(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月2日19時40分
佐賀県向島北西岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船平成丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
22.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
558キロワット |
3 事実の経過
平成丸は、一本釣り漁業に従事するアルミ軽合金製漁船で、A受審人(一級小型船舶操縦士 昭和52年11月免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年3月2日05時00分佐賀県星賀港を発し、06時20分壱岐島郷ノ浦港西方8.0海里の漁場に至って操業にかかり、タイなど20キログラムを獲たところで操業を終え、18時35分壱岐長島灯台から263度(真方位、以下同じ。)5.4海里の地点を発進し、星賀港に向けて帰途に就いた。
ところで、A受審人は、向島の西端から北端に至る海岸は陸岸から約200メートル沖合の水面下にかけ、岸線に沿うようにして岩礁が散在し、西端付近の岩場は沖合に向かって約250メートルにわたり広範囲に拡延していることなどをよく知っていたので、これまで壱岐島西方の漁場で操業して帰航するときには、向島を0.3海里ばかり左舷側に離す針路とし、向島の0.5海里ばかり手前で右転して日比水道を航過していた。
発進したのち、A受審人は、しばらくして日没を迎え、馬渡島西方沖合2海里からその南東方数海里にわたりいか釣り船や旋網船の漁船群の灯火が見えてきたので、針路を同灯火と馬渡島との間にとっていつもより東側を航行することとし、GPSプロッターを見ながら南下しているうち、右舷側漁船群の灯火を半分ぐらい替わして馬渡島付近に至った。
19時23分A受審人は、肥前馬渡島灯台から264度1.8海里の地点において、そろそろ日比水道に向けて右転しようとしたものの、右舷前方の漁船群の灯火にまだ近かったので、針路を肥前向島灯台に向く150度に定め、機関を全速力前進にかけ、17ノットの対地速力で、時折GPSプロッターを見ながら手動操舵により進行した。
19時34分A受審人は、肥前向島灯台から330度2.0海里の地点に至り、ようやく右舷側漁船群の灯火が見えなくなり、しばらくこのまま同灯台の灯光を船首目標とし、向島に約0.5海里まで近づいてから転針することとしたが、暗夜であったものの、同灯台に向首続航していれば、いずれ目測のみで船位が分かると思い、レーダーの電源を入れてこれを活用するなど、船位の確認を十分に行うことなく、間もなく見えてくるはずの海岸付近の岩場を肉眼で探しながら進行した。
こうして、A受審人は、19時38分肥前向島灯台から330度0.9海里の予定転針地点に達したものの、依然船位の確認を十分に行わなかったので、このことに気付かず、転針できずに肥前向島灯台を目標に向島北西岸の岩礁に向首して続航中、19時40分平成丸は、肥前向島灯台から339度600メートルの地点において、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、平成丸は、舵柱及びスターンチューブのシールを損傷して舵機室及び機関室に海水が浸水し、さらに波浪によって浅瀬に打ち寄せられプロペラ羽根及び同軸曲損、舵脱落などを生じたが、来援した漁船によって引き降ろされて星賀港まで曳航され、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、壱岐島西方の漁場から佐賀県星賀港に向け帰航中、船位の確認が不十分で、向島北西岸の岩礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、壱岐島西方の漁場から佐賀県星賀港に向け帰航する際、肥前向島灯台の灯光を船首目標とし、向島に近づいてから転針する場合、いつもと違う針路をとっていたのであるから、レーダーの電源を入れてこれを活用するなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同灯台に向首続航していれば、暗夜であったものの、いずれ目測のみで船位が分かると思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、向島北西岸の岩礁に向首進行して乗揚を招き、プロペラ羽根及び同軸曲損、舵脱落などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。