日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第67号
件名

漁船第8宝勝丸漁船第三沖津丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第8宝勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第三沖津丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第8宝勝丸・・・左舷船首部船底外板に擦過傷
第三沖津丸・・・右舷中央前部外板に破口及び船首部魚倉に亀裂、B受審人が顔面打撲などで2週間の加療を要する負傷

原因
第8宝勝丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三沖津丸・・・見張り不十分、避航を促す音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第8宝勝丸が、見張り不十分で、漂泊中の第三沖津丸を避けなかったことによって発生したが、第三沖津丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、かつ、見張り不十分で、避航を促す音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月13日13時40分
 北九州市脇田漁港北北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第8宝勝丸 漁船第三沖津丸
総トン数 7.3トン 0.9トン
全長 16.10メートル  
登録長   7.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 47キロワット

3 事実の経過
 第8宝勝丸(以下「宝勝丸」という。)は、操舵室を船体中央部に設けたFRP製漁船で、平成2年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み、いか一本釣り漁を行う目的で、船首0.7メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成16年5月13日13時35分北九州市脇田漁港を発し、福岡県大島北北東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵室中央にある舵輪の後方に置かれたいすの上に立った姿勢で、天井開口部の上に設けた旋回窓付きの風雨密囲い(以下「天窓」という。)内から見張りを行って出航操船に当たり、13時37分少し前脇田港沖防波堤南灯台(以下「沖防波堤南灯台」という。)から079度(真方位、以下同じ。)60メートルの地点で、針路をイサキ碆のやや右方に向く000度とし、機関を回転数毎分1,300の半速力前進にかけ、12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵によって進行した。
 ところで、A受審人は、宝勝丸が半速力で航行するとき、いすに腰掛けた姿勢で見張りに当たると、船首浮上によって、船首方の両舷側にわたって約34度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じることから、平素、出入航操船を行うときや小型漁船などが存在する海域を航行するときは、いすの上に立った姿勢を取って天窓からの見張りで同死角を補っていた。
 13時38分半A受審人は、沖防波堤南灯台から004度630メートルの地点で、ゆっくりした左転でイサキ碆を替わしながら西進することとし、小舵角の左舵を取ったとき、左舷前方590メートルばかりのところに、船首を北北西方に向けた第三沖津丸(以下「沖津丸」という。)を視認できる状況であったが、予定針路方向を一瞥したのみであったことから同船を見落とし、同方向に小型漁船などはいないと思い、立った姿勢からいすに腰掛けた姿勢に切り替えて続航した。
 13時39分少し前A受審人は、沖防波堤南灯台から357.5度760メートルの地点に達し、針路を299度に定めたとき、正船首わずか左方440メートルのところに、船首を北北西方に向けた沖津丸を視認でき、その後同船が漂泊して東北東方に圧流されていることが分かり、その方位に明確な変化がなく互いに衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、前路に他船はいないと思い、いすの上に立って天窓から見張るなど、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、漂泊中の沖津丸を避けないまま続航中、13時40分沖防波堤南灯台から337度1,050メートルの地点において、宝勝丸は、原針路、原速力のまま、その船首が沖津丸の右舷中央前部に後方から39度の角度で衝突した。
 当時、天候は小雨で風力4の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、付近には微弱な東流があった。
 また、沖津丸は、全長約9メートルの推進装置として船内外機を備えた和船型のFRP製漁船で、船体後部に甲板上の高さ約60センチメートルの機関室囲いが、その後端左舷側天板上に操舵スタンドがそれぞれ設けられており、昭和50年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み、定置網の状況を確認する目的で、船首0.10メートル船尾0.25メートルの喫水、及びアウトドライブ下端から約0.70メートルの喫水をもって、平成16年5月13日12時25分脇田漁港を発し、同漁港北西方の漁場に向かった。
 B受審人は、発航するに当たって、沖津丸に有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかった。
 ところで、B受審人は、脇田漁港西方陸岸沖に、とびうお及びみずいかを漁獲対象とした小規模の定置網を2基設置しており、それぞれが陸岸側から沖側に向けて長さ約150メートルの道網を、その先端部を中心にして長さ約150メートルの側網(がわあみ)で円形に囲み、側網の内側に袋網を取り付け、網起こしのときは袋網のみを揚げて漁獲物を取り込んでいた。そして、同定置網の一方(以下「1号定置網」という。)の道網先端部を、沖防波堤南灯台から300度910メートルの地点、もう一方(以下「2号定置網」という。)のそれを、同灯台から309度1、120メートルの地点の、水深約5メートルのところにそれぞれ設置していた。
 B受審人は、当日の午前中、1号定置網の網起こしに出漁して、とびうおなどを漁獲した際、側網に一部損傷があるのを発見し、いったん帰港して昼食を取ったのち、2号定置網の状態を確認するために再度発航したもので、12時41分2号定置網の側網の南西部付近に至って機関を停止し、側網の外側に取り付き、同網に沿って反時計回りに網の状態確認を兼ねて流れ藻などごみの除去作業に取り掛かった。
 13時11分B受審人は、同側網の北北東部に至ったころ、南西の風が強まったことから、当日の作業を止めることとし、機関を微速力前進にかけて沖出ししたのち、同時12分沖防波堤南灯台から314度1,100メートルの地点に達し、船首を北北西方に向け、機関を停止して漂泊し、甲板上に取り込んでいた流れ藻などごみの投棄作業に取り掛かっていたところ、折からの風潮流の影響によって、063度方向に0.5ノットで圧流され始めた。
 13時35分B受審人は、沖防波堤南灯台から332度1,040メートルの地点まで圧流されたころ、同投棄作業を終え、船尾部左舷側に片膝立ちの姿勢で左舷側向きに座って海上を眺めながら、お茶や喫煙をしながら小休止を取っていたところ、同時39分少し前同灯台から336度1,050メートルの地点で、船首が338度を向いていたとき、右舷船尾41度440メートルのところに来航する宝勝丸を視認でき、その後その方位に明確な変化がなく互いに衝突のおそれがある態勢で接近したが、これまで脇田漁港から出漁する漁船の多くが沖合まで北上したのちに目的地に向けるのを見ていたことから、沿岸近くを陸岸沿いに航行する漁船などはいないものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 こうしてB受審人は、音響信号を備えていなかったので、宝勝丸に対して避航を促す音響信号を行わず、更に接近しても機関を始動して衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宝勝丸は左舷船首部船底外板に擦過傷を、沖津丸は右舷中央前部外板に破口及び船首部魚倉に亀裂を生じ、B受審人が顔面打撲などで2週間の加療を要する傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、北九州市脇田漁港北北西方沖合において、漁場に向けて西行中の宝勝丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の沖津丸を避けなかったことによって発生したが、沖津丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、かつ、見張り不十分で、避航を促す音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北九州市脇田漁港北北西方沖合において、漁場に向けて西行する場合、船首浮上により前方に死角を生じていたから、前路の他船を見落とさないよう、いすの上に立った姿勢で天窓から見張るなど、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転舵開始時に予定針路方向を一瞥して他船を認めなかったことから、前路に他船はいないと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、圧流されながら漂泊中の沖津丸に衝突のおそれある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、宝勝丸の左舷船首部船底外板に擦過傷を、沖津丸の右舷中央前部外板に破口及び船首部魚倉に亀裂を生じさせ、B受審人に顔面打撲などで2週間の加療を要する傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、北九州市脇田漁港北北西方沖合において、東北東方に圧流されながら漂泊する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで脇田漁港から出漁する漁船の多くが沖合まで北上したのちに目的地に向けるのを見ていたことから、沿岸近くを陸岸沿いに航行する漁船などはいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれある態勢で接近する宝勝丸に気付かず、音響信号不装備で避航を促す音響信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:27KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION