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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年長審第16号
件名

漁船第三十五安栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年7月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:第三十五安栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
プロペラ、プロペラ軸及び舵板に曲損、並びに船底キール部に擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月8日07時00分
 長崎県的山大島西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五安栄丸
総トン数 19トン
全長 24.30メートル
4.64メートル
深さ 1.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 第三十五安栄丸(以下「安栄丸」という。)は、有限会社安栄水産が所有・運航する、網船第五十八安栄丸と灯船2隻及び運搬船3隻で構成されたまき網漁業船団付属のFRP製漁獲物運搬船で、A受審人(一級小型船舶操縦士 平成10年3月31日免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年1月7日14時00分長崎県生月漁港を発し、魚群探索を行いながら船団とともに沖合の漁場に向かい、16時ごろ同港北北西方沖合約20海里の漁場に到着して付近の海域で操業に従事した。
 A受審人は、翌8日00時ごろ前示漁場で網船に接舷し、甲板作業を行わせるために甲板員1人を自船に乗船させたのち引き続き操業に従事していたところ、船主から操業を中止して帰航するよう指示を受け、同日05時30分二神島灯台から293度(真方位、以下同じ。)14.0海里の漁場を発進し、船団とともに帰途に就いた。
 ところで、A受審人は、正月休み明けの1月6日から安栄丸に1人で乗り組み、同日12時に出航して翌7日09時に帰港し、船内で数時間休息をとったのち、14時に再び出航して魚群探索に当たっていたので、漁場を発進したときには、二日間にわたる連続した就労によって睡眠不足の状態であった。
 漁場発航後、A受審人は、甲板員を船室で休息させ、自らは操舵室の舵輪後方にある高さ約90センチメートルの畳敷きの寝床に腰を掛け、単独で操舵操船に当たって長崎県的山大島北西方沖合を南下したのち、06時00分二神島灯台から273度10.0海里の地点に達したとき、12海里レンジとしたレーダーで生月島北端の大碆鼻と的山大島南端の馬ノ頭鼻との中間付近の海域に向首するよう、針路を149度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で、手動操舵で進行した。
 定針して間もなく、A受審人は、二日間の連続した就労による睡眠不足と、海上は穏やかで視界も良く、前路に他船を見掛けなかった安心感から、やがて眠気を強く催すようになったので、寝床から立ち上がって顔を洗い、コーヒーを飲むなどして眠気覚ましを試みたものの効果がなく、依然として強い眠気が続いたが、生月漁港沖合まで1時間ばかりなのでそれまで何とか耐えられるものと思い、速やかに休息中の甲板員を操舵室に呼んで2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、再び寝床に腰を掛けたところ間もなく居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、06時30分二神島灯台から237度8.2海里の地点に達したとき、折からの北北西風によって船首が少し左方に切り上がり、その後徐々に船首を左方に振りながら進行し、やがて的山大島西岸に向首接近する状況となったものの、依然居眠りを続けてこのことに気付かないまま続航中、安栄丸は、07時00分馬ノ頭鼻灯台から045度1.4海里の地点に当たる、的山大島西岸付近の浅所に、原速力のまま船首が100度を向いて乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚の結果、安栄丸は、プロペラ、プロペラ軸及び舵板にそれぞれ曲損、並びに船底キール部に擦過傷を生じて航行不能となったが、僚船によって引き降ろされ、損傷箇所はいずれも修理され、その後、船主が就労体制の見直しを行って乗組員が2人に増員され、二交替制で魚群探索及び航海当直に当たることに改められた。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、漁場から長崎県生月漁港に向け同県的山大島北西方沖合を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、的山大島西岸に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で操舵操船に当たり、漁場から生月漁港に向け的山大島北西方沖合を南下中、睡眠不足と前路に他船を見掛けなかった安心感から、眠気を強く催した場合、立ち上がって顔を洗い、コーヒーを飲むなどして眠気覚ましを試みたものの効果がなかったのだから、速やかに休息中の甲板員を操舵室に呼んで2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、生月漁港沖合まで1時間ばかりなのでそれまで何とか耐えられるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、風圧によって徐々に船首を左方に振りながら的山大島西岸に向首進行して乗揚を招き、プロペラ、プロペラ軸及び舵板にそれぞれ曲損、並びに船底キール部に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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