日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年神審第56号
件名

モーターボート孝和IIIモーターボートたむら衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本 學)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:孝和III船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
孝和III・・・船底に擦過傷
たむら・・・浸水して沈没

原因
孝和III・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、潮のぼりを始めた孝和IIIが、見張り不十分で、漂泊中のたむらに、旋回しながら向首するように進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月27日13時30分
 播磨灘高蔵瀬付近
 
2 船舶の要目
船種船名 モーターボート孝和III モーターボートたむら
登録長 10.91メートル 7.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 95キロワット

3 事実の経過
 孝和III(以下「孝和」という。)は、船体中央部に操縦室を有するFRP製モーターボートで平成14年1月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、娘と友人の計2人を乗せ、はまち釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年10月27日09時00分兵庫県東播磨港を発し、播磨灘高蔵瀬付近の釣り場へ向かった。
 A受審人は、釣り場に到着するまでに釣り餌を調達する必要があったので、09時10分東播磨港の港界付近で活き餌となるあじ釣りを始めたものの、正午近くになっても思うように釣れなかったことから、一旦、休憩して昼食を済ませ、12時30分同県上島東方に移動して、再度、あじ釣りを行い、必要数を確保したのち、13時00分高蔵瀬付近に至り、機関を中立運転として漂泊を開始した。
 しばらくして、A受審人は、潮流の影響によって東方に流される状況となったので、10分ほど流されたならば機関を前進にかけて約20ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で潮のぼりを行い、適宜、船位を修正しながら釣りを続けたところ、当日は、遊漁船などが少ない平日であったうえ、遠方にたむらを含めた2隻の釣り船を認めたのみであったことから、自船の近くに危険な他船はいないものと思い、その後、釣りに熱中する余り、見張りを十分に行わなかったので、いつの間にか、たむらが自船の西方50ないし60メートルの地点まで近づき、同地点で漂泊を始めたことに気付かなかった。
 こうして、13時30分少し前A受審人は、北方を向いて漂泊していた態勢から、中立運転としていた機関のクラッチを前進に入れて潮のぼりを始めたとき、依然として、自船の近くに危険な他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかったので、前示地点で漂泊を始めたたむらに気付かず、同船に向首するように左旋回しながら進行中、13時30分江井ケ島港西防波堤灯台から213度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点において、孝和は、270度を向いたとき、約20ノットの速力で、その船首が、たむらの右舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、たむらは、FRP製モーターボートで平成15年7月に交付された一級小型船舶操縦士(5トン限定)・特殊小型船舶操縦士免状を有する船長Bが1人で乗り組み、友人1人を乗せ、孝和と同じく、はまち釣りの目的で、船首尾とも0.5メートルの等喫水をもって、同年10月27日08時00分東播磨港を発し、高蔵瀬付近の釣り場へ向かった。
 08時30分B船長は、同瀬付近に至り、機関を中立運転として漂泊を始め、適宜、潮のぼりを繰り返しながら釣りをしていたところ、13時30分少し前船首を北方に向けて漂泊中、自船の東方50ないし60メートルの地点において停止状態で釣りをしていた孝和が、突然、動き出し、自船に向首するように左旋回しながら接近する状況となったが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、孝和は船底に擦過傷を生じ、たむらは浸水して沈没した。 

(原因)
 本件衝突は、播磨灘高蔵瀬付近において、潮のぼりを始めた孝和が、見張り不十分で、左舷側で漂泊中のたむらに、左旋回しながら向首するように進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、播磨灘高蔵瀬付近において、釣りのため漂泊中、潮のぼりを始める場合、遠方にたむらを含めた2隻の釣り船を認めていたのであるから、それらと著しく接近することがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、当該2隻の他に釣り船などを全く見掛けなかったことから、自船の近くに危険な他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、いつの間にか、たむらが西方50ないし60メートルのところまで接近して漂泊を始めたことに気付かず、同船に、左旋回しながら向首するように進行して衝突を招き、自船の船底に擦過傷を生じさせるとともに、たむらを沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION