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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成16年那審第15号
件名

漁船真梨丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年7月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(加藤昌平)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:真梨丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
船体各部に破口を伴う損傷を生じ、プロペラ及び舵を損傷、のち廃船

原因
進路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は、進路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月18日18時30分
 鹿児島県奄美大島崎原漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船真梨丸
総トン数 3.9トン
全長 11.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 117キロワット

3 事実の経過
 真梨丸は、船体中央部に操舵室を設け、主に一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成6年7月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が船長として、ほか1人が乗り組み、船体改造のために回航する目的で、船首0.8メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年9月18日14時00分鹿児島県名瀬港を発し、奄美大島北東岸の小湊漁港に向かった。
 発航後A受審人は、単独で操船に当たり、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により針路を適宜変更しながら進行し、17時00分奄美空港沖合に差し掛かったころ、前方の崎原漁港から小湊漁港にかけて厚い雲が広がり、波浪が高まり風も強くなってきたことを認め、小湊漁港に向かうのを断念し、荒天避難のため、それまでに何度か入港したことのある崎原漁港に入港することとし、同漁港に向けて陸岸沿いに航行した。
 ところで、崎原漁港は、奄美大島北東岸の名瀬市と龍郷町との境界に流れ込む田雲川河口付近に広がる裾礁域に築かれた漁港で、同河口北側にある高さ120メートルの山頂から145度(真方位、以下同じ。)350メートルのところにある防波堤基部(以下「基点」という。)から、東南東方向に約40メートル、さらにその地点から北北東に約140メートルの長さで延びる防波堤(以下「外防波堤」という。)と、陸岸とによって囲まれ、ほぼ北に開いたその入口付近には、外防波堤から約50メートル離れた海岸に、長さ約50メートルの防砂堤と同防砂堤基部から外防波堤にほぼ直角に向かう長さ約25メートルの防波堤(以下「内防波堤」という。)とが設けられていた。
 また、崎原漁港内は、ほぼその全域が水深2メートルの泊地となっているものの、外防波堤の内側側端から3ないし4メートルのところまでと内防波堤及び防砂堤付近には、岩やさんご礁などの浅所が残されており、港内への進入に当たっては、各防波堤と防砂堤付近の浅所に接近することのないよう、外防波堤と防砂堤との中間部にある可航幅約20メートル水深2メートルの水路を経て、その後、距離約25メートルとなる外防波堤と内防波堤の間(以下「防波堤入口」という。)の中央部付近を航行して港内に至るものであった。
 18時29分少し前A受審人は、外防波堤先端まで70メートルとなる、基点から057度210メートルの地点に達したとき、操舵室の右舷外側に取り付けた主機遠隔制御レバーにより速力を5.0ノットに減じるとともに、左舵を少しとって防波堤入口に向けて進行し、同時29分少し過ぎ基点から040度150メートルの地点において、日没直後で防波堤等を目視できる状況の下、機関を停止して惰力により港内に向けて続航した。
 港内に向けたときA受審人は、それまで何度か崎原漁港に入港した経験から、防砂堤付近には岩やさんご礁などの浅所が広がっているうえ、外防波堤付近にも浅所が存在することを知っていたが、防砂堤から離すことに気をとられ、防波堤入口の中央部付近を航行する進路とすることなく、船首に乗組員を配置して外防波堤付近の浅所に著しく接近する態勢となって続航した。
 18時30分少し前A受審人は、基点から050度100メートルの地点に達したとき、船首に配置した乗組員から大声で乗揚の危険を知らされ、あわてて機関を半速力後進にかけ、外防波堤付近の浅所への乗揚を回避したものの、真梨丸は、船首を右に振りながら防砂堤付近の浅所に向かって後退し、18時30分基点から028度105メートルの地点において、237度に向首したとき、防砂堤付近の浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、日没時刻は18時23分であった。
 A受審人は、防波堤の内側で乗り揚げているのでそれ以上移動することはないものと思い、真梨丸の船固めを十分に行わないまま同船を離れたため、真梨丸は、折からの風浪によりさらに浅所に押しやられることとなり、その結果、船体各部に破口を伴う損傷を生じ、プロペラ及び舵を損傷させるに至り、のち、廃船とされた。 

(原因)
 本件乗揚は、奄美大島北東岸沖を航行中、荒天避難のため崎原漁港に入港する際、進路の選定が不適切で、防波堤付近の浅所に著しく接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、奄美大島北東岸沖を航行中、天候の悪化により、荒天避難のため崎原漁港に入港する場合、同漁港の各防波堤や防砂堤付近には浅所が存在することを知っていたのであるから、同浅所に著しく接近することのないよう、防波堤入口の中央部付近を航行する進路を選定すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、防砂堤から離すことに気をとられ、防波堤入口の中央部付近を航行する進路を選定しなかった職務上の過失により、外防波堤付近の浅所に著しく接近し、船首配置の乗組員から乗揚の危険を知らされ、あわてて機関を半速力後進にかけ、外防波堤付近の浅所への乗揚を回避したものの、防砂堤付近の浅所に向かって後退して同浅所に乗り揚げ、船体各部に破口を伴う損傷を生じ、プロペラ及び舵を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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