(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月28日09時00分
備後灘六島北方沖合
(北緯34度19.7分 東経133度32.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船まや丸 |
モーターボート八杉丸 |
総トン数 |
4.85トン |
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登録長 |
9.50メートル |
7.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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80キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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(2)設備及び性能等
ア まや丸
(ア)船体構造等
まや丸は、昭和53年12月に進水した一層甲板型のエビこぎ網漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央部に操舵室を配置し、同室内と同室の右舷後部に舵輪及び船尾甲板に引索用リールを備え、モーターホーンを装備していた。
(イ)速力
航海全速力は、機関回転数毎分2,900の約9ノットで、引網中の速力は、機関回転数毎分2,300の2.2ノットであった。
(ウ)操業模様
エビこぎ網漁業は、ワイヤーロープを約150メートル延出して幅約2.5メートル長さ約5メートルの網を引く漁法で、投網に2分、引網に30分及び揚網に3分を要するものであった。
(エ)操舵位置からの見通し状況
A受審人は、操舵室右舷後部の舵輪後方で操舵に当たるときには立って行うので、眼高は操舵室の天井よりも高くなり、周囲の見張りに妨げとなるものはなかった。
イ 八杉丸
(ア)船体構造等
八杉丸は、平成6年8月に進水した一層甲板型のFRP製モーターボートで、船体やや後部の機関室上方に操舵室を配置し、同室にGPSプロッター及び魚群探知機を、同室後部に舵輪を備えていた。
(イ)操舵位置からの見通し状況
B受審人は、操舵室後部の舵輪後方に立って操舵に当たっており、眼高は操舵室の天井よりも高いので、周囲の見張りに妨げとなるものはなかった。
3 事実の経過
まや丸は、A受審人が息子1人と乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成16年1月28日06時30分岡山県笠岡市金風呂漁港を発し、六島北方漁場において操業を繰り返した。
08時48分A受審人は、トロールにより漁ろうに従事していることを示す黒色鼓型の形象物を表示し、六島灯台から020度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、針路を243度に定め、機関を回転数毎分2,300にかけて2.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、息子を魚の選別作業に当たらせ、自ら操舵室右舷後部の舵輪後方に立って手動操舵に当たりながら4回目の引網を開始した。
08時58分A受審人は、六島灯台から013度2.0海里の地点に達したとき、右舷正横前7度700メートルのところに南下する八杉丸を初めて認め、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近し、八杉丸に自船の進路を避ける気配が認められなかったが、何か自船に用事があって接近して来るものと思い、警告信号を行うことも、更に間近に接近しても右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
09時00分少し前A受審人は、同じ速力で右舷至近に八杉丸が迫ったので、衝突の危険を感じて大声を出したが効なく、09時00分六島灯台から011度1.9海里の地点において、まや丸は、原針路、原速力のまま、その右舷中央部に八杉丸の船首が後方から86度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
また、八杉丸は、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日08時00分岡山県笠岡港を発し、白石島と北木島との間を経由して六島大鳥鼻沖合の釣り場に向かった。
08時46分B受審人は、操舵室後部の舵輪後方に立って操舵に当たり、金風呂港東防波堤灯台から203度1.1海里の地点で、針路を157度に定め、機関を回転数毎分2700にかけて12.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
08時57分B受審人は、機関音が変化したことに気付いたので、舵輪下方にある引き戸を開けて機関室を見たところ、同室の床に燃料油が漏れているのを認め、右手で舵輪を持って体をかがめて漏油箇所を捜し始めた。
08時58分B受審人は、六島灯台から006度2.2海里の地点に達したとき、左舷船首11度700メートルのところに、法定の形象物を表示してトロールにより漁ろうに従事しているまや丸が存在し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、体をかがめて機関室の漏油箇所を捜すことに気をとられ、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、右転するなどしてまや丸の進路を避けないまま続航した。
09時00分少し前B受審人は、ふと顔を上げたとき、船首至近にまや丸を初めて視認し、急いで機関を中立としたが効なく、八杉丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、まや丸は、右舷中央部外板及び操舵室囲壁に亀裂などを生じ、八杉丸は、船首船底部に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理され、また、B受審人が胸部打撲などを負った。
(航法の適用)
本件は、備後灘六島北方沖合において、トロールにより漁ろうに従事していることを示す黒色鼓型の形象物を表示して引網中のまや丸と、航行中の八杉丸が衝突したものであるので、海上衝突予防法第18条を適用することとなる。
(本件発生に至る事由)
1 まや丸
(1)A受審人が、警告信号を行わなかったこと
(2)A受審人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 八杉丸
(1)B受審人が、機関室の漏油箇所を捜して見張りを十分に行わなかったこと
(2)B受審人が、まや丸の進路を避けなかったこと
(原因の考察)
事実認定のとおり、まや丸は法定の形象物を表示してトロールにより漁ろうに従事中であり、八杉丸は航行中であった。
八杉丸は、海上衝突予防法第18条により、避航船の立場にあったから、右転するなどしてまや丸の進路を避けなければならなかった。見張りを十分行っていれば、衝突2分前には左舷船首11度700メートルのところに、法定の形象物を表示してトロールにより漁ろうに従事中の同船を視認することができ、その後その動静監視を十分に行っておれば、衝突のおそれがある態勢で接近する状況を把握できるので、余裕のある時期に右転するなどしてまや丸の進路を避けることが可能であった。また、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかった。
したがって、B受審人が、機関室の漏油箇所を捜すことに気をとられて見張りを十分に行わず、まや丸の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
一方、まや丸は、海上衝突予防法第18条により、保持船の立場にあったから、自船の進路を避けないまま接近する八杉丸に対して警告信号を行い、更に間近に接近したときには、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。
したがって、A受審人が、八杉丸が自船の進路を避けないまま間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は、備後灘六島北方沖合において、南下中の八杉丸が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事しているまや丸の進路を避けなかったことによって発生したが、まや丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、備後灘六島北方沖合において、単独で手動操舵に当たって南下する場合、前路で漁ろうに従事しているまや丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、体をかがめて機関室の漏油箇所を捜すことに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、法定の形象物を表示して漁ろうに従事しながら衝突のおそれがある態勢で接近するまや丸に気付かず、右転するなどしてその進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、まや丸の右舷中央部外板及び操舵室囲壁に亀裂などを生じさせ、八杉丸の船首船底部に擦過傷を生じさせ、また、自身が胸部打撲などを負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、備後灘六島北方沖合において、トロールにより漁ろうに従事中、南下する八杉丸が衝突のおそれがある態勢で、自船の進路を避ける気配がないまま間近に接近した場合、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が何か自船に用事があって接近して来るものと思い、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、八杉丸との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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