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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年門審第62号
件名

漁船海仁乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年8月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦、長谷川峯清、織戸孝治)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:海仁船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首船底外板に破口を生じて浸水、僚船によって曳航中、沈没して全損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月3日06時00分
 長崎県壱岐島東岸
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船海仁
総トン数 2.91トン
登録長 9.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 60

3 事実の経過
 海仁は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、昭和55年4月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が、同免許の更新手続きをせず、平成14年11月6日をもって失効したまま、1人で乗り組み、ぶり一本釣り漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同16年1月3日05時55分長崎県七湊漁港を発し、同県若宮島北方の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、自船にレーダーを装備していなかったので、平素、夜間、七湊漁港から北方の漁場に向かう場合、同漁港の防波堤南方に設置された定置網の存在を示す標識灯の南側を南東方に進み、壱岐乙島灯台と金城岩灯台との見通し線上に達して左転し、金城岩灯台に向けてしばらく北東進し、その後、同灯台と長者原埼沖灯浮標との中間付近を北上していた。そして、この日、同受審人は、僚船のつる丸と06時に同灯浮標付近で落ち合ってともに出漁することにしていた。
 A受審人は、舵と機関とを適宜使用して防波堤の外に出たのち、徐々に増速しながら定置網南方に向かって南下し、05時58分半壱岐乙島灯台から016度(真方位、以下同じ。)1,130メートルの地点で、機関回転数を毎分2,400として13.0ノットの対地速力とし、手動操舵により南東方に進んだ。
 05時59分少し前A受審人は、左舷前方に金城岩灯台の灯光を認めて左転することとしたが、いつも航行している海域であり、同灯台の灯光が見えたので大丈夫と思い、同灯台と壱岐乙島灯台との見通し線上にいるかどうかを確かめるなどして、船位の確認を十分に行うことなく、平素の転針地点に達していないことに気付かないまま、左転を始めた。
 A受審人は、05時59分わずか前壱岐乙島灯台から023度1,130メートルの地点で針路を039度に定めたところ、筒城埼南岸に向首することとなったが、左舷方に見える七湊漁港の防波堤先端の灯火の見え具合に気をとられ、依然、船位の確認をしなかったので、このことに気付かなかった。
 海仁は、同じ針路及び速力で続航中、06時00分壱岐乙島灯台から027度1,550メートルの地点において、筒城埼南岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、船首船底外板に破口を生じて浸水し、僚船によって七湊漁港に引きつけられる途上、沈没して全損となった。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、長崎県七湊漁港を発して同県若宮島北方の漁場に向かう際、船位の確認が不十分で、筒城埼に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県七湊漁港を発して同県若宮島北方の漁場に向かう場合、レーダーを装備していなかったから、予定針路線付近にある筒城埼を無難に航過できるよう、金城岩灯台と壱岐乙島灯台との見通し線上にいるかどうかを確かめるなどして、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつも航行している海域であり、金城岩灯台の灯光が見えたので大丈夫と思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、筒城埼に向首していることに気付かず進行して乗揚を招き、船首船底に破口を生じて浸水し、僚船によって七湊漁港に引きつけられる途上沈没させ、全損となるに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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