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平成16年広審第73号
件名

漁船第十二清幸丸漁船中屋敷丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第十二清幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:中屋敷丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
十二清幸丸・・・船首船底外板に擦過傷
中屋敷丸・・・左舷外板及び甲板などに亀裂、のち廃船処理、船長が左肺挫傷、左肋骨骨折及び左腎破裂の負傷

原因
十二清幸丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
中屋敷丸・・・避航を促す音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第十二清幸丸が、見張り不十分で、漂泊中の中屋敷丸を避けなかったことによって発生したが、中屋敷丸が、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月31日13時30分
 島根県地合漁港(ちごうぎょこう)北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十二清幸丸 漁船中屋敷丸
総トン数 4.80トン 1.02トン
全長 16.5メートル  
登録長   5.1メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70 30

3 事実の経過
 第十二清幸丸(以下「清幸丸」という。)は、一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和51年6月一級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成16年1月31日08時00分島根県恵曇港(えともこう)の係留地を発し、島根県長尾鼻西方沖合3海里ばかりのところにある漁場に向かった。
 A受審人は、09時00分ごろ前示漁場に至って操業を開始したものの、漁模様が悪いので操業を打ち切ることとし、12時00分同漁場を発進して、恵曇港への帰途に就いた。
 A受審人は、操舵室中央にある舵輪の後方に立った姿勢で操船にあたり、操舵室の左舷前部角に設置した魚群探知機を作動させ、魚群を探索しながら北東進と南東進とを繰り返して東行し、一本釣り漁の操業海域にあたる地合漁港北方沖合2海里ばかりのところに達したとき、船首方に旗をマストに掲げ漂泊して一本釣り漁操業中の小型漁船を見掛けたので左転して同漁船を右舷側に替わしたのち、13時25分半出雲長尾ケ鼻灯台から042度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点で、針路をGPSプロッタに記憶させてある魚礁に向けて089度に定め、機関を全速力前進よりやや減じた回転数毎分1,500にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首方1,110メートルのところに中屋敷丸を視認することができ、ほとんど移動しないことから漂泊中と分かり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、魚礁が近いので魚群探知機に目を移し、魚影があれば再び操業しようとその画面を見ることに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、中屋敷丸に気付かず、同船を避けないまま続航中、13時30分出雲長尾ケ鼻灯台から049度3.4海里の地点において、清幸丸は、原針路原速力のまま、その船首が中屋敷丸の左舷中央部に後方から44度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で弱い北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、中屋敷丸は、船外機を装備したFRP製漁船で、B受審人(昭和51年6月二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)が単独で乗り組み、義弟1人を乗せ、趣味の一本釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日10時00分島根県地合漁港の係留地を発し、同港北方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、10時10分釣り場に至って釣りを行ったのち、12時00分前示衝突地点付近の釣り場に移動し、機関を停止して船首からパラシュートアンカーを投入し、長さ約50メートル直径12ミリメートルのロープの一端を同アンカーに連結して延出し、同ロープの他端を船首部両舷に差し渡すように取り付けたつわりと称する角材に結び、つわりに取り付けた高さ約2メートルのマスト頂部に新品で一辺60センチメートルの正方形をした赤旗を掲げ、船首部に置いたクーラーボックスに腰掛けて後方を向き、義弟は船尾に置いた同ボックスに腰掛けて前方を向き、漂泊して釣りを再開した。
 B受審人は、時折山立てして釣りポイントからあまり移動していないことを確かめながら釣りを続け、13時25分半前示衝突地点で、折からの弱い北東風により船首を045度に向けていたとき、左舷船尾44度1,110メートルのところに清幸丸を初めて視認し、その後同船が自船に向首し避航の気配のないまま接近するのを認めたが、赤旗をマストに掲げて漂泊しているので、そのうちに清幸丸が自船を避けてくれるものと思い、同船に対し所持していた笛を吹くなどして避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、さらに接近したとき機関を使って移動するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
 13時29分少し過ぎB受審人は、自船に向首したまま引き続き接近する清幸丸に衝突の危険を感じ、義弟と一緒に立ち上がって大声で叫ぶとともに手を振って合図し、ナイフでパラシュートアンカーのロープを切ろうとしたとき、中屋敷丸は、045度に向首して、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、清幸丸は、船首船底外板に擦過傷を生じただけであったが、中屋敷丸は、左舷外板及び甲板などに亀裂を生じて、のち廃船処理された。またB受審人が左肺挫傷、左多発性肋骨骨折及び左腎破裂を負った。 

(原因)
 本件衝突は、島根県地合漁港北方沖合において、清幸丸が、操業を打ち切り恵曇港に向けて帰航する際、見張り不十分で、前路で漂泊中の中屋敷丸を避けなかったことによって発生したが、中屋敷丸が、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、島根県地合漁港北方沖合において、漁模様が悪くて操業を打ち切り恵曇港に向けて帰航する場合、同沖合は一本釣り漁の操業海域にあたり、旗をマストに掲げ漂泊して同漁操業中の小型漁船を見掛けていたのだから、同様の中屋敷丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、魚群探知機に魚影があれば再び操業しようとその画面を見ることに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、中屋敷丸に気付かず、漂泊中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、清幸丸の船首船底外板に擦過傷を、中屋敷丸の左舷外板及び甲板などに亀裂をそれぞれ生じさせ、またB受審人に左肺挫傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、島根県地合漁港北方沖合において、パラシュートアンカーを投入して釣りをしながら漂泊中、清幸丸が避航の気配のないままさらに接近した場合、機関を使って移動するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、赤旗をマストに掲げて漂泊しているので、そのうちに清幸丸が自船を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま釣りを続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、また自身も負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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