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平成15年広審第107号
件名

プレジャーボート慎太郎プレジャーボートクール衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均、米原健一、佐野映一)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:慎太郎船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:クール船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
B
D

損害
慎太郎・・・左舷側外板に擦過傷
クール・・・左舷側外板に擦過傷、同乗者2人が2箇月間の加療を要する骨折などの負傷

原因
慎太郎・・・船員の常務不遵守(安全な船間距離を保たなかったこと)(主因)
クール・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、慎太郎が、クールとの安全な船間距離を保たなかったことによって発生したが、クールが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月3日12時05分
 広島県広島港
 (北緯34度19.1分 東経132度29.7分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 プレジャーボート慎太郎 プレジャーボートクール
全長 2.89メートル 2.67メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 106キロワット 86キロワット
(2)設備及び性能等
ア 慎太郎
 慎太郎は、E社製のJHT20A型と称する、最大搭載人員2人のウォータージェット推進によるFRP製水上オートバイで、最高速力は毎時約120キロメートル(以下「キロ」という。)となり、船体中央部に備えた操縦ハンドルで船尾ノズルの噴出方向を変えることにより旋回し、同ハンドル右側グリップのスロットルレバーの引き具合により速力調整を行うようになっていた。
イ クール
 クールは、カナダのF社が製造した5848GSX・LTD型と称する、最大搭載人員2人のウォータージェット推進によるFRP製水上オートバイで、最高速力は毎時約80キロとなり、操縦ハンドル後方に操縦者と同乗者用の跨乗式シートが設備され、慎太郎と同様の方法により、旋回及び速力調整を行うようになっていた。

3 事実の経過
 慎太郎は、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、先行したC受審人らと合流して遊走する目的で、ほか2船とともに、平成15年8月3日11時30分広島県広島港に注ぐ太田川右岸の船だまりを発し、同港南東部の観音埼北方にある海水浴場沖合に向かった。
 ところで、海水浴場は、海岸から北西方に突き出した2本のL字型防波堤に挟まれた砂浜で、両防波堤先端の幅約300メートルの開口部は、数メートル間隔に連結された黄色の浮体と、その下部の防護ネットにより外海から遮蔽され、その内側が遊泳場で、外側は水上オートバイなどが集結して遊走する場所となっていた。
 A受審人は、救命胴衣を着用し、停留して船体の点検を行ったりしながら、毎時約60キロの速力(対地速力、以下同じ。)で南東方の目的地に接近し、12時04分少し前防護ネットまで約1、000メートルになったとき、同ネット付近に、C受審人が操縦するクールを初めて視認した。
 A受審人は、防護ネットまで5メートルに接近したところで、速力を毎時6キロに減速して左回りに反転し、12時04分47秒宇品灯台から134度(真方位、以下同じ。)2.3海里にある32メートル山頂(以下「基点」という。)から359度360メートルの地点において、針路を315度に定め、機関を速力が毎時30キロとなるよう増速しながら進行した。
 定針したときA受審人は、右舷船首1度70メートルのところに、前路を左方にかわる態勢のクールと、同船に乗った同乗者2人を認め、同者を見るため接近することとしたが、クールの至近で右に急旋回すれば左舷を対して無難に航過できるものと思い、同船に接触することとならないよう、クールとの安全な船間距離を保つことなく、同じ針路のまま続航した。
 12時04分58秒A受審人は、クールが機関を停止したことに気付かないまま、右舵一杯として急旋回したところ、12時05分宇品灯台から130度2.1海里の地点に当たる、基点から353度410メートルの地点において、慎太郎は、船首が000度を向き、速力が毎時30キロになったとき、その左舷船尾部が、クールの左舷中央部に、クールの後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、クールは、C受審人が1人で乗り組み、友人1人をシート後部に同乗させ、船首尾0.3メートルの等喫水をもって、A受審人らに先行して遊走する目的で、ほか1船とともに、同日10時00分前示の船だまりを発し、前示の海水浴場沖合に向かった。
 C受審人は、10時30分目的地に到着し、その後3海里ばかり南方の海水浴場まで遊走したのち11時30分同所に戻り、防護ネット沖合で他の水上オートバイと遊走していたところ、同ネット中央部付近に女性遊泳者を認め、最大搭載人員超過を承知の上で、同人を自らと同乗者との間に乗せ、着用していた救命胴衣を貸与し、同乗者ともに救命胴衣を着用しないまま、11時50分沖合に向かった。
 C受審人は、付近で遊走を繰り返したのち、12時04分少し前毎時10キロの速力で北北西方に向かっていたとき、船首方約1、000メートル付近に、A受審人が操縦する、南下中の慎太郎ほか2船を視認して反転し、同時04分29秒基点から352度425メートルの地点において、針路を150度に定め、機関を毎時2キロの低速力に減速して進行した。
 12時04分47秒C受審人は、約10メートル前進し、基点から352.5度415メートルの地点に達したとき、左舷船首14度70メートルのところに、防護ネットの手前で反転して北上を開始した慎太郎を視認し、同船が増速しながら自船に向かってくるのを認めたが、至近になれば自船を避けるか停止してくれるものと思い、慎太郎の進路から遠ざかるなど、衝突を避けるための措置をとることなく、同時04分58秒衝突地点で機関を停止した。
 C受審人は、至近に接近した慎太郎が右転を始めたのを認めた直後、クールは、150度に向首したまま、ほぼ行き足がなくなったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、慎太郎は、左舷側外板に擦過傷を、クールは、左舷側外板に擦過傷をそれぞれ生じ、同船の同乗者2人が2箇月間の加療を要する骨折などの負傷をした。

(航法の適用)
 本件は、広島港内で発生したものであるが、港則法に適用できる航法の規定はなく、海上交通安全法は適用されないので、海上衝突予防法(以下、「予防法」という。)により律することになる。
 この場合、事実の経過中に示したとおり、両船間に見合い関係が発生したのは衝突の13秒前で、船間距離が70メートルのときであり、時間的にも距離的にも定型航法が適用される余地はなく、予防法第38及び39条に定める船員の常務によることとなる。

(本件発生に至る事由)
1 慎太郎
(1)A受審人が、クールの至近で右に急旋回すれば左舷を対して無難に航過できるものと思っていたこと
(2)A受審人が、クールとの安全な船間距離を保たなかったこと
2 クール
(1)C受審人が、最大搭載人員を超過して運航していたこと
(2)C受審人が、同乗者1人とともに救命胴衣を着用していなかったこと
(3)C受審人が、慎太郎は至近になれば自船を避けるか停止してくれるものと思っていたこと
(4)C受審人が、慎太郎の進路から遠ざかるなど、衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 慎太郎は、低速力で南下するクールを視認し、同船の同乗者を見るため接近する際、同船に接触することとならないよう、クールとの安全な船間距離を保つことは、周囲の状況や付近海域の広さなどから可能であり、船の長さの3ないし4倍の船間距離を保っていれば、クールが機関を停止しても無難に航過することができたと認められる。よって、A受審人が、クールの至近で右に急旋回すれば左舷を対して無難に航過できるものと思っていたこと及び安全な船間距離を保たなかったことは、本件発生の原因となる。
 他方、クールは、左舷船首方に北上を開始した慎太郎を視認し、同船が増速しながら自船に向かってくるのを認めた際、慎太郎の進路から遠ざかるなど、衝突を避けるための措置をとっていれば、衝突を避けることができたと認められる。よって、C受審人が、慎太郎は至近になれば自船を避けるか停止してくれるものと思っていたこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 クールにおいて、C受審人が、最大搭載人員を超過して運航していたこと及び同乗者1人とともに救命胴衣を着用しなかったことは、いずれも本件衝突に至る過程において関与した事実であり、海難防止の観点から是正されるべき事項である。 

(海難の原因)
 本件衝突は、広島県広島港において、慎太郎とクールの両船が遊走中、増速しながら北上する慎太郎が、クールとの安全な船間距離を保たなかったことによって発生したが、低速力で南下するクールが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、広島県広島港において遊走中、低速力で南下するクールを視認し、同船の同乗者を見るため接近する場合、同船に接触することとならないよう、クールとの安全な船間距離を保つべき注意義務があった。しかるに、同人は、クールの至近で右に急旋回すれば左舷を対して無難に航過できるものと思い、安全な船間距離を保たなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、慎太郎の左舷側外板に擦過傷を、クールの左舷側外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、同船の同乗者2人が2箇月間の加療を要する骨折などの負傷をする事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、広島県広島港において、低速力で南下中、左舷船首方に北上を開始した慎太郎を視認し、同船が増速しながら自船に向けて接近するのを認めた場合、慎太郎の進路から遠ざかるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、至近になれば自船を避けるか停止してくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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