(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月19日04時50分
山口県角島西方沖合
(北緯34度24.6分 東経130度26.6分)
2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 |
漁船第二悠久丸 |
貨物船マサン パイオニア |
総トン数 |
85トン |
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国際総トン数 |
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996トン |
全長 |
42.35メートル |
66.79メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
669キロワット |
956キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第二悠久丸
第二悠久丸は、農林水産大臣から大中型まき網漁業の許可を受け、網船第三悠久丸、灯船第六十五悠久丸、運搬船第三十八悠久丸及び運搬船第八十八悠久丸と5隻で船団操業を行う1そうまきの同漁業に従事する灯船として、平成3年2月に長崎市のC社で進水した低船首楼型一層甲板の鋼製漁船で、船体中央部に甲板室が設けられ、同室船首寄りに前方から順に操舵室及び無線室のある船橋楼が、同室後部に食堂、調理場、浴室及び便所などが配置され、船橋頂部甲板の操舵室上部に櫓型マスト、無線室上部に鋼管製垂直マスト並びに甲板室後部に鋼材及び鋼管製の傾斜マストを有する構造で、同頂部甲板上に探照灯、汽笛が備えられ、操舵室内にARPA付きレーダー2台、GPSプロッタ、ジャイロコンパス及びその他航海計器並びに魚群探知機など漁撈用計器が多数装備されていた。
灯火の設備は、法定灯火のほかに、船橋頂部甲板周囲に1キロワットの水銀灯14個、甲板室周りに60ワットの外壁灯8個、船尾甲板に60ワットの作業灯2個及び傾斜マストに500ワットの投光器1個がそれぞれ設置されていた。また、垂直マストと傾斜マストの間にいか釣り集魚灯が複数設置されていた。
錨及び錨索の設備は、艤装数が382.03で、重量350キログラムの日本型錨が搭載され、同錨に長さ4メートルの錨鎖を介して直径42ミリメートル長さ500メートルの合成繊維索が錨索として接続されていた。また、船首左舷側にローラー付き錨格納台が設けられていた。
イ マサン パイオニア
マサン パイオニア(以下「マサン号」という。)は、1983年2月に大韓民国のD社で進水し、大韓民国、中華人民共和国及び本邦3国諸港間でベンゼン、トルエン、メタノール、ソタノール(石けん原料)等ケミカル原料の不定期輸送に従事する船尾船橋型の鋼製ケミカルタンカーで、船橋楼前端が船首端から距離50メートルのところにあり、船首楼後方に1番から7番までの貨物槽が左右にそれぞれ配置されていた。
航海船橋甲板は、満載喫水線からの高さが約8メートルで、同甲板上に船首尾方向の長さ約4メートル及び幅約6メートルの操舵室が設けられており、同室に操舵スタンド、エンジンテレグラフ、ARPA付きレーダー、音響測深機及びGPSプロッタを備え、前面に7枚のガラス窓があり、右舷側から3枚目の同窓には旋回窓が設けられていた。
主な旋回性能は、海上公試運転成績表によれば、舵中央から左舵一杯の舵角35度までの所要時間が10秒、左旋回の最大横距及び同縦距がそれぞれ218メートル及び225メートル並びに左旋回角度30度までの所要時間が27秒であった。
また、船橋当直者は、船長の指示が記載された夜間命令簿が操舵室に備えられ、各自その内容を確認後に署名することになっていた。同指示の内容は、航海ごとに多少異なっていたが、
1:航路上多数の漁船が操業していることが予想されるので、十分に距離を確保し、当直及び見張りを徹底すること
2:レーダー、汽笛等航海装備を積極的に活用すること
3:当直後に船内全体を巡察して異常の有無を確認すること
4:不安があるときは、いつでも船長に連絡のこと
5:夜間当直時には一切他の業務を禁止する
というものであった。
3 事実の経過
第二悠久丸は、E船長及びA受審人ほか4人が乗り組み、アジ、サバを漁獲対象とするまき網漁の目的で、船首2.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、まき網漁業船団の僚船4隻とともに、平成15年9月14日09時00分佐賀県名護屋漁港を発し、対馬方面の漁場に向かい、同夜から操業を開始した。
ところで、E船長は、網船に乗船する漁撈長の指揮の下に、魚群探索及び集魚のための灯船の運航業務に従事するとともに、悠久漁業生産組合の指示により、航海中に投錨して仮泊する際でも船橋当直体制を維持するために、乗組員に対して守錨当直に就くことを命じていた。
越えて同月19日03時30分第二悠久丸は、角島灯台から270度(真方位、以下同じ。)23.7海里の地点で当夜の操業を終え、漁撈長から大韓民国と関門海峡との間を航行する貨物船の航路を避けて錨泊する旨の指示を受け、北東方に約5海里移動することとして第三悠久丸及び第六十五悠久丸とともに同地点を発進し、同時55分同灯台から280度20.1海里の水深約120メートルの地点で、船首を南西方に向けて左舷錨を投じ、風と海潮流とに立たせて錨索を400メートル繰り出し、西方0.5海里のところに第六十五悠久丸が、北東方0.5海里のところに第三悠久丸がいずれも同時に投錨し、それぞれ翌日の操業に備えて仮泊を開始した。
投錨時にE船長は、法定の錨泊灯を僚船2隻と同様に表示したほかに、船橋頂部甲板周囲の水銀灯8個、甲板室周りの外壁灯8個、船尾甲板の作業灯2個及び傾斜マストの投光器1個を点灯し、前田受審人に対して交替で守錨当直に就くように命じた。
A受審人は、全員で食事をすることが自船の習慣になっている朝食の用意ができるまで最初の守錨当直に就くこととし、操舵室で日誌の整理を行いながら、レーダーの電源を切っていたので時々目視による周囲の見張りを行っていたところ、04時30分船首が西南西方に向いているとき、左舷正横方3.4海里のところに、北上中のマサン号が表示する白、白、紅、緑4灯を初めて双眼鏡により認めたが、自船も僚船2隻もそれぞれ法定灯火のほかに作業灯などを明るく点灯しているので、そのうちマサン号がこれに気付いて避けて行くものと思い、引き続き同船に対する動静監視を行わないまま、朝食の用意ができるのを待ちながら、日誌の整理を続けた。
04時40分A受審人は、朝食の用意ができた旨の連絡を受け、船首が240度に向いていたとき、左舷正横1.7海里のところに、マサン号を視認でき、その後、同船の方位に変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、朝食を摂るために降橋して船橋を無人とし、守錨当直を維持することなく、この状況に気付かず、同船に対して避航を促すための注意喚起信号を行うことができないまま錨泊中、04時50分角島灯台から280度20.1海里の地点において、第二悠久丸は、船首が240度に向いているとき、その左舷船首に、マサン号の右舷船尾が、後方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視界は良好で、衝突地点付近には微弱な北東向きの海潮流があった。
E船長及びA受審人は、衝撃を受けると同時に船体が右舷側に傾いたことで衝突されたことを知り、食堂から飛び出して事後の措置に当たった。
また、マサン号は、B指定海難関係人ほかいずれも大韓民国の国籍を有する10人が乗り組み、医療用麻酔薬原料のパラキシレン1,000.334トンを積み、船首3.0メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、同月18日15時40分愛媛県松山港を発し、大韓民国蔚山港(うるさんこう)に向かった。
ところで、マサン号のF船長は、船橋当直体制を、00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士に、04時から08時まで及び16時から20時までをB指定海難関係人にそれぞれ受け持たせ、08時から12時まで及び20時から24時までを自らが受け持ち、各直に甲板部員1人を配する2人1組の4時間3直制とし、入出港時、視界制限時、狭水道通航時のほか必要に応じて自ら昇橋して操船指揮を執っていた。
発航より先、B指定海難関係人は、同月17日16時00分蔚山港を出港して松山港に向かい、翌18日08時20分同港に入港し、積荷役を行って発航に至ったもので、この間、蔚山港の出港配置に引き続き20時まで当直に就き、20時から21時までタンククリーニング作業を行い、22時ころから翌日03時45分まで自室で休息したのちに昇橋して当直に就き、これに引き続いて松山港の入港配置に就き、11時20分から15時40分までの間、同港での積荷役に立ち会い、同荷役終了後直ちに発航し、その出港配置に引き続き20時まで当直に就いていた。このことから、同指定海難関係人は、船橋当直と荷役作業の連続した業務遂行のために入港中に休息をとることができず、疲労が蓄積している状態であった。また、同月18日の夕食時に、同指定海難関係人と相直のG甲板部員から業務多忙で疲労しているとの申し出を受けた際、同部員には蔚山港での荷揚げ前に荷役装置の点検整備を命じていたこともあって、自らの判断でF船長に報告しないまま、翌19日04時からの当直に就かなくてよい旨を指示していた。
こうして、B指定海難関係人は、5時間ほどの睡眠をとったのち、同19日03時45分当直交替のために昇橋し、04時00分角島灯台から257.5度14.8海里の地点で、二等航海士から当直を引き継ぎ、G甲板部員に休息を与えていたことから単独の当直に就き、前直が02時00分に角島灯台から185度19.2海里の地点で定めた針路320度をそのまま針路として定め、機関を全速力前進が回転数毎分370のところ310にかけ、折からの風と海潮流とによって右方に1度圧流されながら、10.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵によって進行した。
04時20分B指定海難関係人は、角島灯台から268度16.6海里の地点に差し掛かったとき、正船首方に光芒を認め、6海里レンジとしたレーダーで確認したところ、船首輝線上5.2海里のところとその左右10度の間に、約0.5海里間隔で3隻の映像を探知し、引き続きレーダー監視を行ったところ、3隻ともレーダーの航跡表示機能による残像が表示されないことから停止していることを知り、前路に明るい作業灯を点灯して停止している船舶を認めた際に、同船が漁ろうに従事しているか、漂泊あるいは錨泊しているものと推認できる状況であったが、これら3隻が操業中のいか釣り漁船かもしれないと想像し、もう少し近づいて何をする船か確認してから避航すればよいと思い、できる限り、早期に、大幅に、かつ、ためらわずに、これと著しく接近することを避けるための動作をとることをせずに、同じ針路、速力のまま続航した。
04時30分B指定海難関係人は、角島灯台から272.5度17.7海里の地点に至ったとき、正船首方3.4海里のところに第二悠久丸の明かりを認めるようになり、このまま進行すると、同船に著しく接近する状況になっていたが、単独の当直で会話もない静穏な環境が続いていたうえに、疲労が蓄積していたことから眠気を催したが、眠気を払えば居眠りをすることはあるまいと思い、夜間命令簿に記載されている指示に従って船長に連絡するなり、二等航海士に連絡して昇橋を仰ぐなり、G甲板部員を復帰させて2人で当直を行うなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、眠気を払うために風下側の扉を開放し、前方がよく見える旋回窓の後ろに立ち、両肘を窓枠について腕を組み、レーダー監視を行わずに前方を見ているうちに、いつしか浅い居眠りに陥った。
04時40分B指定海難関係人は、角島灯台から276.5度18.8海里の地点に達したとき、正船首わずか右1.7海里のところに、白1灯のほかに作業灯などを明るく点灯している第二悠久丸を視認でき、その後、同船の方位に変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、同船を避けないまま、同じ針路、速力で進行した。
04時49分半わずか過ぎB指定海難関係人は、ふと目覚めて右舷船首至近に第二悠久丸の明かりを再び認め、衝突の危険を感じて急いで左舵一杯としたが、及ばず、マサン号は、キックにより船尾が右方に振り出して船首が290度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第二悠久丸は左舷船首ブルワークに亀裂を伴う凹損を、マサン号は右舷船尾ハンドレール等に曲損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は、夜間、山口県角島西方沖合において、蔚山港に向けて航行中のマサン号と、操業を終えて錨泊中の第二悠久丸とが衝突したものであり、同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから、一般法である海上衝突予防法によって律することとなるが、同法には、錨泊船と航行船との関係について個別に規定した条文はないから、同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 第二悠久丸
(1)衝突時に守錨当直者が船橋を無人にして同当直を維持しなかったこと
(2)A受審人がマサン号の白、白、紅、緑4灯を認めたものの、その後の動静監視が不十分であったこと
(3)A受審人が注意喚起信号を行わなかったこと
2 マサン号
(1)B指定海難関係人が前路に第二悠久丸の光芒を認め、レーダーで同船が停止していることを確認したものの、同船を避けずに進行したこと
(2)B指定海難関係人が眠気を催した際、居眠り運航の防止措置が不十分であったこと
(原因の考察)
第二悠久丸は、事実認定のとおり、操業を終えて錨泊中であったが、日韓両国間の航路に近い海域で錨泊する際には、会社の方針に従って錨泊中といえども、船橋当直体制を維持して守錨当直を行っていた。また、同船では、全員で食事を摂る習慣になっていた。
第二悠久丸の守錨当直者は、衝突のおそれのある態勢で接近する他船に気付けば、船長に報告するなり、避航を促すための注意喚起信号を行うなり、何らかの行動をとったものと思われる。ところが、本件においては、衝突10分前に朝食の用意ができたとの連絡を受けた同当直者が食堂に降りて食事を始め、船橋を無人にして守錨当直を維持しなかったために、衝突のおそれのある態勢で接近するマサン号に対する動静監視を行うことも、注意喚起信号を行うこともできなかったものと認められる。また、B指定海難関係人に対する質問調書中、「相手船が、接近する自船に気付いて汽笛を鳴らしてくれれば、ウツラウツラしている状態だったので汽笛に気付いて目を覚まし、相手船を避けたと思う。」旨の供述記載により、第二悠久丸が汽笛を吹鳴していれば、同指定海難関係人が目を覚まして避航動作をとったことが推認される。
したがって、A受審人が、船橋を無人として守錨当直を維持しなかったこと及び避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
A受審人が、衝突20分前にマサン号が表示する白、白、紅、緑4灯を初認したのち、食事を摂るために降橋するまでの間、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生に至る過程において関与した事実であるが、同人が船橋を無人にして10分後に衝突が発生しており、この10分間に同船に対する動静監視が行われていれば、避航を促すための注意喚起信号を行うことができたものと思われることから、本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、衝突のおそれが発生する以前のことであっても、他船を初認後の動静監視を十分に行うことは必要なことであり、A受審人がマサン号を初認後、引き続き同船に対する動静監視を行わなかったことは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。
一方、マサン号は、錨泊船に対して操縦性能が勝る航行中の船舶であるから、錨泊して同性能が制限された第二悠久丸を避けなければならなかった。ところが、マサン号の船橋当直者が、もう少し近づいて何をする船か確認してから避航すればよいと思い、第二悠久丸に著しく接近する態勢のまま進行しているうちに眠気を催したものの、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航中に居眠りに陥り、錨泊中の同船を避けずに進行して衝突したものと認められる。
したがって、B指定海難関係人が、眠気を催した際に居眠り運航の防止措置が十分でなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人が、衝突の30分前に前方に光芒を認めてレーダーで第二悠久丸ほか2隻の映像を探知し、レーダーの航跡表示機能による残像が表示されないことから停止していることが分かった時点で、第二悠久丸が漁ろうに従事しているか、漂泊あるいは錨泊しているものと推認し、できる限り、早期に、大幅に、かつ、ためらわずに、同船と著しく接近することを避けるための動作をとることが可能であったものと認められるが、このことは、同指定海難関係人が、居眠り運航の防止措置を十分にとっていれば、同船を避けるための動作をとることができたと思われることから、本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、前路に明るい作業灯を点灯して停止している船舶を認めた際には、同船が漁ろうに従事しているか、漂泊あるいは錨泊しているものと推認するべきであり、B指定海難関係人が、第二悠久丸が停止していることが分かった時点で、同船と著しく接近することを避けるための動作をとらなかったことは、海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(主張に対する判断)
B指定海難関係人は、衝突30分前に左方に10度転針した旨主張するので、これについて検討する。
B指定海難関係人は、同人に対する質問調書中、「04時20分前方に光芒を認め、6海里レンジとしたレーダーで確認して正船首及び右舷船首各5.2海里に3隻の映像を探知し、1隻は船首輝線上、他の2隻はその右方に見え、レーダーの航跡表示機能で3隻とも残像の表示がないことから停止していることが分かり、いか釣り漁船が操業中と判断し、船首から左方に他船がいなかったので、右舷方に0.8海里離して航過するつもりで自動操舵のまま10度左転して310度に転針した。」旨の供述記載があるが、A受審人に対する質問調書中、「衝突の約20分前に船首が南西方に向いているとき左舷ほぼ正横約3海里のところに相手船の両舷灯を認めた。」旨の供述記載、マサン号の使用海図写中に記載の02時00分、04時00分及び04時50分の各地点を結ぶ方位線が直線になっていること、衝突地点が七管区海洋速報2003年第37号写中の想定流線から外れた微弱な北東流の海域にあること及び福岡管区気象台の気象資料から、これら各証拠を総合勘案すれば、10度左転したのちに衝突までの30分間で風と海潮流とによって衝突地点まで圧流されたとは認め難い。
よって、衝突の30分前に、左方に10度転針した旨のB指定海難関係人の主張は認められない。
(海難の原因)
本件衝突は、夜間、山口県角島西方沖合において、蔚山港に向けて北上中のマサン号が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の第二悠久丸を避けなかったことによって発生したが、第二悠久丸が、船橋を無人として守錨当直を維持せず、避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、山口県角島西方沖合において、翌日の操業に備えて仮泊中、守錨当直に就く場合、航行中の他船が衝突のおそれのある態勢で接近するかどうかを判断するための動静監視を十分に行うことができるよう、守錨当直を維持するべき注意義務があった。ところが、同人は、同当直中にマサン号が表示した白、白、紅、緑4灯を認めた際、自船が法定灯火のほかに作業灯などを明るく点灯しているので、そのうちマサン号がこれに気付いて避けて行くものと思い、朝食の用意ができた旨の連絡を受けて降橋し、船橋を無人にして守錨当直を維持しなかった職務上の過失により、マサン号が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、避航を促すための注意喚起信号を行うことができないまま錨泊を続けて同船との衝突を招き、第二悠久丸の左舷船首ブルワークに亀裂を伴う凹損を、マサン号の右舷船尾ハンドレール等に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、山口県角島西方沖合において、前路に第二悠久丸の光芒を認めて続航中、眠気を催した際、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しないが、航行中に、眠気を催した際には、夜間命令簿に記載されている指示に従って船長に連絡するなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるように努めなければならない。また、前路に明るい作業灯を点灯して停止している船舶を認めた際には、同船が漁ろうに従事しているか、漂泊あるいは錨泊しているものと推認し、できる限り、早期に、大幅に、かつ、ためらわずに、同船と著しく接近することを避けるための動作をとるように努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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