見張りをするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、居眠りに陥ることはないものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、折からの風潮流により圧流され、観音埼沖の裾礁域に向かっていることに気付かないまま進行して乗揚を招き、シャフトブラケット、推進器軸及び推進器翼などに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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