(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月26日23時10分
周防灘東部 徳山下松港島田防波堤
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八朝日丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
56.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第八朝日丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のままバラスト150トンを漲水し、船首1.60メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、平成15年3月26日14時20分福岡県博多港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
ところで、運航状況は、当時主に北九州と京浜間及び時折大阪や徳山に寄港する鋼材輸送に従事して月間平均6航海程であった。また乗組員の就労状況は、全員が揚げ荷中に船倉内に入って荷敷きに使用されたダンネージの片付け等の作業を行い、積み荷中には陸上クレーンによるもので荷役ワッチを行う程度であり、船橋当直は3名全員による単独4時間3直体制で行われていた。その結果、各自は荷役や船橋当直の合間に休息を取り、特に休息不足となる状況ではなかった。
しかし、船橋当直を適正に運営するに当たっては、休息状況の良否に係わらず居眠り運航の防止対策を欠くことができないものであり、特に夜間など概して外部からの刺激が少なく明確な眠気を伴わずに居眠りに陥るおそれがあるので、種々の居眠りパターンに対応できるよう、健康状態や精神状態など個人的要因は言うに及ばず当直環境要因等を含めた総合的な観点から、単に眠気を催した際の対策に止まらず例えば眠気の有無に係わらず有効視されている居眠り防止機の設置など居眠り運航の防止措置を十分に取る必要があった。
ところが、A受審人は、従来から行ってきた当直中に眠気を催した際には立った姿勢で見張りを行ったり外気に触れたりすることなどの個人的要因のみの対策に止まり、居眠りに係わる諸要因を含めた総合的な観点からの居眠り運航の防止措置を十分に取るまでには至ってなかった。
こうして、A受審人は、出航操船後降橋し一時休息を取るなどして予定船橋当直時間の20時山口県本山ノ洲沖付近で昇橋し、その後単独当直に就いて目的地に向かい、途中多数の操業中の漁船や反航船を避けながら周防灘を東行し続けた。22時15分火振岬灯台から228度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点に達したところで、針路を徳山下松港島田防波堤に向く063度に定め、機関を全速力にかけたまま11.0ノットの速力で自動操舵により進行した。定針後、前方には他船も見当らず入港までしばらく間があったので、密閉状態ながら暖房されてはいない船橋の右舷寄りに置かれたいすに腰掛けた姿勢で当直を続けていたところ、眠気の自覚がないまま居眠りに陥り、やがて徳山下松港域内に達したことに気付かないまま続航し、23時10分徳山下松港島田防波堤灯台から301度80メートルの地点において、第八朝日丸は、同じ針路速力のまま同港島田防波堤基部に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、第八朝日丸は、船首部船底外板に凹損等を生じた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、単独で船橋当直を運営する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、徳山下松港島田防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直を運営する場合、夜間など概して外部からの刺激が少なく明確な眠気を伴わずして居眠りに陥るおそれがあるから、種々の居眠りパターンに対応できるよう、健康状態や精神状態など個人的要因は言うに及ばず当直環境要因等を含めた総合的な観点から単に眠気を催した際の対策に止まらず例えば居眠り防止機の設置など居眠り運航の防止措置を十分に取るべき注意義務があった。しかし、同人は、従来から行っていた眠気を催した際の個人的要因のみの対策に止まり、総合的な観点に立って居眠り運航の防止措置を十分に取らなかった職務上の過失により、夜間自らが徳山下松港に向かって当直中、操業水域を通過後前方に他船も見当らず入港までのしばしの間いすに腰掛けていたところ、眠気の自覚がないまま居眠りに陥り、徳山下松港域内に達したことに気付かないまま進行して、同港島田防波堤基部への乗揚を招き、船首部船底外板に凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。