(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月22日14時25分
香川県牛ヶ首島北東方沖 出崎内
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第二十二住力丸 |
バージS-23号 |
総トン数 |
116トン |
|
全長 |
23.95メートル |
59.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
735キロワット |
|
3 事実の経過
第二十二住力丸は、鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、スクラップ等660トンを載せた船首喫水2.0メートル船尾喫水2.3メートルのバージS-23号を押航して、船首0.7メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成15年11月22日13時30分香川県豊島を発し、岡山県宇野港田井に向かった。
ところで、A受審人は、当時専ら徳島県徳島小松島港及びその近郊で徳島空港埋立て工事関連の土砂等の運搬に当たっていたところ、オペレーターからの要請でたまたま当月上旬2往復したことのあった豊島から宇野港へのスクラップ等の運搬を行うことになり、その際オペレーターから陸揚げ予定地の宇野港田井岸壁付近のファックス写しを受け取った。
ところが、A受審人は、前回と同様に豊島から香川県牛ヶ首島北方を経て宇野港田井に向かうに際し、関連の海図としては小縮尺度の第100A号(海上保安庁水路部刊行)しか所持していなかったが、海図なしで牛ヶ首島北岸に接航したルートで2往復航行し得た経験があり、したがって今回も同様に航海することができるものと思い、所定の海図等水路資料を取り揃えず、航行予定海域の水路調査を十分に行わなかったので、予定航路に近い牛ヶ首島北方約600メートル沖合に東西方向に拡延した浅礁域である出崎内が存在することを知らなかった。
こうして、A受審人は、運搬要請に基づき豊島北東岸に位置した積地を発航すると同島北方沖合に続いて井島北方を経たルートで西行し、14時17分宇野港田井灯標から106度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達しところで、牛ヶ首島北方を経て目的地に向かうつもりで針路を312度に定め、機関を全速力前進にかけたまま8.5ノットの速力で手動操舵によって進行した。同時22分同灯標から085度0.9海里の地点に至り、前路約200メートルのところに漁網を投入した標識の白色ブイを認め、右舵を取ってこれを左舷側に替わし、その後も前方に認めた同種ブイを替わしながら続航するうちに出崎内に向かう状況となったが、これに気付かないまま進行した。同時24分同灯標から074度0.8海里の地点で、目的地に向けるつもりで左舵を取って徐々に左転しながら続航し、14時25分宇野港田井灯標から071度1,210メートルの地点において、第二十二住力丸被押バージS-23号は、針路がほぼ宇野港田井岸壁付近に向く250度になったころ出崎内南東部付近の浅礁に乗り揚げ、これを乗り越えた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。その後、航行を続けて目的地に着岸した。
乗揚の結果、第二十二住力丸は推進器翼端を曲損し、S-23号は船首部船底外板に小破口を生じてバウスラスター室に浸水し、更に同室から電気配線用パイプを介して機関室に浸水して発電機に濡れ損を生じた。
(原因)
本件乗揚は、香川県豊島から同県牛ヶ首島北方を経て岡山県宇野港田井に向かう際、水路調査が不十分で、牛ヶ首島北方の出崎内に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、当時専ら徳島県徳島小松島港及びその近郊で徳島空港埋立て工事関連の土砂等の運搬に当たっていた際、オペレーターの要請で豊島からスクラップ等を載せて牛ヶ首島北方を経て岡山県宇野港田井に向かう場合、関連海図として小縮尺度の第100A号しか所持していなかったから、所定の海図等水路資料を取り揃えて航行予定海域の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、それまでに海図なしで牛ヶ首島北岸に接航したルートを2往復航行し得た経験があり、したがって今回も同様に航海することができるものと思い、所定の海図等水路資料を取り揃えて航行予定海域の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、牛ヶ首島北方の出崎内付近に設置された漁網標識を替わすつもりで転舵進行して、出崎内への乗り揚げを招き、第二十二住力丸の推進器翼端を曲損及びS-23号の船首部船底外板に小破口を生じてバウスラスター室に浸水し更に電気配線用パイプを介して同室から機関室に浸水して発電機に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。