(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月24日16時00分
長崎県長崎半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート鶴洋丸 |
モーターボート実里丸 |
総トン数 |
4.19トン |
0.6トン |
全長 |
11.50メートル |
6.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
91キロワット |
18キロワット |
3 事実の経過
鶴洋丸は、船体後部に船室と操舵室があって、レーダー及びGPSを備えた最大搭載人員10人のFRP製モーターボートで、A受審人(平成8年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、親戚や友人など釣り仲間6人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成16年3月24日05時30分長崎県為石漁港を発して沖合に向かい、06時30分長崎県樺島南方沖合約6海里の地点に到着して釣りを開始し、その後、東方に移動しながら釣りを行ったのち、15時00分樺島灯台から210度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点を発進し、帰途に就いた。
発進後、A受審人は、同乗者を船室と船尾甲板上でそれぞれ休息させ、自らは操舵室で操舵操船に当たり、折からの北西風と風浪を避けるために長崎半島の東岸寄りの海域を航行することにして樺島水道に向けて北上し、15時36分樺島港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から012度0.3海里の地点に達して樺島水道を出航したとき、針路を長崎半島の東岸に沿うよう051度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、手動操舵により同半島東方沖合を北上した。
ところで、鶴洋丸は、約10ノットの半速力前進で航行すると船首が浮上し、操舵室中央にある舵輪の後方に立って前方を見ると、船首方に各舷約4度にわたって死角を生じ、前方の見通しが妨げられる状況であった。
定針したのち、A受審人は、舵輪後方に立って操舵操船に当たり、15時47分為石漁港の南方約3海里に達したとき、陸岸近くに錨泊中の釣り船2隻を認めたものの、それまでに沖合の海域で他船を見掛けなかったので、前路には航行の支障となる他船はないものと思い、その後、作動中のレーダーによるとか、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行わないまま進行し、15時54分半南防波堤灯台から048.5度3.3海里の地点に達したとき、針路を為石漁港沖合に向く030度に転じて続航した。
転針したとき、A受審人は、正船首方1,700メートルのところに、左舷側を見せる態勢の実里丸を視認でき、その後、錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示していないものの、同船が錨泊していることが分かる状況であった。しかしながら、同人は、依然として前路には航行の支障となる他船はないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、実里丸が存在することも、衝突のおそれがある態勢で同船に接近していることにも気付かなかった。
こうして、A受審人は、実里丸を避けることなく続航中、突然衝撃を感じ、16時00分南防波堤灯台から044.5度4.1海里の地点において、鶴洋丸は、その船首が実里丸の左舷側後部に後方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
また、実里丸は、船尾端に船外機を備え、有効な音響による信号を行うことができる設備を有さない最大搭載人員5人のFRP製モーターボートで、B受審人(平成2年11月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日09時00分為石漁港を発し、同時10分同港南東方沖合に錨泊して釣りを行ったのち、15時00分前示衝突地点に移動して水深約30メートルの海中に錨を投じ、錨索を船首から約60メートル延出して錨泊し、錨泊中の船舶が掲げる形象物を備え付けていたもののこれを表示しないまま釣りを開始した。
15時54分半B受審人は、折からの北西風によって船首が315度を向いていたとき、左舷船尾75度1,700メートルのところに、自船に向首する態勢で接近する鶴洋丸を視認できる状況であった。しかしながら、同人は、そのころから入れ食い状態となったこともあって、船尾右舷側で右舷前方を向いて釣りをすることのみに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、鶴洋丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。
こうして、B受審人は、船外機を始動して前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらないで錨泊中、16時00分少し前船体中央部で左舷方を向いて釣りをしていた同乗者が「船が来る。」と告げたので左舷方を見たとき、左舷船尾75度約80メートルのところに自船に向首する態勢で接近してくる鶴洋丸を初認し、衝突の危険を感じて2人で立ち上がり両手を振って大声をあげたが、効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鶴洋丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、実里丸は左舷側後部外板に亀裂を生じ、2人とも衝突時の衝撃で海中に投げ出されたが、鶴洋丸に引き上げられたのち自船に移乗して自力で為石漁港に帰航し、のち損傷部は修理された。
(原因)
本件衝突は、長崎半島東方沖合において、釣り場から定係地に向け帰航中の鶴洋丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の実里丸を避けなかったことによって発生したが、実里丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、釣り場から定係地に向けて長崎半島東方沖合を北上する場合、船首方に死角を生じていたのだから、前路で錨泊中の実里丸を見落とさないよう、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路には航行の支障となる他船はないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の実里丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、実里丸の左舷側後部外板に亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎半島東方沖合において、錨泊して釣りを行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣りをすることのみに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する鶴洋丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。