(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月21日21時25分
沖縄県渡久地港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートイエローディックII |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
14.80メートル |
幅 |
4.50メートル |
深さ |
2.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
706キロワット |
3 事実の経過
(1)イエローディックII
イエローディックIIは、2機2軸を備え、限定付き沿海区域を航行区域とする最大とう載人員16人のFRP製プレジャーボートで、船体中央部にキャビン兼操舵室を配し、その上に舵輪及び主機遠隔操縦装置を備えたフライングブリッジを設け、航海計器として、操舵室内にレーダー、GPSプロッタ及び魚群探知機を備えていた。
(2)渡久地港本港
渡久地港本港(以下「渡久地港本港地区」という。)は、沖縄県沖縄島本部半島西岸にある渡久地港の北部に位置しており、その北方約1海里の港界外には、ドルフィン桟橋と物揚場を有する通称渡久地港エキスポ地区が築造されていた。
渡久地港本港地区沖には、同地区の防波堤入口の南側近くから西方に向けて長崎と称する裾礁域が舌状に約550メートル張り出し、長崎西端からその西方約450メートルのところに存在するヌルン瀬と称する浅礁まで浅所域が拡延するとともに、同西端の北西方約230メートル及び約500メートルのところに水深0.3メートルの浅所及び内ヤッカイ礁が、また、ヌルン瀬の西方約400メートルのところに内フカバヤと称する浅礁などが散在していたため、内フカバヤの南側及び内ヤッカイ礁の東側には、左舷標識の渡久地港第5号灯浮標(以下、灯浮標の呼称については「渡久地港」を略す。)及び第9号灯浮標が、ヌルン瀬の西側及び前示浅所の北側には、右舷標識の第8号灯浮標及び第10号灯浮標がそれぞれ敷設されていた。
渡久地港本港地区に入航する船舶は、第5号及び第9号両灯浮標並びに第8号及び第10号両灯浮標で示された水路を北東進し、第10号灯浮標を航過したところで東南東方に針路を転じ、その後長崎の北側を東行して同地区の防波堤入口に向かうことから、海図W240(渡久地港付近、7,500分の1)又はプレジャーボート・小型船用港湾案内(H-812、南西諸島)で渡久地港本港地区沖に敷設された航路標識の所在及び浅礁等の拡延状態を確認するなど、水路調査を十分に行う必要があった。
(3)受審人A
A受審人は、平成10年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同11年9月からマリンショップの大型プレジャーボートに乗り組み、時には船長として沖縄県那覇港周辺を航行していたところ、自らの休暇時に、那覇港で知人を乗船させたのち、同県慶良間列島周辺海域を巡航することとなり、同15年7月19日朝、渡久地港本港地区に赴いて前示船舶所有者からイエローディックIIを借り受けたものの、それまで同地区に寄港した経験がなかったうえに、前示海図などを備えていなかったため、海水の変色状況を確認しながら無難に長崎の北側を西北西進し、船首方に認めた第10号灯浮標付近で大きく左転して那覇港に向かったものであった。
(4)本件発生に至る経緯
イエローディックIIは、A受審人が甲板員1人と乗り組み、回航の目的で、船首0.6メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成15年7月21日19時40分那覇港を発し、渡久地港本港地区に向かった。
ところで、A受審人は、那覇港からの発航に先立ち、渡久地港本港地区の水路状況に不案内であったばかりか、既に日没時刻を過ぎていたが、同地区から出航したときの記憶を頼りに入航できるものと思い、前示海図又はプレジャーボート・小型船用港湾案内を入手して航路標識の所在や浅礁等の拡延状態を確認するなど、水路調査を十分に行わなかった。
こうしてA受審人は、沖縄島西岸に沿って北上し、本部半島西岸と瀬底島との間にある瀬底水路の南口付近に差し掛かったところで、甲板員を魚群探知機による水深の監視に就け、その後単独でフライングブリッジの操縦席に腰をかけて操船にあたり、21時09分半渡久地港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から239度(真方位、以下同じ。)1,320メートルの地点で、針路を第8号灯浮標のわずか左方に向く359度に定め、スロットルレバーを調整して3.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、21時17分少し前南防波堤灯台から269度1,140メートルの地点に達したとき、右舷船首56度約100メートル及び約500メートルのところに第8号及び第10号灯浮標を、右舷船首39度約480メートルのところに第9号灯浮標をそれぞれ視認するとともに、右舷正横付近約1,140メートルのところに渡久地港本港地区の防波堤入口を認めた。このとき、同受審人は、同地区から出航した折りに、防波堤入口沖の灯浮標付近で大きく左転したことを思い出し、第8号灯浮標がそのときの灯浮標であり、第9号及び第10号両灯浮標は渡久地港エキスポ地区に至る水路を示すものと判断して右転を始め、21時19分同灯台から277度1,030メートルの地点で、針路を渡久地港本港地区の防波堤入口に向かう094度とした。
A受審人は、水路調査を十分に行っていなかったことから、灯浮標を取り違えたことも、長崎の北側外縁部に著しく接近するおそれがある態勢となったことにも気付かないまま続航し、21時25分わずか前甲板員から水深2メートルとの報告を受けたものの、時既に遅く、イエローディックIIは、21時25分南防波堤灯台から280度480メートルの地点において、原針路、原速力のまま、同外縁部に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、日没時刻は19時23分であった。
乗揚の結果、両舷推進器翼及び左舷推進器軸に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。
A受審人は、直ちに機関を停止し、船舶所有者に渡久地港本港地区の沖で乗り揚げたことを報告したのち、潜水して船底及び海底の状況を調査したところ、浸水するおそれがなく、離礁が可能な状態であったことから、船尾方に約10キログラムの鉄製四爪錨を投入して自力離礁し、来援した同所有者の社員に操船を委ねて入港した。
(原因)
本件乗揚は、沖縄県渡久地港本港地区に向けて発航する際、水路調査が不十分で、夜間、同地区の沖を航行中、裾礁域の外縁部に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県渡久地港本港地区に向けて発航する場合、それまで同地区に入航したことがなく、その水路状況に不案内であったから、散在する浅礁などに著しく接近することのないよう、発航に先立ち、海図W240又はプレジャーボート・小型船用港湾案内を入手して航路標識の所在及び浅礁等の拡延状態を確認するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、渡久地港本港地区から海水の変色状況を確認しながら出航したときの記憶を頼りに入航できるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、同地区の沖を航行中、灯浮標を取り違えたことも、渡久地港本港地区沖の裾礁域外縁部に著しく接近する態勢となったことにも気付かないまま進行して乗揚を招き、両舷推進器翼及び左舷推進器軸に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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