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平成16年長審第18号
件名

漁船登栄丸漁船恵福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦、山本哲也、藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:登栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:恵福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
登栄丸・・・右舷船首外板に破口及びプロペラ軸に曲損、板員1人が腰部圧迫骨折の重傷
恵福丸・・・左舷船首外板に破口及び右舷船首外板に亀裂

原因
登栄丸・・・速力過大、船員の常務不遵守(前路に進出)

主文

 本件衝突は、可航幅20メートルの水路のわん曲部において、南下する登栄丸が、安全な速力とせず、北上する恵福丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年11月27日18時35分
 福岡県柳川市沖端川河口
 (北緯33度08.2分 東経130度22.2分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船登栄丸 漁船恵福丸
総トン数 4.99トン 4.60トン
登録長 12.25メートル 11.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80 50
(2)設備及び性能等
ア 登栄丸
 登栄丸は、昭和51年5月に進水したFRP製漁船で、船体後部に操縦スタンドがあり、その上に鉄パイプで枠組みされたオーニングを設け、船尾に立てたマストの頂部には、マスト灯及び船尾灯に代えて白色全周灯を備え、その下方に両色灯を備えていた。
イ 恵福丸
 恵福丸は、昭和53年6月に進水したFRP製漁船で、船体後部に操舵室を設け、その上部に両色灯及びサーチライトを備えていたが、マスト灯及び船尾灯、若しくはこれに代わる白色全周灯を備えていなかった。

3 事実の経過
(1)水路の状況等
 有明海北部に流入する沖端川及びその西方の筑後川の河口周辺海域は福岡県若津港の港域で、港界付近から沖合にかけた水域に縦横に細かく区画された海苔ひびが、広範囲にわたって敷設されていた。
 また、福岡県沖端漁港は、沖端川河口から上流約1.7から3.4キロメートルの間にある河川港で、両岸に物揚場、係留施設等があり、同港を係留地とするほとんどの漁船が有明海の採介藻漁業に従事していた。
 そして、沖端川河口から沖合の若津港港界付近まで約1.5キロメートルにわたる海域に形成する干出浜を毎年8月ごろ浚渫し、同河口付近から約700メートルがS字形にわん曲したのち沖合の海苔ひびに向かってほぼまっすぐに延び、低潮時には可航幅20メートルとなる水路が設けてあり、同水路の西側に沿って高潮時の水面上高さが約2メートルとなる直径約5センチメートルのFRP製ポールを3本束ねた立標(以下「立標」という。)が、20ないし30メートル間隔で立ててあり、夜間でも付近海域を航行する船舶が立標を目標にして航行できるようになっていた。
(2)本件発生に至る経緯
 登栄丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、海苔採取の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成15年11月27日18時30分福岡県沖端漁港の係留地を発し、有明海南部の海苔養殖漁場区画に向かった。
 A受審人は、両色灯と白色全周灯を点灯して発進したのち、沖端川河口付近の最北端の立標を目標に南下し、18時34分わずか過ぎ沖之端灯標から065度(真方位、以下同じ。)1,370メートルの地点に達して左舷側の護岸を過ぎ、ようやく河口の南側を見渡せるようになったとき、針路を立標の内側に沿う228度に定め、機関を全速力前進にかけ22.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵によって進行した。
 定針したとき、A受審人は、左舷船首20度870メートルのところに、水路のわん曲部に向けて北上中の恵福丸の紅、緑2灯を視認し、白灯を認めなかったものの同船が北上してくることが分かる状況で、そのまま進行すると同わん曲部付近で行き会うことを知ったが、いつも全速力で同水路を航行しているので、無難に替わすことができるものと思い、機関を大幅に減じて安全な速力とすることなく、水路の右側に沿って続航した。
 A受審人は、18時35分わずか前水路のわん曲部に差し掛かり、依然として速力を減じることなく水路に沿うつもりで左転をしたところ、進路を水路の右側に維持できず、恵福丸の前路に進出し、18時35分沖之端灯標から083度880メートルの地点において、登栄丸は、115度に向首したとき、その船首が恵福丸の左舷船首部に前方から50度の角度で衝突し、そのままほぼ重なるように乗り上がって停止した。
 当時、天候は雨で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、恵福丸は、B受審人が1人で乗り組み、赤貝採取の目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日15時00分沖端漁港を発し、同時40分同漁港南方沖合2海里ばかりの地点に当たる海苔ひびの間の水路に至って操業を行い、赤貝70キログラムを獲て、18時00分筑後川沖灯標から北方300メートルの地点を発して帰途に就いた。
 B受審人は、両色灯のみを掲げ、海苔ひびの間を東行して河口に至る水路に入り、浅所を替わすよう右舷側の干潟との距離を測りながら水路を北上し、18時28分沖之端灯標から161度1,450メートルの地点において、針路を010度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの速力とし、舵柄を足で操作しながら水路を進行した。
 18時32分半B受審人は、沖之端灯標から119度700メートルの地点に至って水路のわん曲部に入り、050度に転針して続航し、しばらくして左転を開始して18時34分少し過ぎ沖之端灯標から097度890メートルの地点において、針路を水路に沿う345度としたとき、右舷船首42度600メートルに南下してくる登栄丸の紅灯と白灯を初めて視認し、左舷を対して航過するつもりで水路の右側に寄せて進行した。
 B受審人は、18時35分わずか前、それまで紅灯を見せていた登栄丸が、突然、紅緑両舷灯を見せるようになり、同船が転針して衝突のおそれがある態勢で急速に接近してくることが分かったものの、どうすることもできず、恵福丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、登栄丸は、右舷船首外板に破口及びプロペラ軸に曲損を、恵福丸は、左舷船首外板に破口及び右舷船首外板に亀裂をそれぞれ生じた。また、登栄丸の甲板員1人が腰部圧迫骨折の重傷を負った。

(航法の適用)
 本件衝突は、福岡県若津港内の沖端川河口付近の可航幅20メートルの水路において発生したものである。
 衝突地点が若津港内であることから、港則法の定めが優先するが、同法には本件に適用すべき航法規定が存在しないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することとなる。
 当該水路は、その形状や可航幅が20メートルであることから、予防法第9条に規定される狭い水道に該当する。
 しかしながら、両船の衝突までの10秒間足らずを見てみると、22ノットの速力で航行する登栄丸が水路のわん曲部に差し掛かり、水路に沿うつもりで左転をしたところ、進路を水路の右側に維持できず、恵福丸の前路に進出し衝突したもので、7ノットの速力の恵福丸は、登栄丸と無難に航過する態勢で航行中、登栄丸が転針して紅灯から両舷灯を見せるようになったときには、衝突を避けるための措置をとる時間的な余裕はなかったことになる。
 従って、本件は、予防法第9条の狭い水道の航法規定を適用せず、同法第38条及び第39条に規定する船員の常務を適用するのが相当である。
 また、同法第6条の安全な速力に関する規定は常に遵守されなければならない。

(本件発生に至る事由)
1 登栄丸
(1)A受審人が平素から水路のわん曲部を全速力で航行していたこと
(2)A受審人が水路のわん曲部で恵福丸と行き会うことを認めた際、全速力でも無難に替わすことができるとの認識を持ち、安全な速力で航行しなかったこと
(3)A受審人が水路のわん曲部に沿って過大な速力をもって転針し、右側の進路を保持できずに恵福丸の前路に進出したこと
2 その他
 衝突地点が可航幅20メートルのわん曲した水路付近であったこと

(原因の考察)
 本件は、A受審人が、沖端川河口の可航幅20メートルの水路を南下中、北上する恵福丸を視認し、水路のわん曲部付近で行き会うことを知った際、機関を大幅に減じて安全な速力とすることなく過大な速力のまま転針し、水路の右側に沿った進路を保持できないまま、恵福丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 従って、A受審人が、平素から水路のわん曲部を全速力で航行していたことから、同わん曲部付近で恵福丸と行き会うことを知った際、全速力でも無難に替わすことができるとの認識を持ち、安全な速力としなかったこと、さらに、過大な速力をもって転針したため、右側の進路を保持できずに恵福丸の前路に進出したことは本件発生の原因となる。
 衝突地点が可航幅20メートルのわん曲した水路付近であったことは、本件発生に関与した事実と認められるが、同水路を何度となく航行した経験を有するA受審人が、前路の恵福丸を認めた際、速力を落としさえすれば同船を十分無難に替わせたもので、本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。
 なお、両船がいずれも航行中の動力船が表示する正規の灯火設備をしないまま、夜間航行していたことについては、両船が互いに相手船の表示する両色灯の灯火によって事前にその態勢を判断していた点から、本件発生に至る事由とはしないが、海難防止の観点から是正されるべき事項である。 

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、福岡県沖端川河口において、両船が可航幅20メートルの水路のわん曲部に接近中、南下する登栄丸が、安全な速力とせず、過大な速力のまま針路を転じ、北上する恵福丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、福岡県沖端川河口において、可航幅20メートルの水路のわん曲部に高速力で接近中、北上する恵福丸を認めた場合、進路を水路の右側に維持できるよう、機関を大幅に減じて安全な速力とすべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつも全速力で同水路を航行しているので、無難に替わすことができるものと思い、安全な速力としなかった職務上の過失により、同わん曲部で転針した際、過大な速力により進路を水路の右側に維持できず、恵福丸の前路に進出して同船との衝突を招き、登栄丸の右舷船首外板に破口及びプロペラ軸に曲損を、恵福丸の左舷船首外板に破口及び右舷船首外板に亀裂をそれぞれ生じさせたうえ、登栄丸の甲板員1人に腰部圧迫骨折の重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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