(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月2日03時30分
愛知県伊良湖水道
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船玄海丸 |
漁船宮宝丸 |
総トン数 |
11.0トン |
7.9トン |
登録長 |
17.00メートル |
13.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
120 |
3 事実の経過
玄海丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が汽笛を装備しないまま単独で乗り組み、底引き網漁の目的で、船首0.1メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年10月1日16時00分愛知県一色漁港を発し、渥美半島南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、漁場に至って操業を始め、8回目の曳網(えいもう)を終えて車えび等200キログラムほどを漁獲したところで帰航することとし、翌2日02時30分ごろ漁場を発進し、成規の灯火を掲げ、神島の南東方2海里付近から伊良湖水道航路を横切る進路で北上して同航路を出たのち、03時28分伊良湖岬灯台から205度(真方位、以下同じ。)1、550メートルの地点で、針路を009度に定め、機関を全速力前進にかけて19.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、船首方800メートル付近から北方にかけて帯状に続く約100隻の漁船群が前路を右方に横切る態勢で南下し、その最後方付近の左舷船首9度1,610メートルに宮宝丸のマスト灯及び右舷灯を認め、そのままの針路で進行すれば、同船を左舷方に見て無難に航過するものの、前示漁船群の一部と衝突の危険が生じ、針路、速力を保持することが困難と判断してそれらの航過を待つこととした。
03時29分A受審人は、前示漁船群のうち船首方至近に迫った第三船との衝突を避けるために手動操舵に切り替えて減速し、03時29分少し過ぎ伊良湖岬灯台から220度850メートルの地点で、機関を止めて停留したとき、左舷船首17度330メートルとなった宮宝丸の両舷灯を認め、同船が自船に向首し、衝突の危険が生じたことを知ったが、自船は停留しているから宮宝丸が避けるものと思い、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、さらに同船が接近しても機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく停留を続け、03時30分伊良湖岬灯台から220度850メートルの地点において、玄海丸は、050度を向首した状態のとき、その左舷中央部に宮宝丸の船首が前方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、視界は良好で、付近には微弱な北西流があった。
また、宮宝丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか3人が乗り組み、ふぐ延え縄漁の目的で、船首尾とも1.0メートルの等喫水をもって、同日03時00分愛知県篠島港を発し、渥美半島南方沖合の漁場に向かった。
ところで、宮宝丸は、操舵室前面に3枚の窓ガラスがあり、幅約15センチメートルの窓枠によって操舵位置からの見通しが一部妨げられるので、身体を左右に動かすなどの死角を補う見張りが必要であった。
B受審人は、成規の灯火を掲げ、漁場に向かう約100隻の漁船群とともに伊良湖水道に向けて南下し、03時08分尾張野島灯台から283度1,100メートルの地点で、針路を172度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
03時28分B受審人は、前示漁船群の最後方付近につけて伊良湖岬灯台から287度700メートルの地点に達したとき、右舷船首8度1,610メートルのところに、前路を左方に横切り無難に航過する態勢の玄海丸の灯火を視認できる状況であったものの、身体を左右に動かすなどして死角を補い、見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かずに続航した。
その後、B受審人は、玄海丸が死角の範囲から外れて視認できるようになり、同船が前示漁船群中至近に迫った第三船との衝突を避けるために減速し、03時29分少し過ぎ正船首方330メートルのところで停留したことから、玄海丸に向首し衝突の危険が生じていたが、前路に同航漁船以外に支障となる他船はいないものと思い、左舷方の同航漁船に気を取られて玄海丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく続航中、03時30分わずか前目前に玄海丸を認め、急ぎ機関を中立としたが及ばず、宮宝丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、玄海丸は、左舷ブルワーク及び操舵室を圧壊し、宮宝丸は、船首部及び右舷ブルワークに亀裂等を生じたが、のちいずれも修理され、A受審人が約2箇月の入院加療を要する左大腿骨顆部骨折、左膝内側靭帯損傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、伊良湖水道において、漁船群の最後方付近から南下する宮宝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、同漁船群中の第三船との衝突を避けるために近距離で停留した玄海丸が、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、伊良湖水道において、漁船群の最後方付近から南下して漁場に向かう場合、操舵室前面の窓枠によって操舵位置からの見通しが一部妨げられていたから、船首方の玄海丸を見落とすことのないよう、死角を補い、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に同航漁船以外に支障となる他船はいないものと思い、死角を補い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、玄海丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、同船の左舷ブルワーク及び操舵室に圧壊を、宮宝丸の船首部及び右舷ブルワークに亀裂等をそれぞれ生じさせ、A受審人に約2箇月の入院加療を要する左大腿骨顆部骨折等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、伊良湖水道において、前路を右方に横切る漁船群中の第三船との衝突を避けるために停留し、宮宝丸が自船に向首し衝突の危険が生じたことを知った場合、機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は停留しているから宮宝丸が避けるものと思い、機関を始動して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。