(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月12日05時10分
三重県志摩半島南岸
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船せいこう丸 |
総トン数 |
2.2トン |
全長 |
10.86メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
117キロワット |
3 事実の経過
せいこう丸は、後部に操舵室を備えたFRP製釣り船で、A受審人(昭和51年5月四級小型船舶操縦士免許を取得)が1人で乗り組み、釣り客4人を乗せ、わらさ釣りの目的で、船首尾とも0.6メートルの喫水をもって、平成14年10月12日04時55分三重県英虞湾(あごわん)湾奥の深谷漁港船越地区を発し、大王埼南方沖の釣り場に向かった。
ところで釣り場は、英虞湾湾奥と熊野灘を、地峡部をほぼ南北に走り接続している深谷水道の南口から東方約2海里にあった。そして、同水道南口では、その東側陸岸から沖に向かって逆くの字型をした防波堤(以下「防波堤」という。)が200メートルばかり突出し、また西側沿岸に防波堤と対峙するように干出岩等が点在する険悪地が広がっていた。
A受審人は、この付近の航行経験が豊富にあり、深谷水道南口を通過後は防波堤や陸地を目視することで船位を確かめながら、約100メートルの間隔がある防波堤と険悪地間の中央部を航行して険悪地を避け、大王埼南方沖に向かうこととしていた。
こうしてA受審人は、発航後、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で、操舵室で椅子に腰掛け手動操舵により薄明時の英虞湾から深谷水道を南下し、05時09分半同水道南口を通過して深谷水道口灯台から186度(真方位、以下同じ。)120メートルの地点に達したとき、常用薄明が間近で約120メートル前方に防波堤先端を視認することができる状況下、釣り具の準備をする釣り客の便を図って操舵室前方のマスト及び同室後部に取り付けている作業灯をそれぞれ点灯し甲板を照らしていたので、その明かりに妨げられ防波堤など周囲がよく見えなかったが、慣れている海域なので勘のみで航行しても険悪地を替わせるものと思い、作業灯を消し防波堤を目視するなどして船位を十分に確認することなく、いつもと同様に釣り場に向かうつもりで少し右転したところ、195度に向首して険悪地に向かう状況となり、これに気付かないまま進行中、せいこう丸は、05時10分深谷水道口灯台から190度190メートルの地点において、水面下にあった干出岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、日出は05時55分であった。
乗揚の結果、船首部船底に破口を生じて浸水し、キールを破損したが、後続していた僚船によって引き降ろされ、のち修理された。また、釣り客1人が頚髄損傷、胸腰椎捻挫などを負い、約1年間の通院治療がなされたものの、頸部外傷性症候群の後遺症が残った。
(原因)
本件乗揚は、早朝の薄明時、三重県志摩半島南岸において、深谷水道南口を通過後、大王埼南方沖の釣り場に向かうにあたり、船位の確認が不十分で、険悪地に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、早朝の薄明時、三重県志摩半島南岸において、深谷水道南口を通過後、険悪地を避けて大王埼南方沖の釣り場に向かう場合、甲板を照らしている作業灯の明かりに妨げられ防波堤など周囲がよく見えない状況であったから、作業灯を消し防波堤を目視するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れている海域なので勘のみで航行しても険悪地を替わせるものと思い、作業灯を消し防波堤を目視するなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、険悪地に向け進行して乗り揚げを招き、船首部船底に破口を生じ、キールを破損し、釣り客1人に頚髄損傷、胸腰椎捻挫などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。