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平成16年広審第48号
件名

漁船正照丸貨物船シェン ダ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一、黒田 均、道前洋志)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:正照丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
正照丸・・・船首部を圧壊してバルバスバウを欠損
シェン ダ・・・右舷中央部外板に凹損及び同後部外板に擦過傷等

原因
シェン ダ・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
正照丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、シェン ダが、前路を左方に横切る正照丸の進路を避けなかったことによって発生したが、正照丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月6日03時45分
 隠岐海峡
(北緯35度39.2分 東経133度19.2分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船正照丸 貨物船シェン ダ
総トン数 4.9トン 4,914トン
全長 12.60メートル 122.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   4,413キロワット
漁船法馬力数 25  
(2)設備及び性能等
ア 正照丸
 正照丸は、昭和57年10月に岡山県邑久郡牛窓町で進水した小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央部に操舵室及び機関室を、その後方の甲板上にネットローラー及びやぐらをそれぞれ備え、操舵室上には前部の左右両舷端に各舷灯が、同中央部のマストには前部にマスト灯及び後部に船尾灯が、同右舷寄りのマストには上から順に緑色及び白色の各全周灯が、同室前方の機関室囲壁前面左右両舷端に40ワットの傘なし作業灯が、ネットローラーの上部及びやぐらに100ワットの傘付き作業灯がそれぞれ設置されていた。また、全長が12メートルを超える船舶であったので汽笛を備える必要があったが、備えていなかった。
 操舵室は、前面の左舷側に機関制御盤が、その右側にカラービデオ測深儀とGPSプロッタが、その上方に操舵切替え装置が、下方にレーダーが、また、同室後部にある出入口の外部右舷側に操舵輪が、同左舷側に機関のスロットルレバーがそれぞれ設置されていた。
 航海速力は、機関回転数を毎分2,800として約10ノットであった。
イ シェン ダ
 シェン ダ(以下「シ号」という。)は、昭和50年に三重県四日市市で建造された船尾船橋型のコンテナ船で、船橋前方には第1から第4までのコンテナ船倉を有し、ハッチカバー上にはコンテナを3段積むようになっており、中華人民共和国の丹東、大連及び青島の各港と福井県敦賀、新潟県直江津及び京都府舞鶴の各港間に定期的に就航していた。
 操舵室は、前壁中央にジャイロコンパスのレピーターとその右側に信号灯スイッチが、同壁際の右舷寄りには航海コンソールが、前壁から1メートル後方の中央部にジャイロ組込型操舵スタンドが、その左右両側のいずれも1.5メートル離れたところに衝突予防装置付きのレーダー各1台がそれぞれ設置されていた。
 航海速力は、機関回転数を毎分150として約12ノットで、海上公試運転成績表及び確定速力計算書抜粋各写によれば、機関回転数毎分201で行った旋回試験による旋回径は、右旋回が502メートル、左旋回が421メートルとなり、最短停止距離は1,450メートルで、船体停止まで4分25秒を要した。

3 事実の経過
 正照丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年6月5日06時15分境港を発し、同港北方沖合15海里付近の、隠岐海峡中央部の漁場に向かい、同漁場で僚船10隻ばかりとともに操業を行ったのち、翌6日02時55分美保関灯台から354度(真方位、以下同じ。)12.9海里の地点を発進して僚船とともに帰途についた。
 発進したときA受審人は、GPSプロッタを見て船位を確認し、針路を島根半島東端の地蔵埼東方沖合に向く172度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.4ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操業中に表示していた両舷灯、船尾灯及びトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑色及び白色各全周灯を引き続きそのままにして進行した。
 A受審人は、レーダーを1.5海里と0.75海里の各レンジに切り替えるなどして数分間操舵室で見張りにあたったのち、最後の操業を終えたときから船尾甲板に放置していた漁獲物の選別や箱詰めなどの整理作業を行うこととし、機関室囲壁前面の作業灯2個、やぐら及びネットローラ上部の作業灯3個をそれぞれ点け、船尾甲板と漁獲物を入れた箱を並べる船首甲板とを行き来しながら同作業を始めた。
 03時41分A受審人は、美保関灯台から357度5.7海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首51度1.0海里のところにシ号を認めることができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁獲物の整理作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、汽笛不装備で警告信号を行うことなく、僚船のうちの2隻とほぼ横一線に並んで続航した。
 A受審人は、間もなく並んで航行していた僚船2隻が左転したものの、同じ針路速力で進行し、シ号とさらに接近したとき、機関を使用して行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく、03時45分美保関灯台から357度5.1海里の地点において、正照丸は、原針路原速力のまま、その船首が、シ号の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、シ号は、船長B及び二等航海士Cほか22人が乗り組み、コンテナ貨物678.3トンを載せ、船首2.8メートル船尾5.8メートルの喫水をもって、同月5日16時30分京都府舞鶴港を発し、中華人民共和国丹東港に向かった。
 C二等航海士は、翌6日01時00分鳥取県長尾鼻北方沖合に至ったころ、航行中の動力船の灯火を表示していることを確認したのち甲板手1人とともに船橋当直に就き、レーダーを利用するなどして見張りにあたり、日本海を隠岐海峡に向け西行し、03時00分美保関灯台から054度10.5海里の地点に達したとき、針路を263度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.8ノットの速力で進行した。
 03時33分少し過ぎC二等航海士は、右舷船首方3海里付近に正照丸及び僚船2隻の作業灯を初めて視認し、その状況から3隻が小型漁船であることを知り、動静に留意して続航した。
 C二等航海士は、03時41分美保関灯台から006度5.2海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首38度1.0海里のところに正照丸の左舷灯と緑、白2灯を視認したものの、速力が速いことから曳網中でなく、自船の前路を左方に横切る態勢で航行中であることが分かり、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、甲板手に命じて手動操舵に切り替え避航の準備を行ったが、間もなく僚船2隻が左転して自船を避けたことから、正照丸も左転するなどして自船を避けることを期待し、速やかに右転するなど、正照丸の進路を避けることなく進行した。
 03時45分わずか前C二等航海士は、正照丸が右舷船首至近に迫って甲板手に左舵一杯を命じたものの及ばず、シ号は、252度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、正照丸は、船首部を圧壊してバルバスバウを欠損し、シ号は、右舷中央部外板に凹損及び擦過傷並びに同後部外板に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、境港北方沖合の隠岐海峡において、操業を終え同港に向けて南下中の正照丸と西行中のシ号とが衝突したもので、正照丸がトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑色及び白色各全周灯を表示したまま航行していたが、同船の速力が速かったことから漁ろうに従事していないことが明白に判断できたので、海上衝突予防法第15条によって律することとなる。

(本件発生に至る事由)
1 正照丸
(1)A受審人が、漁獲物の選別や箱詰めなどの整理作業に専念していたこと
(2)A受審人が、周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(3)A受審人が、汽笛不装備で警告信号を行わなかったこと
(4)A受審人が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 シ号
(1)C二等航海士が、正照丸とほぼ横一線になって接近する他の2隻の漁船が左転して自船を避けたので、正照丸も左転するなどして自船を避けるものと期待したこと
(2)C二等航海士が、正照丸の進路を避けなかったこと

(原因の考察)
 正照丸は、操業を終え漁場から境港に向かって南下中であり、一方シ号は中華人民共和国丹東港に向かって西行中であった。
 海上衝突予防法第15条により、シ号は、避航船の立場であったから、速やかに右転するなどして正照丸の進路を避けなければならなかった。シ号は、正照丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めていたことから、十分余裕のある時期に同船の進路を避けることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、シ号の二等航海士が、正照丸とほぼ横一線になって南下する他の2隻の漁船が左転して自船を避けたので、正照丸も左転するなどして自船を避けることを期待し、正照丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
 一方正照丸は、保持船の立場であったから、シ号に対して警告信号を行い、さらに接近して避航船の動作のみでは衝突を避けることができないと認めたときには、衝突を避けるための協力動作をとらなければならなかった。正照丸が見張りを十分行っていれば、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するシ号を認めることができ、同船の動静を把握したうえ、シ号に対し警告信号を行い、避航の気配を見せないでさらに接近した際には衝突を避けるための協力動作をとることが可能であり、その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって、正照丸の船長が、漁獲物の選別や箱詰めなどの整理作業に専念したこと、周囲の見張りを十分に行わなかったこと、汽笛不装備で警告信号を行わなかったこと、及び衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。 

(海難の原因)
 本件衝突は、夜間、境港北方沖合の隠岐海峡において、正照丸及びシ号の両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西行するシ号が、前路を左方に横切る正照丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する正照丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、境港北方沖合の隠岐海峡において、操業を終え漁場から同港に向けて南下する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、漁獲物の選別及び箱詰めなどの整理作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するシ号に気付かず、警告信号を行うことも、さらに接近したとき、機関を使用して行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、正照丸の船首部に圧壊及びバルバスバウに欠損を、シ号の右舷中央部外板に凹損及び擦過傷並びに同後部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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