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平成16年神審第50号
件名

貨物船第八盛栄丸押船ちとせ被押バージ大新No.3502衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學、平野浩三、中井 勤)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:第八盛栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:ちとせ二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第八盛栄丸・・・船首部に破口を伴う凹損
バージ大新No.3502・・・右舷中央部を大破

原因
バージ大新No.3502・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第八盛栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、押船ちとせ被押バージ大新No.3502が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八盛栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八盛栄丸が、居眠り運航を防止する措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月21日06時57分
 大阪湾
 (北緯34度30.5分 東経135度16.1分)
 
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第八盛栄丸  
総トン数 460トン  
全長 51.34メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 551キロワット  
船種船名 押船ちとせ バージ大新No.3502
総トン数 195.84トン  
全長 33.30メートル 96.00メートル
機関の種類   ディーゼル機関
出力 1,912キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第八盛栄丸
 第八盛栄丸(以下「盛栄丸」という。)は、昭和63年9月に進水した航海速力約10ノットの、音響信号装置を装備した船尾船橋型鋼製貨物船で、主として大阪湾及び瀬戸内海における砂利の採取及び運搬に従事していた。
イ ちとせ
 ちとせは、昭和49年2月に進水した限定沿海区域を航行区域とする2機2軸の鋼製押船で、バージ大新No.3502(以下「バージ大新」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合して全長約125メートルの押船列(以下「ちとせ押船列」という。)をなし、主として関西国際空港第2期埋立工事の土砂運搬に従事していた。
ウ バージ大新
 バージ大新は、非自航型の底開式土運船で、前示のとおり、ちとせと押船列をなし、同工事の土砂運搬に従事していた。

3 事実の経過
 盛栄丸は、兵庫県家島諸島坊勢島沖での約5日間に渡る停泊を終え、A受審人ほか2人が乗り組み、山砂1,000トンを積載し、船首3.0メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成15年8月21日03時00分同島を発し、大阪府阪南港へ向かった。
 出航後、A受審人は、一旦、降橋して休息を取り、05時20分明石海峡航路西方灯浮標付近で、再び昇橋し、一等航海士と交替して1人で船橋当直に当たった。
 A受審人は、明石海峡航路を通過したのち、05時57分岩屋港北防波堤東灯台から102度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点に達したとき、針路を115度に定め、機関を回転数毎分315の全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、船橋後部右舷側のいすに腰を掛け、自動操舵によって進行した。
 そして、A受審人は、神戸港沖合を東航中、当時、不景気の影響を受けて資金繰りが苦しかったことから、その対策に追われて非常に気疲れしていたことなどに起因して、眠気を催すようになり、いすに腰を掛けた姿勢のまま見張りを行っていると、居眠りに陥るおそれがある状況となったが、停泊中にゆっくり休養を取ったつもりであったことから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、いすから立ち上がって歩き回るなり、他の乗組員を呼んで2人で当直するなりして、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、06時54分阪南港北防波堤灯台から298.5度4.5海里の地点に至ったとき、左舷船首29度950メートルのところに、ちとせ押船列を視認でき、やがて、同押船列が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、既に居眠りに陥っていたので、その存在に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中、06時57分阪南港北防波堤灯台から299度4.0海里の地点において、盛栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、ちとせ押船列バージ大新の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、ちとせは、B受審人ほか5人が乗り組み、山砂4,000トンを積載したバージ大新と前示のとおり押船列をなし、ちとせは船首2.0メートル船尾3.2メートル、バージ大新は船首3.9メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年8月21日04時50分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、関西国際空港第2期工事が施行されている埋立海域へ向かった。
 出港後、B受審人は、船長補佐として同人とともに船橋当直を行い、船舶が輻輳する大阪湾を南下したところ、06時40分阪南港北防波堤灯台から315度4.6海里地点付近に達したとき、船長が朝食をとるために降橋したことから、その後、1人で船橋当直に当たり、06時54分同灯台から302度4.1海里の地点に至ったとき、針路を195度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.0ノットの速力で、手動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき、B受審人は、右舷船首71度950メートルのところに、盛栄丸を視認でき、やがて、同船が前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、折悪しく、船首方で操業していた数隻の漁船に気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、その存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、前路を左方に横切る態勢で接近する盛栄丸に気付かないまま、その進路を避けることなく続航中、06時57分少し前至近に迫った同船に気付いたものの、どうすることもできず、ちとせ押船列は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、盛栄丸は、船首部に破口を伴う凹損を生じ、ちとせ押船列は、バージ大新の右舷中央部を大破した。

(航法の適用)
 本件は、大阪湾において、東航中の盛栄丸と南下中のちとせ押船列が、互いに進路を横切る態勢で衝突したものであり、以下、適用される航法について検討する。
 盛栄丸は、一般的な貨物船であることから、動力船であることを疑う余地はない。他方、ちとせ押船列は、ちとせが4,000トンの山砂を積載したバージ大新と押船列をなし、これを押していたものであるが、その操縦性能に関しては特に制限を受ける要素がないことから、盛栄丸と同じく、同押船列も動力船と認められる。よって、海上衝突予防法第15条横切り船の航法をもって律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 盛栄丸
(1)A受審人が、いすに腰を掛けた姿勢で見張りに当たっていたこと
(2)A受審人が、気疲れから眠気を催したものの、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったこと
(3)A受審人が、いつしか居眠りに陥り、居眠り運航となったこと
2 ちとせ押船列
 B受審人が、船首方の漁船に気を取られて、見張りを十分に行っていなかったこと

(原因の考察)
 盛栄丸は、大阪湾において、阪南港へ向けて東航中、1人で船橋当直に当たっていた船長が、眠気を催した場合、急激に居眠りに陥るような強い眠気ではなかったのであるから、同人自らの判断で居眠り運航を防止する措置をとることは可能であったものと認められる。
 従って、A受審人が、眠気を催したとき、いすから立ち上がって歩き回るなり、他の乗組員を呼んで2人で当直するなりすることなく、居眠り運航を防止する措置を十分にとらないまま続航して、いつしか居眠りに陥ったことは、本件発生の原因となる。
 一方、ちとせ押船列は、尼崎西宮芦屋港を出港後、関西国際空港第2期工事埋立海域へ向けて南下中、1人で船橋当直に当たっていた二等航海士が、船首方で操業していた数隻の漁船を認めた場合、それらの動きに気を取られることなく、見張りを十分に行っていれば、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する盛栄丸を見付けることは、容易であったものと認められる。
 従って、B受審人が、船首方の漁船に気を取られ、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 

(海難の原因)
 本件衝突は、大阪湾において、南下中のちとせ押船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る盛栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東航中の盛栄丸が、居眠り運航を防止する措置が不十分で、船橋当直者が居眠りに陥り、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、大阪湾において、尼崎西宮芦屋港から関西国際空港第2期工事埋立海域へ向けて南下する場合、同湾は船舶が輻輳する海域であることから、接近する他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船首方で操業していた数隻の漁船に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する盛栄丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船押船列バージ大新の右舷中央部を大破させるとともに、盛栄丸の船首部に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、大阪湾において、1人で船橋当直に当たり、いすに腰を掛けた姿勢で神戸港沖合を阪南港へ向けて東航中、眠気を催した場合、そのままでは居眠りに陥るおそれがあったことから、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって歩き回るなり、他の乗組員を呼んで2人で当直するなりして居眠り運航を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、発航前の停泊中にゆっくり休養を取ったつもりであったことから、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、衝突のおそれがある態勢で接近するちとせ押船列に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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