(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月9日01時40分
備讃瀬戸二面島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第八大倉 |
総トン数 |
198トン |
登録長 |
49.39メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
3 事実の経過
第八大倉(以下「大倉」という。)は、専ら瀬戸内海において鋼材の運搬に従事する貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材620トンを積載し、船首2.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成15年11月8日21時30分愛媛県壬生川港を発し、大阪港に向かった。
ところで、A受審人は、同年8月下旬に本船に乗船し、船橋当直を自らと機関長との2人による単独当直とし、航海時間が8時間までのときにはその半分ずつ、それ以上のときには4時間交替で行うようにしていた。また、前日7日12時00分大阪港を発して8日00時20分壬生川港に着岸したのち、08時00分まで自室で休息をとり、12時00分まで機関長と共にペンキ塗りなどの甲板作業を行い、その後17時20分の積荷役開始まで自室で休息をとった。
このようにして、22時00分A受審人は、壬生川港北方沖合から4時間の船橋当直に就いて燧灘西部を北上し、23時46分高井神島灯台から340度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点で、針路を073度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、0.5ノットばかりの順流に乗じて9.8ノットの対地速力で、操縦スタンド後方のいすに腰掛け、備後灘推薦航路線に沿って進行した。
翌9日00時37分A受審人は、備後灘航路第5号灯浮標を左舷側に航過したころから眠気を催すようになったので、コーヒーを飲んでいすから立ち上がって当直に当たり、同時57分同第6号灯浮標を左舷側に航過したころ、再びいすに腰掛けて当直に当たるようになったところ、まだ眠気を払拭できなかったが、少し前にコーヒーを飲んだので、そのうちその効果が現れるものと思い、いすから立ち上がって体を動かすなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
01時33分A受審人は、二面島灯台から248度1.3海里の備讃瀬戸南航路に向かうための右転予定地点に達したことに気付かず、二面島に向首したまま進行し、01時40分二面島灯台から225度280メートルの地点において、大倉は、原針路、原速力で同島西岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、船首部から中央部にかけての船底外板に凹損を生じたが、上げ潮を待って自力離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、備後灘において、備讃瀬戸に向けて東行する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、二面島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、備後灘において、いすに腰掛けて単独で船橋当直に就いて備讃瀬戸に向けて東行中に眠気を催した場合、いすに腰掛けたまま当直に当たっていると居眠りに陥るおそれがあったから、いすから立ち上がって体を動かすなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、少し前にコーヒーを飲んだので、そのうちその効果が現れるものと思い、いすから立ち上がって体を動かすなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針が行われず、二面島に向首したまま進行して同島西岸への乗揚を招き、船底に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。